2023年7月4日、洋上風力発電所の開発などを手掛けるデンマークのオーステッドは、洋上の気象・海象観測向けの無人水上船舶(USV)を設計・開発したことを発表した。測定したデータを用いて、洋上風力発電所の年間エネルギー生産における予測精度を向上させるとしている。

 このUSVコンセプトの特許権を取得した同社は、プロトタイプUSVに基づき継続的な生産を開始した。

 プロトタイプUSV「Hugin USV」は、過酷な洋上条件下でも1年間連続運転できるように設計されている。ナビゲーションシステムにより、さまざまな自律レベルで航行することが可能。また、見通し線内または見通し線外の両方の遠隔制御センターで制御ができる。

 USVは汎用センサープラットフォームとして設計され、特に風況、海底の状態、生物学的および生態学的測定値などの大量のデータを収集する。収集した観測データは、洋上風力発電所建設前の初期の開発業務にとって非常に重要だという。

 プロトタイプUSVの設計、開発、造船、試験は、オーステッドのイノベーションプログラムの一環として、選ばれた業界パートナーと連携して実施。デンマークの造船会社Tuco Marine Groupが建造し、USV制御システムはノルウェーのMaritime Robotics Asが提供した。

気象・海象観測
・LiDAR風力資源評価
・波および潮流のモニタリング
環境許認可
・鳥類の調査およびモニタリング
・海洋哺乳類の観察

 プログラムマネージャー兼USVのコンセプトの共同開発者 Frederik Søndergaard Hansen氏は、次のように述べている。

「USVのコンセプトの特別な点は、大型の特殊な支援船の必要なく洋上の現場とやり取りする測定機器を導入でき、現場で、長期間自律的に動作し、リアルタイムに陸上へ送信され大量のデータを測定できることです。USVのコンセプトにより、新設の洋上風力発電所の年間エネルギー生産量予測の確実性を高めるのに不可欠な、データの高可用性を一貫して得ることができます。
 オーステッドにより開発されたUSVのコンセプトには、洋上現場まで測定機器運搬用の支援船を必要とする従来のソリューションを超えたいくつかのメリットがあります。オーステッドのUSVは、洋上技術者のリスクを削減して安全性を高め、二酸化炭素排出量を大幅に削減し、波の高い海況でも安全に稼働できるため、作業の幅を広げることができます」

 USVコンセプトは、洋上測定活動を実施するコストを大幅に削減する一方、USVを内部所有して運用することで同社に高い柔軟性をもたらすという。Hugin USVは、デンマークとノルウェーの海域でテストを行い、北海で波が最大9mに達するハリケーンの条件下で運用された。国際的に正式認可されたノルウェー船級協会「Det Norske Veritas」(DNV)により浮体式LiDARシステムとして認証されており、風力発電所の開発に関連する商業運用に使用できる。

「自律船舶は、オーステッドのイノベーション方法論の良い実例です。最初に、業界内の大きな流れを調べます。業界では、高品質な風速測定値と環境データを可能な限り最速で取得することが課題です。その後、デモ、テスト市場導入、商業規模の製品の市場投入という3段階の方策を適用します。つまり、小さく始めてコンセプトを実証してから、強力なパートナーシップによる連携、財政的支援、マクロ経済の潮流への逆行を通じて、広範な社内プロジェクト管理の経験と体系的な問題解決の考え方に基づき、粘り強く取り組んでいます」と、オーステッドのイノベーション部門長Jacob Edmonds氏は述べている。

 結果は良好で、同社は新しいクラスのUSVの連続生産を開始している。新USVには、プロトタイプから得た成果を組み込み、将来的な浮体式風力発電所向けの深海での運用を含め、運用能力をさらに拡大している。新USVは、プロトタイプと同様Tuco Marine Groupがデンマークで建設し、制御システムはMaritime Roboticsが手がけている。2023年末までに5艘を製造予定だ。

<技術仕様>

全般長さ×幅×高さ900cm×227cm×400cm
喫水0.8m
乾燥重量6.8T(燃料満載時)
船体材料GRP建材
推進力Twin Mercury 130h.p