2023年6月21日、DATAFLUCTは、デジタル庁が企図するデジタルツイン社会実装を促進することを目的とした「デジタルツイン構築に関する調査研究」において竹中工務店が実施した「地図・GIS実証担当③(BIMデータ連携サイバーフィジカルシステム)」に参加し、デジタル庁Webサイトでその内容が公開されたことを発表した。

 非構造化データの構造化に強みを持つ同社のデータ基盤サービス「AirLake」を活用した同実証では、「空間ID」の実装によって建物内の混雑エリアの予測や、建物内の特定エリアにどのような属性の人がいるかの把握が可能となり、その結果を「掃除や配達を行うロボットの走行ルート決定」や「エリアに最適なデジタルサイネージ広告を表示する」などに活用できる可能性が示された。

 建物の情報や障害物の位置など「空間に関わる情報」は、3次元の情報のためデータ量が大きくなる。データ量が多く複雑なデータを処理するには、高度な技術とそれを実現するための大きなコストが必要となる。また、データ連携が難しいことや遅延が発生しやすいことから、他の事業者との連携やスピーディーなサービスの提供が難しくなる。そのため、現在は貴重なデータやアプリケーション開発が一部のプラットフォーマーが提供する基盤に偏重している状態だという。

 経済産業省とデジタル庁は、この課題への対応として空間IDの規格整備を進めている。空間IDでは、空間をボックス状に切り分けた「空間ボクセル」を定義し、各種の情報を簡易化して空間ボクセルに紐付けることで、複数種の情報を統合して取り扱いを容易にすることを目指している。

 たとえば「このボクセル内は障害物があるので掘削できない」「このボクセル内には現在樹木が生えているのでドローンは飛行できない」など、鮮度の高いさまざまな空間情報を高速に結合できたり、簡単に検索できるようになり、空間やモビリティ分野のデータ活用を進められる可能性がある。

「デジタルツイン構築に関する調査研究」および実証について

 デジタル庁は、経済産業省や国土交通省など関係省庁と連携し、自動運転車やドローン、自動配送ロボット等の自律移動モビリティの運行に必要な地図・インフラ設備等を効率的に整備するため、さまざまな空間情報をデジタル化し、機械可読なかたちで流通可能なデジタルツイン構築を企図している。

「デジタルツイン構築に関する調査研究」は、デジタルツイン実現の基盤となる3次元空間情報に必要な仕様や整備手法、実証用システムの開発等に関する検討を行うことで、デジタル庁が企図するデジタルツイン社会実装を促進することを目的としている。

 同取り組みでは空間IDの概念を実装し、竹中工務店が実施した「地図・GIS実証担当③(BIMデータ連携サイバーフィジカルシステム)」において、以下の3つの項目を開発した。

1. 建物空間ID分析基盤(BSAP)
ボクセル化した建物データ(形状・属性・設備)の格納
ToFセンサー(※1)から取得する人流データを用いた混雑情報の予測モデルの作成
上記建物データのボクセルIDを空間IDに変換

2. ロボット走行の最適化ロジック
建物形状(物理的な障害物)と人流データ(論理的な障害物)を元にロボット走行の最適化

3. 広告価値算定ロジックの適用
ToFセンサーから取得した人流データを用いて、ボクセルごとの注目度を算出し、空間ごとの持つ広告価値を分析

※1 ToFセンサー:光が対象物から反射して返ってくる時間をもとに距離を測定するセンサー。

DATAFLUCTが実施した内容

 DATAFLUCTは、竹中工務店のビルOS「ビルコミ」で取得したコモングラウンド・リビングラボのデータおよびBIMデータを活用し、空間ID変換・データ分析・分析結果の外部データ基盤連携(同実証では、ダイナミックマッププラットフォームのデータ基盤)の3つの施策を行った。

1. 建物空間ID分析基盤(BSAP)の構築
 竹中工務店のビルOSであるビルコミから、屋内外に設置されているToFやLiDAR(※2)などのIoTセンサーを取得し、空間IDに紐づけて屋内外の建物の様子を建物空間ID分析基盤(BSAP)に登録。

2. モートンオーダーのボクセル座標系の空間IDへの変換
 取得後のIoTセンサー値を同実証においてはローカルのボクセル座標系においてモートンオーダー(※3)を活用した。モートンオーダーを活用することでビット演算(※4)が行えるため、後工程の混雑度予測で簡易にボクセルサイズを変換しながら検証することができる。

3. 人流データの混雑予測モデル
 変換後のIoTセンサー値やセンサー値を解析した統計値をもとに、混雑度予測を実施。空間の特徴を空間IDごとに保持させることで、人が混雑しやすい空間の特徴が抽出され、個別のボクセルごとに作成するモデルよりも汎用性のあるモデルで行った混雑予測の方が高い精度で混雑予測を実現した。

※2 LiDAR:対象物にレーザー光を照射し、その反射光を受信することで距離や形などを計測するセンサー技術。
※3 モートンオーダー:3次元空間を分割する方法のひとつ。
※4 ビット演算:主にコンピュータで行われる演算のひとつ。2進数(0か1)のビット単位で計算する。

DATAFLUCTが作成した混雑度予測情報をもとにARビュアーで可視化しているイメージ(ホロラボ社提供)出典:「デジタルツイン構築に関する調査研究調査報告書」(4.3-33)

 同社のデータ基盤サービスAirLakeは、非構造化データを構造化する機能が充実しているため、空間IDへの変換を行い、効率的なキーの検索や結合を必要とする同検証に効果的だったという。

 また、分析結果をビジネスに活用するには、ロボット管理や広告管理を行う他の事業者とデータを連携する必要がある。AirLakeは顧客のデータを活用しやすい形に変換できるため、シームレスなデータ連携を実現した。

 今後同社は、空間IDをはじめとしたデジタルツイン領域にAirLakeを活用することを目指すとしている。