空飛ぶクルマが変える物流の未来──学生たちが描く新都市型モデル

写真:壇上に並ぶ3人、司会者
大阪公立大学 工学部 航空宇宙工学科 学部4年 岡野友哉氏(右)。大阪公立大学 大学院工学研究科 航空宇宙海洋系専攻 航空宇宙工学分野 修士1年 今本光祐氏(中央)。大阪公立大学 大学院工学研究科 航空宇宙海洋系専攻 航空宇宙工学分野 修士1年 進士景星氏。

 第4部のセッションでは、「空と地上をつなぐ、新しいAAM(Advanced Air Mobility)のかたち」をテーマに、大阪公立大学の航空宇宙工学を学ぶ学生たちがプレゼンテーションを行った。登壇したのは、学部4年の岡野友哉氏、修士1年の今本光祐氏と進士景星氏の3名。彼らは、空飛ぶクルマを物流分野に応用する新たな都市型輸送モデルについて研究結果を発表した。

写真:話をする岡野氏

 岡野氏は、「現在の物流は人手への依存が大きく、ドライバー不足や高齢化といった課題を抱えている」と課題を提示。続けて、「空と地上を融合させた、新しい物流モデルの構築が必要」と述べ、空飛ぶクルマと地上配送ロボットやドローンを組み合わせたハイブリッドな配送システムを提案した。

 このシステムは、空港や港に物流拠点を集約し、商業施設やビル屋上にも倉庫機能を設置。第一段階で空飛ぶクルマによる空輸、第二段階で地上配送ロボットやドローンによるラストワンマイル配送という二層構造が特徴だ。

写真:壇上の3人、スクリーンに表示された「提案の具体化:物流センターの配置最適化」
大阪市の人口分布をもとに、適正な物流センターの配置を導き出した研究結果を発表。

 今本氏は、実際に大阪市をモデルにしたシミュレーション結果を紹介。「大型商業施設や公園など、AAMの離着陸が可能な地点を選定し、人口データと組み合わせて最適な物流拠点配置を行った。結果として、大阪市人口の95.2%をカバーできると試算された」と語った。これに対し、国山氏は「起業した方が良い。本当に面白い発想で、物流に空の移動を組み合わせるというのは非常に魅力的」と絶賛し、会場は笑いに包まれた。

写真:話をする進士氏

 進士氏は、旅客輸送への展開についても見据え、「今後は人の流れに注目した拠点配置が鍵になる。ターミナル駅やテーマパークなど、多くの人が集まる場所に重点を置いていく必要がある」と展望を示した。

 河野氏も「旅客輸送に先立ち、物流で実績を積むことでデータや信頼性が蓄積され、将来的な展開にも大きく貢献する」とコメント。日本の都市構造に合わせた最適な運用モデルとして、空飛ぶクルマの段階的な導入が期待されることを示唆した。

 また、セッションでは災害時の活用や、離島への物資輸送といった応用可能性にも話が及んだ。岡野氏は「災害で道路が寸断されるような状況でも、空のルートを活用すれば物流は止まらない。将来的には医療物資や急患搬送への応用も考えられる」と語り、空飛ぶクルマの社会的役割の拡張性を強調した。

写真:壇上の司会者、河野氏、話をする国山氏

 最後に、河野氏は「大阪万博を契機に、空飛ぶクルマの技術と社会実装は一気に加速している」と総括。国山氏も「私自身も空飛ぶクルマはまだ遠い未来の話と思っていたが、今日の発表で考えが変わった。ぜひ未来の一員として関わっていきたい」と熱意を込めた。 若き研究者たちの提案は、空飛ぶクルマの社会実装という未来に向けた具体的な道筋を示すものだった。「空と地上をつなぐ」空飛ぶクルマの実現に向けて、大阪から世界へ。その第一歩を踏み出す瞬間が、確かにこの日、万博の会場で刻まれた。

▼【1部・2部のレポートはこちら】大阪・関西万博「トんでる!オーサカ 空飛ぶクルマビジネストークセッション」レポート① ― 次世代の観光の在り方と空からの都市開発
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/event/1187737.html