2022年10月12日、中国電力ネットワークと富士通は、送電設備を活用して取得・変換した風況などの環境データの実用性について、2021年9月から1年間の実証試験を実施したことを発表した。
 同実証は、再生可能エネルギーの導入拡大のために次世代電力ネットワーク技術として期待されているダイナミックレーティング(送変電設備の送電容量を弾力的に運用する技術)の実現、および送電設備の保全業務高度化におけるドローンの活用に向けたものとなる。

 送配電事業者は、国が掲げる「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けて、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーの導入拡大のため、電力系統の増強や系統制御技術の開発などによる電力ネットワークの次世代化を目指している。
 また、送電設備の巡視点検業務には多大な労力と時間を要し、労働者人口の減少が課題となる中、ドローンなどのICTを活用した保安レベルの維持・向上や保全業務の高度化といったスマート保安の推進が求められている。
 中国電力ネットワークは、設備の巡視点検業務や故障発生箇所の特定などの保全業務にドローンを活用しているが、ドローンの飛行は風に大きく左右されるため、さらなる活用には広範囲に設置された送電線近傍の環境データ(風況)をリアルタイムかつ正確に把握する必要があるという。

 実証試験では、送電線の光ファイバー複合架空地線(OPGW)(※1)に光ファイバーセンシング技術(※2)を用いて取得したOPGWの振動データを、富士通のデータ変換技術で変換し、送電線近傍の環境データを推定するとともに、現地の実測データと比較検証した結果、概ね一致していることを確認した。
 これにより、広範囲に設置されている送電線近傍の環境データ(風況)を効率的かつ正確に取得できるため、ダイナミックレーティングやドローンを活用した巡視点検への適用拡大が可能になり、再生可能エネルギーの導入拡大や送電設備の保全業務のさらなる高度化が実現できるとしている。

※1 送電線を落雷から保護するための架空地線に光ファイバーケーブルを内蔵した設備。
※2 光ファイバーケーブルがどのように振動しているのかをリアルタイムに測定できる技術。

実証試験について

 中国電力ネットワークの変電所などにおいてOPGW振動測定用の光ファイバーの測定装置や計算用コンピューターなど機器一式を設置し、ミリ秒単位の振動データを長さ70kmに渡り、数メートル間隔で取得する。その振動データをもとに富士通のデータ変換技術を活用して環境データ(風況)や送電線温度を推定し、これらのデータをドローンの運航支援やダイナミックレーティングに活用するための検証を行い、有効性を確認した。

 実施期間は、2021年9月1日から2022年9月30日まで。中国電力ネットワークが所有する中国地方(島根県、広島県、山口県)の送電線、計3線路で実施した。

実証試験の概要イメージ

内容と結果

(1)ドローンの飛行可否の判断に向けたデータ変換技術の検証

 実証試験において、OPGWの振動データを変換して取得した環境データ(風況)と現地に設置した風速計の実測データとの比較を行ったところ、概ね一致していることを確認した。これにより、同実証で活用した技術が、起伏によって風況が複雑に変化する山間部においても、正確かつ効率的にデータを取得することができ、ドローンの飛行可否の判断や風況を考慮した飛行ルートの選定に適用可能であることが検証できた。
 同技術を活用することで、ドローンによる巡視点検時の安全性向上と保全業務高度化が見込まれる。

OPGWによる振動データから変換した環境データ(風況)(左)、鉄塔に設置した風速計と振動データから変換した環境データ(風況)の比較(右)

(2)送電容量の拡大に向けたダイナミックレーティングへの適用検証

 送電線は送電電圧や電線の太さに加え、気象条件を、例えば風速0.5m/s、日射量1,000W/m2および外気温40℃といった一定の固定値として定め、電気を流すことができる容量の上限(送電容量)を決定し運用している。今後、再生可能エネルギーの導入拡大を実現するためには、刻々と変化する気象条件から送電線の温度を正確に推定し、送電容量を弾力的に運用するダイナミックレーティングの活用が有効となる。

 この実証試験では、(1)で推定した環境データ(風況)と鉄塔に設置した各種センサーで実測した日射量および外気温、実際に送電線に流れる電流値をパラメーターとして温度データに変換し、送電線の温度を推定した。
 また、赤外線サーモグラフィカメラを設置して送電線の温度を実測したところ、精度が概ね一致していることを確認した。これにより、同技術がダイナミックレーティングに適用可能であることが検証できた。

 同技術を活用することで、送電線の温度変化に影響する送電線近傍の環境データ(風況)を全域に渡ってリアルタイムで把握できるようになり、これまで固定値を用いていた送電容量を弾力的に運用することで、送電容量の増加が見込める。

推定した送電線温度と実測した送電線温度の比較

(3)業務実装に向けたプロトタイプシステムの作成と運用検証

 富士通は実証試験で取得した環境データ(風況)や送電線の温度など各種の推定データを、送電設備に合わせて地図上に可視化する送電網高度運用支援のプロトタイプシステムを作成。中国電力ネットワークは、同システムでの広範囲に渡るデータの把握や実運用を見据えた操作感、利便性について検証を行った。
 このシステムを活用することで、可視化されたデータに基づいたダイナミックレーティングの実施やドローン飛行の可否判断による業務の高度化が期待される。

送電網高度運用支援のプロトタイプシステムの画面イメージ

 両社は今後、環境データ(風況)や送電線温度のデータが活用できる送電網高度運用支援システムの早期構築に向けた開発を進めるとともに、DXをさらに進展させ、保全業務の改革やサステナブルなエネルギー供給などの社会課題解決を目指すとしている。