国家の打ち手①日本――経済産業省が進めるAIロボティクス戦略

 社会が求めるロボットを、国家はどう後押しするのか。経済産業省 商務情報政策局次長の奥谷俊一氏は、日本のAI・ロボティクス政策の全体像を示した。

 出発点は2022年のChatGPTの衝撃だ。生成AI政策はGPU不足に直面したが、NVIDIAや国内クラウド事業者の協力を取り付け、2023年に立ち上げたGENIAC(ジーニアック)で、2024年2月からPreferred NetworksやSakana AIへの計算資源提供を本格化させた。そのうえで奥谷氏が重ねて強調したのが、フィジカル領域である。「フィジカル領域こそが日本の産業の未来にとって鍵だ」とし、日本の強みである製造業をAIと統合できなければ優位性を失うと警告した。

写真:壇上で話をする奥谷氏
経済産業省 奥谷俊一氏

 フィジカルAIには固有のデータが要る。「フィジカルに関するデータはインターネットから取得できない」と奥谷氏は指摘し、製造現場のデータに意味づけする「データの精製者(refiner)」になる必要があると訴えた。ダイキンや日立が修理箇所特定のAIで大規模汎用モデルに迫る成果を上げた事例を引き、安価な触覚センサーによるデータ収集にも着手するという。日本が自前の基盤モデルを持つべきかという議論の答えは「構築すべき」とした。同省はフィジカルAI向けのマルチモーダル基盤モデルの大型プロジェクトを準備している。

スライド:Physical Intelligent System
経産省が描くフィジカルAIの全体像。製造・物流・建設・介護・自動運転など多様な現場に、マルチモーダル基盤モデルから落とし込んだAIを実装する

 こうした取り組みを束ねるのが、2026年3月に公表した「AIロボティクス戦略」だ。目標は「2040年に日本の産業が世界の三本柱の一つになること」。米国・中国と並ぶ地位を狙う。資料によれば、AIロボット市場は2040年に60兆円規模へ成長し、日本はシェア30%超、20兆円を目標に据える。戦略は国土交通省・厚生労働省・防衛省も加わり、介護・建設の人手不足を念頭に、AIモデルの確保、サプライチェーン構築、潜在需要の掘り起こしをすすめる。

 奥谷氏は最後に「私たちはAIロボティクスのための大きなCoE(Center of Excellence)を構築する計画を持っています。私たちにはまだそうしたポテンシャルがあると、私は信じています。――才能ある人材、若く有望な人々が、ここで育成されるべきです。さらに、この中で、安全技術と安全認証システムを実現したいと考えています」と語った。

国家の打ち手②米国――Boston Dynamicsが説く国家ロボティクス戦略

 日本が当事者として戦略を描く一方、その日本を「先進例」と仰ぐ視点が米国側から示された。Boston Dynamics 政策担当VPのブレンダン・シュルマン氏である。

写真:壇上で話をするシュルマン氏
Boston Dynamicsのブレンダン・シュルマン氏

 かつて政府は、工場に固定されたロボットに関与の必要をあまり感じてこなかった。「しかし状況は明らかに変わっている」。四足ロボットSpotは約6年市場に投入され、人の生活空間へ進出した。カリフォルニア州交通局では点検で「わずか10分でその機関の6万米ドルのコスト削減に貢献した」という。シュルマン氏は技術を独自に表現する。「LLMが生成AIのパラダイムであるとするなら、私たちが語るのは大規模行動モデル(LBM)だ」。Spotは強化学習で濡れた床を歩けるようになり、ヒューマノイドAtlasは45ポンド(約20kg)の冷蔵庫を持ち上げ、完全自律でパーツを仕分ける。

スライド:Atlasがパーツを仕分ける様子
Boston Dynamicsのヒューマノイド「Atlas」が、完全自律でパーツを仕分ける。人が箱を動かすなど環境を乱しても作業を続ける

 同時にシュルマン氏は、こうした技術がデュアルユース(dual use)の性格を免れないと認め、汎用ロボットの兵器化に反対する働きかけを続けていると述べた。そして国家戦略の話題で、同氏は日本を真っ先に挙げた。数年来の国家戦略を持つ国の「筆頭」として日本を称賛し、「素晴らしい考えだ」と評価する。経産省・奥谷氏の当事者の戦略が、米国の専門家には範とすべき先進例として映る。日米の政策が合わせ鏡になった瞬間だ。

 米国でも動きは具体化している。下院の公聴会で「アメリカ製ロボット」が論じられ、国防総省がロボティクス産業を招集する前例のない事態が起きているという。シュルマン氏は各国共通の打ち手として、人材育成、税制優遇による導入加速、研究資金、安全基準、サプライチェーンの強靭化、そして倫理的枠組みを挙げた。