2023年12月20日、ソフトバンクは、成層圏から通信サービスを提供するプラットフォーム「HAPS(High Altitude Platform Station)」向けのシリンダーアンテナを用いて、2023年9月に北海道の大樹町多目的航空公園で実証実験を行い、HAPSでカバーする通信エリア全体の通信容量などを最大化するエリア最適化技術の実証に成功したことを発表した。実証実験では、同社が開発した5G(第5世代移動通信システム)に対応したシリンダーアンテナを活用した。

 実証実験の一部は、2022年に情報通信研究機構(NICT)の「Beyond 5G 研究開発促進事業」の委託研究課題として採択された、「上空プラットフォームにおけるCPS(サイバーフィジカルシステム)を活用した動的エリア最適化技術」に基づくものとなる。

 エリア最適化技術は、HAPSで大容量かつ高品質の通信ネットワークを実現するために不可欠である。ソフトバンクが開発を進めるHAPS用の無人航空機「Sunglider(サングライダー)」は、1機で直径最大200kmの広域なエリアをカバーするが、単位面積当たりの通信容量を改善するには、通信エリア内を複数のセル(ビーム)でカバーする必要がある。人口密集地や人が少ない山間部など、通信エリア内でも場所によって通信量が異なるため、同社はHAPSと通信デバイスとの間でデータの送受信を担う「サービスリンク」向けのアンテナとして、シリンダーアンテナの活用を検討している。デジタルビームフォーミング技術(※1)によるビーム形成および方向制御により、地上のユーザー分布などの情報から人口密度やトラフィックが高いエリアにビームを集中させる、エリア最適化技術の開発に取り組んでいる。これにより、通信エリア内におけるニーズに応じて最適化を行うことで、通信容量の最大化などを実現する。

※1 デジタル制御により送受信信号の振幅や位相を制御することで、電波を特定の方向に集中させて送受信する技術。

エリア最適化技術

 実証実験では、高所作業車に搭載したシリンダーアンテナにより形成される通信エリア内の通信品質を測定することで、ユーザーの位置に応じて変化したセルの配置を確認した。また、ユーザー分布の情報を把握するために、一例として通信デバイスの個別の位置情報を使用して、水平面内の6つのセルの方向およびビーム幅の最適化計算を行い、その結果に基づいてシリンダーアンテナによるビーム制御を行った。このビーム制御を定期的に行うことで、時間帯によって変化するユーザー分布に応じた動的制御も可能になる。

 実証実験の結果、通信デバイスの位置に基づいてエリア最適化技術を適用した場合に、各通信デバイスの方向に対して適切にビームが向き、各ビームの受信信号レベルが理論値通りになった。この結果、セルの配置をニーズに応じて最適に制御することが屋外環境でも可能であることや、これまで検討してきたHAPSのエリア最適化技術の実現性と有効性を確認した。

 ソフトバンクは今後、今回得たノウハウやデータをもとに、HAPSの実用化および通信ネットワークの高度化を進めるとしている。

システム構成と実証実験の様子
実証実験の結果の一例