HIEN Aero Technologiesが開発を進める「Dr-One」の模型。

 HIEN Aero Technologiesは、次世代エアモビリティEXPO in 九州2022に出展し、アーバンエアモビリティ(UAM:Urban Air Mobility)の開発計画を公開した。同社はガスタービン発電機を採用したUAM開発に取り組んでおり、新しい都市型航空交通の実現を進めている。今回は現時点の開発状況と実現に向けた計画を伺った。

ハイブリッド型eVTOLで長距離飛行を可能にするエアモビリティ

 空飛ぶクルマやエアモビリティと呼称されるUAMは、新たな交通手段として注目されている一方で、実現に向けた課題は機体開発のほか、ニーズや社会受容性、採算性など多岐にわたる。日本においては、開発に取り組む企業はまだ少ないものの、2025年の実現を目先の目標とし、官民共同で進められている。

 UAMはドローンを大型化したようなマルチコプター型や垂直離着陸型の構造が多く、動力源にバッテリーを使った電動機が一般的で、海外ではヘリコプターを電動化したものなども公表されている。しかし、ドローンと同じようにバッテリーだけで飛行するとなると、中長距離を飛行するための飛行時間の確保が大きな課題となってしまい、機体の軽量化や空力の最適化、バッテリー性能の向上などが欠かせない。そのため、使い勝手や用途に応じて、常にプロペラを高回転させて飛行し、小回りを利かせて短距離を移動するマルチコプターと、翼の揚力によって長距離を巡航する垂直離着陸機の2種類が注目されている。

ハイブリッドシステムに用いるガスタービンのモックアップ。

 同社が開発している「Dr-One」は後者の垂直離着陸機であり、長距離の物資運搬等を目的としている。大きな特徴はバッテリーにガスタービンを組み合わせたハイブリッド型の設計にしたことだ。最も電力を消費する離着陸時はバッテリーで駆動し、ほとんどバッテリー電力を使わない巡航時はガスタービンによってバッテリーを充電する仕組みとなっている。

 レシプロエンジンによってバッテリーを充電するモデルも存在するが、UAM用となると重量負担が大きくなってしまうため、ドイツ製のガスタービンを採用したという。ガスタービンは灯油を燃料としているため、調達もしやすく、災害現場にDr-Oneを向かわせれば、停電している地域の発電機としても使用できるという。

 しかし、ただ単にバッテリーとガスタービンを搭載すれば良いというものではない。担当者はこれについて「ガスタービンを制御する部分に独自技術を用いている。ドローンやUAMは離着陸時や風に煽られた時などに電力消費が大きくなる。それに合わせて発電量を増やし、大きな電力を供給しなければならないが、ガスタービンは一定の回転数で発電するため、消費電力の変化に対応することができない。そこで、ガスタービンが一定の回転数で回っていても取り出す電力量をデジタルでダイレクトに制御し、急激な電力消費に対応する独自の制御技術を開発した」と話す。

2025年に向けて開発予定の「HIEN2」。
2030年に向けて開発予定の「HIEN6」。

 エアモビリティと聞くと、人が乗り、目的地を指定すると自動航行で目的地に連れて行ってくれるモビリティだとイメージする人が多いが、Dr-Oneは人が乗れる設計ではなく、物資輸送を目的とした大型ドローンのようなものだ。しかし、このガスタービンによる発電システムと機体設計が完成すれば、スケーラブルに大型化していくことが可能だという。将来は、設計ユニットはそのままに大型化した機体の開発を予定しており、2025年の大阪万博に向けて2人乗りの「HIEN2」の開発を開始予定だ。さらにその先の2030年には6人乗りの「HIEN6」の開発を予定している。

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