2023年4月27日、農業・食品産業技術総合研究機構(以下、農研機構)は、ドローンデータの補正による新たな水稲生育診断・追肥量算出システムを開発したことを発表した。ドローンで得た広範囲のデータを、地上の数カ所で得たデータで補正することにより、簡易かつ精確な生育診断を行い、その結果に基づいて収量等を安定化させるための追肥量を算出する。

 近年、米の収量や品質は、異常気象・気候変動の影響による不安定化が懸念されている。また、農業者の高齢化に伴い担い手への農地集積が進んでいるため、効率的に水稲を栽培管理できる技術の導入が求められている。

 水稲の栽培で重要な肥料成分である窒素は、出穂20日前~出穂期頃に追肥量を増やすと、収量が増加するなどの効果がある。しかし過剰な窒素追肥は、収穫作業を困難にしたり減収の原因になる倒伏や、食味低下を招くという。このため、生育診断により水稲の生育状況を把握した上で適量の追肥を行うことが重要になるが、地上で生育診断をするには、ほ場や領域ごとに正規化植生指数(NDVI)(※1)等を取得する必要があり、膨大な時間を要していた。

 水稲作におけるドローンの活用は、農薬や肥料の散布で先行しているほか、上空からの撮影画像やデータにより生育状態を把握する取り組み(生育診断)も始まっている。しかし、ドローンによる上空からの生育診断は、太陽光を植物群落が反射した光を測定しており、太陽高度や日射量の影響を受けるため、診断に用いるNDVI等が撮影日時によって異なるという問題があった。一方、地上において測定器の光を植物群落が反射した光を測定する場合はこうした影響は小さい。

※1 正規化植生指数(NDVI):植物の葉緑素が赤色光を吸収し、近赤外光を反射する性質を利用した、植物の生育状態を表す指数。NDVI=(NIR-Red)/(NIR+Red)。NIRは近赤外光の反射率、Redは赤色光の反射率。値が1に近い程、生育状態が良いことを表す。

ドローンおよび地上で測定したNDVIと測定時刻との関係(a)、NDVIと天気との関係(b)

 同研究において2020年、2021年に得たNDVIと収量との関係を調べたところ、数カ所の地上で得たNDVI(以下、地上NDVI)は、ドローンにより広範囲の上空から得たNDVI(以下、上空NDVI)に比べて収量との相関が高く、さらに上空NDVIを地上NDVIで補正すると、収量との相関が上空NDVIに比べて高くなることが分かった。

複数年の試験におけるドローンで上空から測定したNDVIと収量との関係(a)、地上で測定したNDVIと収量との関係(b)、補正したNDVIと収量との関係(c-e)

 そこで、上空NDVIを地上NDVIで補正することで、広範囲にわたるほ場の地上NDVIを取得する場合に比べて簡易、かつ上空NDVIのみを利用する場合に比べて精確な生育診断を行い、目標とする収量等に応じて追肥量を算出するシステムを開発した。同システムを大規模生産者や民間企業等が利用することで、米の収量や品質の安定化が期待される。

作業手順・実証概要

 作業手順は、まず水稲の出穂1~4週間前に、マルチスペクトルカメラ(※2)を搭載したドローンで生育診断したい全てのほ場の画像を撮影し、画像解析ソフトで上空NDVIを取得する。それと同時期に地上において、生育が良い部分、悪い部分、その中間の部分等、3カ所程度の地上NDVIを測定する。全てのほ場の上空NDVIを地上NDVIで補正し、追肥量算出式より必要追肥量を求める。基肥が緩効性肥料の場合は、残存量を差し引く。

※2 マルチスペクトルカメラ:人の目で見えない波長を含む複数の光の波長情報を取得できる分光カメラ。

生育診断・追肥量算出システムの作業手順

 2021年に行った現地実証試験では、上空NDVIを地上NDVIで補正して算出した必要追肥量(全ての追肥ほ場の平均値)は、全てのほ場について地上NDVIのみで算出した必要追肥量に極めて近い値となった。

現地実証試験において取得したNDVIを、目標収量600kg/10aとした追肥量算出式に代入して得た必要追肥量(全ての追肥ほ場の平均値)

 実際に同システムで算出した必要追肥量を尿素で施用すると、目標値に近い実収量を得ることができた。2022年にも同様の現地実証試験を行ったところ、2021年と同程度の追肥量が算出され、目標値に近い実収量を得ることができたという。

 今回開発した水稲生育診断・追肥量算出システムは、エクセルで作成したプログラムを通じて利用可能。API(※3)も開発しており、農業データ連携基盤(WAGRI)を介して各社の営農管理システム等で利用できるよう農研機構のサーバーに搭載している。

 今回は「コシヒカリ」「ヒノヒカリ」について追肥量算出式を作成したため、同システムは全国の作付面積の40%以上に対応する。また麦類についても追肥量算出式を作成しているところだという。

 今後はNDVIによる必要追肥量の算出だけでなく、新たな算出式の作成により、病害虫や雑草の管理のための農薬散布等にも利用できる可能性があるとしている。

※3 API:Application Programming Interface。異なるソフトウェアやプログラム同士を連携するための規格や機能。

▼発表論文
Nakano, H., Tanaka, R., Guan, S., Ohdan, H., 2023. Predicting rice grain yield using normalized difference vegetation index from UAV and GreenSeeker. Crop and Environment.
https://doi.org/10.1016/j.crope.2023.03.001