2023年11月13日、大林組とトップライズは共同で、トンネル坑内の非GNSS(※1)環境下において、作業中の人や重機といった動的障害物を回避しながら自律飛行するドローンを開発し、世界で初めて(※2)実証試験に成功したと発表した。

※1 GNSS(Global Navigation Satellite System)。人工衛星を使用して地上の現在位置を計測する衛星測位システムのうち、全地球を測位対象としたもの。GPSはGNSSの一種。
※2「トンネル坑内で動的障害物を回避し、自律飛行するドローン」として世界初。大林組調べ(2023年10月)。

切羽直下での目視確認は崩落リスクを伴う

 トンネル掘削工事では、掘削が計画通りに進んでいるかの確認を切羽直下で目視により行うが、切羽付近は崩落のリスクがあるため、作業員が危険区域に立ち入ることなく確認できるようスキャナ等を用いた計測の開発が進んでいる。しかし、地上型スキャナはトンネル坑内の状況によって、切羽付近まで進入できないため計測精度が落ちるという。また、ドローンにスキャナを搭載する場合は、飛行ルート上に人や重機が入れないため、目視での確認よりも時間を要することが課題だった。

非GNSS環境下で動的障害物を回避しながら自律飛行するドローン

 今回両社は、非GNSS環境下で動的障害物を回避しながら自律飛行するドローンを、カーネギーメロン大学機械工学科の嶋田憲司教授が主宰する、計算工学・ロボティクス研究室(CERLAB: Computational Engineering and Robotics Lab)の協力を得て開発した。

 このドローンは、トンネル坑内で作業中の人や重機を回避しながら掘削形状を計測し、計測結果と設計値を比較して、掘削不足箇所を重機オペレーターに指示する。

 今回、実際のトンネル坑内で実証試験を行い、人や重機が動いている環境で切羽直前まで近づき、迅速かつ十分な精度で計測を行えることを確認した。

実証実験で使用したドローン

技術の特長

動的障害物を回避した飛行ルートを自動生成

 ドローンには、撮影した対象物の距離と色を認識するセンサー付きカメラが搭載されており、センサーで検知した物体を独自のアルゴリズムにより、動的障害物かどうかを判別する。また、カメラから取得した情報はドローンに搭載されたコンピュータ上で処理され、リアルタイムでトンネル坑内の3次元地図を生成するため、非GNSS環境下での自律飛行が可能となる。これらの機能により、動的障害物を回避しつつ、目的地への最適飛行ルートを自動生成することができる。

実証試験でのドローンのルート作成状況

掘削が不足している箇所を重機オペレーターに指示

 通常、掘削不足箇所の確認は切羽直下で作業員が目視で行い、レーザーポインターを用いて重機オペレーターへ指示する。本ドローンは、撮影したカメラ画像をSfM解析(※3)して掘削形状を計測する。そして計測結果をもとに設計値と実際の掘削形状を比較し、可視化することで重機オペレーターに掘削不足箇所を指示する。これにより切羽付近への作業員の立ち入りが不要となり、重機オペレーターは画面上で掘削箇所と形状を確認しながら作業ができるため、安全性・生産性・施工精度が向上する。

※3 SfM(Structure from Motion)解析。複数枚の写真から3次元の形状を復元し、3次元点群を取得する技術。

掘削不足箇所表示の例

建設業以外での活用も視野に入れ、実用化を目指す

 両社は、2023年度中にカーネギーメロン大学からプログラミングや操作の技術移転を受ける予定であり、今後、さまざまな状況下での実証実験を重ねながら、自律飛行ドローンの実用化を目指す。

 今回開発した動的障害物を回避しながら自動的に飛行ルートを生成する機能は、トンネルの掘削形状を計測する目的以外でも広く活用が見込めることから、他工種や建設業以外での活用も視野に入れて開発を進めるとしている。