2024年12月20日、ソフトバンクは、トラッキング技術を活用した水中光無線通信と衛星通信を組み合わせることにより、東京都港区のソフトバンク本社から南極(昭和基地の南方約55kmに位置するスカルブスネス・鳥の巣湾)の海氷下を移動する水中ロボットを、リアルタイムで遠隔制御する実証実験に成功したことを発表した。

 この実証実験は、国立極地研究所の協力のもと、第65次南極地域観測隊による観測事業の一般研究観測課題「マルチスケールのペンギン行動・環境観測で探る南極沿岸の海洋生態系動態」の一環として実施したもの。

 この実験により、日本の技術者や研究者などが南極に出向くことなく、遠隔で海中を調査できるシステムが将来的に構築可能であることを証明した。このシステムを実用化することで、南極や北極といった極域における資源調査・学術調査の進展が期待される。

 ソフトバンクは今後、自律型水面航行ロボット(ASV:Autonomous Surface Vehicle)と組み合わせて活動範囲や水中ロボットの同時制御可能台数を拡張した、より実用的な遠隔制御システムによるサンプル回収・分析などの研究を進める方針だ。また、この技術を応用した、日本近海における水中での測位や水中無線コミュニケーションが可能な水中ロボットおよび産業ダイバー向けソリューションを開発し、2026年度の商用化を目指す。

写真:流氷が浮かぶ海の中を移動する2台の水中ロボット
実験ポイントまで移動する2台の水中ロボット

 近年、地球温暖化などによる自然環境の変化が進む中で、極域における環境や生態系の学術調査、資源利用や航路開発調査の重要性が増している。一般的に南極での海中調査は、技術者や研究者自身が現地に赴き、有線接続した水中航走体(ROV:Remotely Operated Vehicle)を使って、海中の映像のモニタリングやデータ計測・サンプル回収などを行っている。これには多大な時間とコストがかかるほか、過酷な環境である沿岸の調査ポイントに長期滞在しなければならず、効率性や持続可能性に課題がある。

 ソフトバンクは、日本にいながら遠隔地から海中を調査できるシステムの構築の可能性を検証するため、2023年3月に発表した、光の明滅を信号に変換する技術であるOCC(Optical Camera Communication)とNTN(Non-Terrestrial Network、非地上系ネットワーク)を組み合わせた水中ロボットの遠隔リアルタイム制御システムを改良し、南極で実証実験を行った。

実証実験について

 ソフトバンクは、OCCとNTNを活用し、2台の水中ロボット間で水中光無線通信を行うシステムを開発。このシステムでは、LEDの光の明滅をカメラで撮影し、画像処理を用いたトラッキング技術で光を検出・追従することで、光の輝度変化をデジタル信号に変換し、リアルタイムな通信を行う。これにより、水中ロボットが互いに協調動作を行うための指示やデータを迅速かつ確実に送受信する。

 このシステムには、親機となる水中ロボットとNTNで接続することで遠隔地からコマンドを送る機能があり、離れた場所にいるオペレーターが海洋で動作している水中ロボットに対して指示を出すことができる。また水中ロボットは、搭載した各種センサーから得た情報を収集し、そのデータや水中ロボットの動作状況を遠隔地のオペレーターに送信することも可能。例えば、水温や水圧などのセンサー情報を取得し、そのデータを衛星通信などのNTNを通して即座に共有できるため、オペレーターはリアルタイムで海洋環境の状況を把握し、迅速な意思決定を行うことができる。

 この技術を活用した実証実験により、南極の海中を移動する水中ロボットを約1万4,000km離れた日本からリアルタイムで遠隔制御し、水中ロボットに搭載した水温や水圧などのセンサー情報をモニタリングすることに成功。また、水温が約-2℃まで低下し、海氷に閉ざされていて音響通信の活用が難しい南極の海氷下においても、水中ロボットや機器をリアルタイムで遠隔制御するとともに、水中ロボットからのデータの収集や観測などを遠隔で実行できることを確認した。

制御実験の全体概要図
NTNとOCCによる水中ロボットの制御実験のイメージ図