水素燃料電池搭載型ドローンの開発・実用化を進めるRoboDEXが、国内最大級のドローン展示会「Japan Drone 2025」において、現場で水素燃料を充填可能なカスタムトラックを初公開した。同社が販売する長時間飛行が可能なハイブリッド型水素ドローン「Aigis One」と併せて、ドローンの水素エネルギー活用を推進する新たなインフラ構築の第一歩といえる。
水素燃料による国産ハイブリッドドローン「Aigis One」
RoboDEXが開発した「Aigis One」は、国内初となる水素燃料電池を搭載したハイブリッド型ドローンである。機体上部に複合材料容器で構成された水素用容器を搭載し、キャパシタとの組み合わせにより安定した電力供給を実現。最大飛行時間は約90分、ペイロードは5kg。機体下部にはカーボンファイバー製のカーゴボックスを備えており、ドローン物流のほか、点検業務や広域巡視などの業務に対応している。
従来のリチウムイオンバッテリーを動力源とするドローンと比較して、水素燃料はエネルギー密度が高く、CO2を排出しないクリーンな飛行を可能にする点が大きな特徴である。水素用容器は交換式を採用し、現場での迅速な補給を想定しているが、既存のインフラでは水素用容器への充填に課題があった。
小型容器の充填効率を改善、トラック型ステーションを開発
水素用容器は高圧ガス容器に分類され、充填にはガス専門業者への委託が必要だ。加えて、ドローンのような小型な容器は、充填から返送までに10日間を要することも多く、実運用における柔軟性が制限されていた。こうした課題を受け、RoboDEXは水素燃料を現場で即座に充填可能とする専用のカスタムトラックを開発した。
このトラックは、一般的に多く流通している7m³の水素用容器を荷台に搭載し、内部には油圧ポンプ駆動の水素圧縮機を備える。圧縮された水素は、ドローン搭載用の小型高圧容器に直接充填される仕組みである。これにより、運用現場における燃料の充填や供給のタイムラグを大幅に短縮し、実用レベルでの水素ドローン運用が可能となった。
防爆構造・多機種対応で実現する安全かつ柔軟な水素充填
水素という高圧ガスを取り扱う上で最大の課題は安全性である。本トラックでは、防爆構造を採用し、内部の水素処理エリアには6mm厚の鉄板を使用。万一の爆発時にも外部への被害を防ぐ設計が施されている。また、電気火花を避けるため、内部照明には防爆仕様LEDライトを採用し、圧縮機は電動ではなく油圧駆動としている点も安全性を考慮した結果だ。
加えて、充填はRoboDEXが採用している帝人製の水素用容器に加え、JFEコンテイナーなどの他社製高圧容器にも対応可能な仕様となっており、ユーザーの運用環境に応じた柔軟な充填が可能である。水素の充填圧や速度も制御盤から細かく調整可能で、産業用ドローンの現場運用に最適化されている。
現在は自動車部品を手掛けるマザーサンヤチヨ・オートモーティブシステムズ(旧:八千代工業)と共同で、水素用容器の開発が進められている。より軽量な容器となっており、より高圧での充填が可能になる。そのため、ドローンの飛行時間を向上できるという。
車両設計と法規制対応──重量・転倒対策と車検取得
トラック設計において特に難航したのが、日本の車検制度への適合である。6mm鉄板を使用した防爆構造によりトラックの自重が大きくなり、転倒角(車体が傾いた際の安定性)の基準をクリアするために、重量配分や荷重バランスの最適化が求められた。こうした物理的な設計と、安全基準を満たすための各種工夫が重ねられている。
RoboDEX代表の貝應氏は、「現場での水素充填が可能となったことで、より多様な運用が見えてきた。今後は水素発電機や小型モビリティ分野にも視野を広げていきたい」と語っている。実際、展示会会場では既に複数の法人から本トラックの導入希望が寄せられており、インフラ整備が遅れるなかでの新たな選択肢として注目度が高まっている。
高圧ガスドローンの運用拡大とインフラ整備の課題
水素燃料ドローンの運用には、以前は経済産業省の大臣特認が必要であったが、RoboDEXの訓練講習を受講することで、通常のドローンと同様の運用が可能となった。技術的安全性が認められたことで、法的なハードルは一定程度緩和されつつある。
しかし、全国の水素ステーションの数は2025年7月時点で151か所と少なく、供給インフラの整備が課題となっている。
貝應氏は「このトラックを使って大小さまざまな容器への水素提供が可能になった。ただし、これがあれば日本中すべてに水素燃料を提供できるわけではありません。使い勝手や使用できる容器のサイズ・種類などを見定めてもらい、これぐらいであれば自社の工場に置くかといった検討をしてもらいたい」と話す。
RoboDEXの取り組みは、水素エネルギーを活用した次世代ドローン運用の実現に向け、技術・インフラ両面からの課題解決を図るものであり、業界内外からの関心が高まっている。
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