2023年3月31日、日本電気(以下、NEC)、東京大学大学院工学系研究科 中尾研究室(以下、東京大学)およびNECプラットフォームズは、ローカル5Gの基地局・5Gコア・マルチアクセスエッジコンピューティング(以下、MEC※1)を一体化した移動・自律運用可能な通信ソリューションの実証機を共同で開発したことを発表した。

 電源・バックホール回線の用意が難しい災害現場や山間部向けに、ローカル5Gネットワークを迅速かつ一時的に構築するソリューションとして、今後商用化を目指すとしている。

※1 マルチアクセスエッジコンピューティング(MEC):通信端末に近い場所にサーバーを配置することで通信の遅延時間を短縮させる技術。

共同開発した実証機の外観。屋内用:幅130×高さ189×奥行357mm(左)、屋外用(中央・右)

 近年、地震・豪雨などの自然災害が頻発化、激甚化しており、災害時における安全かつ迅速な応急復旧が求められている。こうした中、ドローンを活用した高精細映像のリアルタイム伝送による被害状況把握、ハザードマップの可視化、無人化施工など災害現場のDX化が期待されている。
 またメンテナンス現場では、インフラ設備の老朽化と現役世代の減少などによる人手不足が課題となっており、日常巡視点検に対してAIやIoT・ドローン・ロボットなどを活用することで業務の高度化と生産性の向上が見込まれる。
 しかし、これらの災害・メンテナンス現場では、地形変化と作業進捗の状況により現場が変動的であるため、電源とバックホール回線など通信手段の確保が困難となっている。

 そこで3者は、基地局・5Gコア・MECを小型汎用サーバーに一体化した通信ソリューションの実証機を開発。ハンドキャリーが可能な防水防塵ケース内に、ローカル5Gの通信機能とアプリケーション機能を集約し、ネットワークとアプリケーションをオンデマンドに利用可能とした。約90Wと低消費電力であるため、電源が確保されていない屋外エリアでも可搬バッテリーを用いて長時間利用することができる。同ソリューションにより、災害・復旧時の人命の安全確保と二次災害の発生を抑止し、メンテナンス現場の業務効率化と省人化への貢献を目指すとしている。

通信ソリューションのシステム構成イメージ
各者の役割
NECソリューション開発
東京大学基地局・5Gコア・MECを一体化するシステム開発
NECプラットフォームズ無線フロントエンド・筐体ハードウェア開発・システム検証


<実証機の特長>

 基地局・5Gコア・MECを小型汎用サーバーに一体化して防水防塵のケースに収納したことで、ハンドキャリーが可能で一時・臨時利用に対応。常設の機材と比較して導入・運用コストの低減が期待される。光・LTEなどバックホール回線が無くともローカル5Gネットワークを構築でき、小型汎用サーバー単独で屋内での利用も可能。

 約90Wと低消費電力のため、可搬バッテリーでも長時間利用できる。1Wの高出力無線アンテナを4ポート搭載し、災害・メンテナンス現場など屋外の広域エリアにも対応する。同期方式に加え、上りの通信速度を向上できる準同期(※2)(TDD1/2/3)に対応することで、大容量の映像伝送が可能。ソフトウェアをベースに基地局を実装することで、容易なセットアップ・設定変更、柔軟な機能拡張に対応する。MECを内蔵することにより、エッジで処理するアプリケーション・AIの機能を配備することができ、リアルタイム処理、インターネット回線などへの通信データ量の削減、セキュアな通信を実現する。

※2 準同期:ダウンリンク通信に使用している時間帯の一部をアップリンク通信に使用することでアップリンクのスループットを向上させる方式。

ユースケース例:災害現場
ユースケース例:山間部のメンテナンス現場

 今後3者は、筐体の小型化と、実証実験を通じてAIなど用いたアプリケーションの開発を進め、アンテナや可搬バッテリーを含めてローカル5Gネットワークをさまざまな現場で構築できる通信ソリューションとして、商用化を目指すとしている。