2023年5月15日、日本電信電話(以下、NTT)は、風力発電風車の無停止点検を可能とする技術の実証実験を開始したことを発表した。

 点検対象構造物を挟み込む形で飛行させた2機のドローン間において、微弱無線の送受信を行い、その受信信号の変化を解析することで、フレネルゾーン(※1)内の点検対象構造物の損傷有無を検知する。

 従来は風車を停止して点検を行っていたため発電効率が低下していたが、同技術により発電効率の向上が期待される。

※1 フレネルゾーン:無線送受信の距離と周波数によって決まる無線が伝搬する空間。

技術の活用イメージ

 2050年カーボンニュートラル実現や日本国内のエネルギー自給率向上に向けて、再生可能エネルギーのひとつである洋上風力発電が将来の主力電力として期待されている。政府が掲げる導入目標を達成するには、2040年時点で約3,600基(※2)の洋上風力発電風車を日本沿岸に建設することになり、アクセスや作業が困難な環境条件から保守運用効率化も課題になる。また洋上風力発電の想定設備利用率(※3)は30%であり(※4)、その向上も課題だという。

※2 再エネ海域利用法に基づく促進区域指定「ラウンド1」の1.26万kW/基を元にNTTが試算。
※3 設備利用率:定格出力で100%運転(24時間365日)した場合の発電量に対する、実際に1年間で発電した電力量の割合。
※4 経産省調達等算定委員会資料(2023年2月8日)より。

実証実験について

 どこでも使用できる無線局免許不要の微弱無線を使用し、受信信号の変化により送受信間にある構造物の損傷有無を検知する。同技術を2機のドローンに搭載し、微弱無線の送信機と受信機に見立てると、上空で微弱無線の送受信間に損傷有無を検知する対象物以外の遮蔽物、反射物が無い状態にすることができる。この状態をつくることで、対象物の軽微な変化が把握しやすくなるという。

 また同技術ではソフトウェア無線を活用しているため、送受信周波数を簡単に変更可能。無線局免許が不要な微弱無線であるため、上空で自由にさまざまな周波数の電波を変化させながら送受信することができる。これにより周波数と送受信距離によって決まるフレネルゾーンを、検知対象の構造物に合わせて変化させる。

1. 実験室におけるフレネルゾーン内の受信信号の変化による損傷有無検知実証

 同技術で構造物の損傷有無を検知できることを確かめるために、ノイズ影響の少ない実験室でフレネルゾーン内の受信信号の変化を検知する屋内実験を実施した。この検知は風車停止状態で行う画像撮影・解析など、すでにある技術を使った点検の前段階で使用することを想定している。そのため、運転停止基準の判断に使えるかどうかが重要となる。
 風力発電設備のブレード点検ガイドラインに記載された3つの状態と正常状態を比較することで、回転中のブレード損傷の状態を判断することを目指した。その結果、運転に影響する計画的に補修を行う状態と、保安停止を要する状態の損傷有無を検知することに成功した。

判定する損傷レベル

2. 屋外における微弱無線の送受信の実証

 2機のドローンを微弱無線の送信機と受信機に見立て、上空で微弱無線を送受信する屋外実験を実施。ドローンで上空を飛行する際はノイズの影響を強く受けるため、その対策も施し実験を行った。その結果、上空30mでの微弱無線送受信に成功した。また2機の自律飛行ドローンの操作により、上空で微弱無線の送受信距離を意図通りに変化させて、フレネルゾーンを簡単に変更できることを確認した。

 今後は技術確立に向けて、実際に屋外で運転中の複数の風力発電風車に対して同技術を活用する実験を行い、屋外の実物でも損傷検知が行えることを確認するとしている。