2023年12月7日、JFE商事エレクトロニクスは、大阪大学と共同で、ミリ波レーダ(※1)技術を使用した非接触・非破壊による建造物外壁内部欠陥の検出実験に成功したことを発表した。2021年に続き2回目となる今回の実験では、ミリ波レーダを小型軽量化し、1点あたりの測定時間を1/1000以下の1ミリ秒で検出することができた。

 マンション・オフィスビルなどの外壁点検は打診や目視による調査が主流で、ドローン等を活用した高精度カメラや赤外線による調査も可能となったが、内部欠陥を可視化できないため測定結果の信頼性に課題があった。

 JFE商事エレクトロニクスと大阪大学は、物質に対して透過能力を持つマイクロ波・ミリ波を用いた新たな点検方法の開発に取り組み、2021年に発表した第1号機は、煙突内壁のライニング材の肉厚を非接触・非破壊で透視。今回の実験ではレーダ部分を技術改良し、建築物外壁の内部欠陥を直接可視化することができた。

※1 ミリ波レーダ:ミリ波とは波長がmm単位となる30GHz~300GHz帯の電波。ミリ波を対象物に照射してセンシングを行う機器がミリ波レーダであり、対象物の距離や角度といった位置情報、対象物との相対速度を計測することができる。

 第1号機からの改善点は「重量」「感度」「測定時間」の3つ。

1300gあったミリ波レーダ部の重量を435gに軽量化し、小型ドローンでの運用が可能となった。

一般的にドローンは、大型化するほど浮上するために必要な揚力が大きくなる。そのため、大型ドローンは外壁に接近すると風の影響で飛行が安定しない。一方、小型ドローンは揚力が小さいため、ミリ波レーダのアンテナ部を壁面10~30cm程度まで近づけて、内部欠陥をより高感度に検出できる。

1点あたり数秒かかっていた測定時間を1000分の1以下の1ミリ秒に短縮し、より精密な測定が可能となった。

ミリ波レーダについて

 今回使用したミリ波レーダは光通信技術を活用したもので、電波の周波数差分から外壁内部の欠陥位置を把握する。

 光通信波長帯で、2つの異なる波長の光信号を発生させ、光ファイバで伝送して光電変換器により電気信号化する。これにより2つの光信号の波長差に対応した周波数の電波を発生させる。周波数を変えながら対象物に照射し、反射して戻ってきた電波と元の電波との振幅位相関係を計算することで、外壁内部の欠陥位置を把握する。

モルタルやタイル内部の欠陥をレーダーで検知

 今回の実証実験では、4GHz~40GHzの周波数範囲を高速で変化させる技術を新たに開発した。これにより、1点あたり1ミリ秒以下でレーダ照射したポイントの欠陥情報の取得が可能となった。

 ドローンのペイロード(搭載機器)は、光電変換器、レーダ回路、アンテナ(送受信用)のみ。光信号の発生や信号処理を行うための制御機器は地上に設置し、ドローンと軽量の光ファイバケーブルと低周波電気信号ケーブルでつなぐことで大幅に軽量化した。

ドローンを活用した非破壊検査の仕組み(イメージ図)

 JFE商事エレクトロニクスは、ミリ波レーダを搭載したドローンやロボットを建築物に対して2次元平面で広域走査するための技術開発、構造物やインフラ設備の診断への実利用化を進めるとしている。