2022年8月10日、北海道上士幌町とJA上士幌町、NEXT DELIVERYは、JA全農ET研究所の協力のもと、7月1日に上士幌町でドローンを活用した牛の受精卵配送の実証実験を実施したことを発表した。

 実証ではET研究所で採卵された牛の受精卵(冷凍保存されない新鮮卵)を、上士幌町内の熊谷牧場へドローンにより配送。片道約7.1kmの距離を約13分飛行した。使用機体は、エアロネクストとACSLが共同開発した物流専用ドローン「AirTruck」。受精卵を受け取った移植師は、直ちに発情同期化させた乳牛(ホルスタイン育成牛)に移植処置を行い、約10分後に移植を完了した。
 その結果、今回のドローン配送による温度管理・振動・配送後の移植状況は問題ないレベルであり、実用に耐えうることを確認した。

 なお同実証は、国の「デジタル田園都市国家構想推進交付金」を活用した取り組みとなる。

左:受精卵の入ったポットをドローンの箱に入れる様子
右:配送スタッフが受精卵の入った箱をドローンにセット
左:受精卵を搭載したドローンが上士幌町JA全農ET研究所を離陸
右:受精卵を届けたドローンが離陸する様子(熊谷牧場牛舎前)

 日本の肉牛生産においては、生産基盤の縮小に伴う構造的な子牛供給不足が深刻化しており、和牛の子牛共有の手段として、乳牛を借り腹とした和牛受精卵移植(Embryo Transfer:ET)による子牛生産の重要性が増している。ET研究所では早くより受精卵供給体制を構築しており、JAと連携してET妊娠牛を全国に供給している。

ET受精卵による出産体系

 一般的な受精卵移植は凍結・保存した受精卵を使用するが、凍結や解凍の過程で受精卵が損傷すると受胎率は低下すると考えられる。一方で新鮮卵は、冷凍受精卵よりも安定した受胎率を得られるが、採卵当日に移植を行う必要があり、採卵・流通・利用の関係上、広域流通は困難となっている。

 この実証は新鮮卵の受胎率や広域流通の可能性を検証するもので、ドローン配送による温度管理・振動・配送後の移植状況の評価と、従来のナイタイ高原牧場へ牛を運び新鮮卵を移植する方法、あるいは農家が自ら研究所まで受精卵を車で引き取りに行く方法と、ドローンを活用し農家庭先に輸送する方法を比較し、輸送にかかる農家の手間やコストなどを比較してドローン配送の有効性の検証を行った。
 今回の実証を含め、2022年度中に異なる季節における計4回の実証を予定している。

 上士幌町では2021年11月にドローンを活用した牛の検体(乳汁)のドローンと陸送によるリレー配送の実証を実施しており、デジタルを活用した新たな配送の可能性も見据えたドローン配送を含む新スマート物流の社会実装を推進している。配送等の課題の多い畜産業界で、特に細心の管理体制での実施が必須である受精卵の配送において、今回、新スマート物流の実装可能性を検証することができたことは大きな成果になったという。

使用機体と、上士幌町長 竹中 貢 氏(右)、JA上士幌町代表理事組合長 小椋茂敏 氏(中央)、NEXT DELIVERY代表取締役 田路圭輔 氏(左)