線路と国道に囲まれた狭小地で開催された異例のドローンショー
2025年8月23日、東京都港区の再開発エリア「TAKANAWA GATEWAY CITY」にて、ドローンショーイベント「TAKANAWA GATEWAY CITY まちびらき ドローンショー in Summer」が開催された。
この取り組みは、JR東日本がTAKANAWA GATEWAY CITYを舞台に展開する、次世代型モビリティや物流、エンターテインメントの実証実験の一環として実施されたもの。2025年6月には、点検ドローン「IBIS」シリーズを展開するLiberawareと共同でドローンレースイベント「JR東日本グループ ドローン DX CHAMPIONSHIP」も開催されており、ドローンを通じた都市イノベーションが進行中だ。
課題山積の環境下で実現した技術的チャレンジ
ドローンショーの離着陸場となったのは、工事が進められている南側エリアで、JR山手線や京浜東北線、上野東京ライン、京急本線、国道15号線に囲まれた都心の狭小な空間。今後は開発が進められ、今回のような取り組みは難しくなる見通しだという。
離着陸場周辺には、地面を保護するための鉄板が敷かれており、磁場や金属の影響によってドローンのコンパスや各種センサーの精度が低下するリスクがある。このほか、列車や建物から発生する電波干渉も無視できず、ドローンショーを開催するにはさまざまな障害が生じる可能性が高い環境だ。
さらに、同地は人口集中地区(DID)に該当し、加えて羽田空港の円錐表面下という空域制限の中にある。そのため、1機のドローンを飛ばすにも高度な調整と安全対策が求められる環境であった。
JR東日本は2024年6月から安全に開催するために事前調査を開始している。電波・磁場の測定や通信テストを重ね、2025年3月には試験的なドローンショーを成功させた。そして今回、観客を招いた正式イベントとして開催に至っている。
今回の運航を担当したのは、ドローンショー演出を数多く手掛けるレッドクリフ。限られた空域と設備環境の中で、安全かつダイナミックな演出を行い、観客に感動を与えた。
室内から鑑賞する新しいドローンショーの形
観覧会場はTAKANAWA GATEWAY CITY内の「THE LINKPILLAR 1 SOUTH」10階に設けられ、離着陸場の北側に位置していた。今回は19時開始のショーを観覧し、それには30組78名の観客が来場した。室内に設けられた会場の窓からは山手線や高層ビル群を見下ろせる絶好のロケーションとなっていた。
ショーに先立ち、同会場内で屋内ドローンショーが開催された。使用されたのはレッドクリフ製の小型機「FYLo EDU-JP」10機。ミドルテンポのBGMに合わせ、天井高3m程度という限られた空間で、色とりどりのLEDを点灯させながら飛行する演出は、多くの観客にとって初体験だったようで、熱心にカメラを構える姿が見られた。
300機が描く“空の山手線”に歓声
屋内ショーに続き、いよいよメインショーである屋外ドローンショーがスタート。使用されたのは計300機のドローン。会場の照明が落とされるとガラス越しの反射がなくなり、外の景色がはっきりと浮かび上がった。
やがてドローンは観客と同じ高さにまで上昇し、まずはTAKANAWA GATEWAY CITYの街並みを模したビジュアルが登場。続いて「150年前から」という文字が空に浮かぶと、来場者から驚きの声が上がった。これまで観てきたドローンショーはいずれも地面から見上げていたので、この角度からの眺めは非常に新鮮だ。
さらに、鉄道創業時に新橋から横浜間で使用された蒸気機関車、現在の山手線を代表するE235系電車も登場。特にE235系が目の前に向かってくるような演出は迫力満点で、観客の目を引いていた。
演出に使用された空域は横幅100m、奥行き10m、高さ80mという非常に限られたスペース。その中で文字やイラストの可読性を最大限に高めるため、ドローンの配置面をあえて斜めにし、回転させて正面から見えるように工夫されていたことも特筆すべき点だ。
ショーの終盤では、指でハートを作るポーズ「キュンです」や夏を象徴する打ち上げ花火のビジュアルが登場。最後にJR東日本のロゴが表示され、ショーは幕を閉じた。
“イノベーションの原点”を未来に繋ぐドローン活用の象徴
ショー終了後、JR東日本の品川ユニット(ブランディング・プロモーション)マネージャー出川智之氏が取材に応じ、今回の開催趣旨を次のように語った。
「TAKANAWA GATEWAY CITYを未来に向けたソリューション創出の場と位置づけています。モビリティやロボットの活用を進める中で、空飛ぶロボットであるドローンの物流・点検用途も見据えています。今回のショーは、ドローンの可能性をわかりやすく示すための取り組みです」
また、当イベントの告知を発信して観客を募集したところ、1日足らずで定員に達したという。蒸気機関車やE235系といった鉄道の演出については、「高輪は、150年前に日本で初めて鉄道が通った場所であり、イノベーションの原点です。その歴史を未来とつなげる意味で、今回の演出に込めました」と語った。ドローンショーの演出内容は、レッドクリフとの数回の打ち合わせでブラッシュアップを重ねて決定されたという。
今後については「関係各社と連携し、ドローン物流の実証をTAKANAWA GATEWAY CITYでも進めていきたい」とし、都市型ドローン活用への意欲を見せた。
都市型ドローンショーが描く未来像とは
今回の「TAKANAWA GATEWAY CITY ドローンショー」は、屋内から快適に目前で展開される屋外ドローンショーを観覧できるという新しい観賞体験が提供された。ただのエンターテインメントに留まらず、都市部におけるドローン活用の可能性を提示する実験的なショーケースとなった。人口集中地区・複雑な電波環境・狭小空間という三重苦とも言える条件下で、300機ものドローンを用いた安全かつ精密な演出が成功したことは、都市部における次世代ドローンインフラの実用性を裏付ける結果とも言える。
ドローンを使った演出は、花火やプロジェクションマッピングと並び、今後の観光・地域活性化の新たな柱となる可能性を秘めている。特に、快適な屋内空間から高層階で楽しめる“観覧型ドローンショー”という形式は、ファミリー層やインバウンド客にも受け入れられやすく、新しいレジャー体験としての価値が高い。
さらに、TAKANAWA GATEWAY CITYという“鉄道の発祥地”で実施されたことにも深い意義がある。鉄道が国のインフラの中心であった時代から、今や空を活用した新たな移動手段や演出が登場しようとしている。まさに「イノベーションの継承と進化」を象徴するイベントだった。
JR東日本は今後もTAKANAWA GATEWAY CITYを実証実験の場として活用し、都市型ドローン物流、点検、エンターテインメントの領域でさらなるチャレンジを続けていく構えだ。
