三菱UFJ銀行は2026年10月6日、関西の企業や空飛ぶクルマの開発を手がけるSkyDriveと連携し、関西圏における空飛ぶクルマの社会実装と将来的な商用運航の実現に向けた「関西 空の交通ネットワーク構想」の共同検討を開始したと発表した。

 同構想は、交通、航空、インフラ、エネルギー、観光、金融・保険などの企業が協力し、関西圏を広域で結ぶ空の交通ネットワークを構築しようというものだ。将来的な運航事業会社の設立も視野に入れ、運航ルートや離着陸場の整備、事業モデルなどを検討する。

 同日、JR大阪駅に隣接するイノゲート大阪で発表会が開催され、三菱UFJ銀行とSkyDriveの関係者が構想の背景や今後の取り組みについて説明した。

万博を契機に、関西全域を結ぶ空の交通ネットワークを検討

 空飛ぶクルマの社会実装に向けた取り組みが国内外で進むなか、関西圏では2025年の大阪・関西万博におけるデモフライトや関連展示を契機に、実用化に向けた動きが活発化している。

 空飛ぶクルマは、都市部における移動時間の短縮だけでなく、空港や観光地、産業拠点などへのアクセス向上、地域交通の補完、災害時の活用など、さまざまな用途が想定されている。一方、実際に人を乗せて運航するには、機体の安全性の確保に加え、離着陸場や整備施設の整備、運航管理、利用者の確保など、複数の課題を解決する必要がある。こうした課題に対し、業種を超えて企業が連携し、持続可能な空の交通ネットワークの実現を目指すのが今回の構想だ。

 基本コンセプトとして「空の移動を、暮らしの当たり前に。」をビジョンに掲げ、「安全で持続可能な空の交通ネットワークを構築し、人々の移動の選択肢を広げる」ことをミッションとしている。

 発表会では、関西の企業15社が参加を表明していると説明された。参加企業の全容は公表されていないが、池田泉州銀行、三菱HCキャピタル、東京海上日動火災保険などが紹介された。なお、SkyDriveは共同検討に参加する機体メーカーという立場であり、参加企業15社には含まれないという。今後は事務局を設置し、約1年間にわたり定例会議を実施する計画だ。個別の検討テーマについては、各分野に強みを持つ企業を中心にワーキンググループを設け、議論を進める。

 主な検討事項は以下の6項目となる。

  • 関西圏における中長期的な運航ネットワークおよび運航ルート
  • 離着陸場、整備拠点などのインフラ整備
  • 運航・整備・安全管理体制
  • 地域交通や観光と連携した需要創出・サービス開発
  • 事業性および持続可能な事業モデル
  • 国・自治体・地域社会との連携および対話
スライド:共同検討の内容、共同検討メンバーの事業分野
共同検討の主なテーマと参加企業の事業分野。

 三菱UFJ銀行の取締役専務執行役員(代表取締役)西日本駐在の北村慎氏は、「関西圏では空飛ぶクルマが実証実験や技術開発の段階から、具体的なサービス開始に向けた動きが始まっています。新しい交通インフラを起点に産業エコシステムを創造する場として最適であり、点から線、面へとビジネスを拡大する第一歩としたい」と述べた。

写真:マイクを手にする北村氏
三菱UFJ銀行 取締役専務執行役員(代表取締役)西日本駐在の北村慎氏。

なぜ関西なのか、交通インフラと新産業の創出を目指す

 三菱UFJ銀行スタートアップ戦略部長の西地賢祐氏は、空の交通ネットワーク構想を立ち上げた背景や、空飛ぶクルマの社会実装によって期待される8つの社会的効果、経済波及効果などについて説明した。

写真:マイクを手に話をする西地氏
三菱UFJ銀行 スタートアップ戦略部長の西地賢祐氏。

 関西圏を対象地域に選んだ理由として、自治体が空飛ぶクルマの社会実装に積極的であることに加え、空港や主要駅、観光地などを結ぶ広域ルートを検討しやすいことが挙げられた。また、離着陸場となるバーティポートの整備など、インフラ面での取り組みが先行していることも理由の一つだ。

 例えば、オリックスは大阪・関西万博の会場内に、空飛ぶクルマの離着陸施設「EXPO Vertiport」を整備した実績があり、現在は神戸市での整備を進めている。Osaka Metroも大阪港バーティポートを整備するなど、関西圏では実際の機体運航を見据えた施設整備が進められてきた。西地氏は、こうした地域の取り組みを生かし、個別の拠点を結ぶ交通ネットワークへと発展させていく考えを示した。

スライド:関西圏で「空の交通ネットワーク」構想に取り組む背景
関西圏で空の交通ネットワーク構想に取り組む背景。

 また、空飛ぶクルマの商用運航が実現すれば、機体の製造や整備だけでなく、離着陸場の建設・運営、電力供給、通信、保険、観光サービスなど、多様な産業に事業機会が生まれる可能性がある。発表会では、こうした関連産業への経済波及効果についても試算が示された。三菱UFJ銀行は、金融機能の提供だけでなく、企業や自治体などを結び付けることで、新たな産業の形成を支援する考えだ。

 西地氏は「空飛ぶクルマの機体開発や整備に関連するサプライチェーンだけでもインパクトがあり、経済効果は1次から3次産業まで波及するポテンシャルがあります。将来的には自動運航や地上と連携するMaaSへと発展し、そこに金融サービスを加えたい」と説明した。さらに「こうしたビジネスチャンスを関西から全国、世界へと広げ、社会課題解決にもつなげていくための共同検討であり、当行は多方面におよぶステークホルダーをつなぐ役割を果たし、関係者と競い合いながら協調していきたい」と述べた。

 MaaS(Mobility as a Service)は、鉄道やバス、タクシーなど複数の交通手段を組み合わせ、移動に関する検索や予約、決済などを一体的に提供する仕組みを指す。将来的には空飛ぶクルマを地上交通と連携させ、利用者が目的地まで円滑に移動できるサービスの実現も視野に入れている。

 今後の展開については、国が2026年3月に改訂した「空の移動革命に向けたロードマップ」を踏まえた計画を検討している。構想では、2028年から2030年ごろの導入開始を一つの目標とし、2030年代後半には日常の移動手段としての定着、2040年以降には関西各地と都市部・地方を結ぶ広域ネットワークの実現を目指すという。ただし、現段階で具体的な運航ルートや事業開始時期、出資などが決定したわけではない。今後の共同検討を通じて、事業性や運航体制などを具体化していく方針だ。

スライド:「空の交通ネットワーク」構想で想定する利用シーン
国のロードマップを踏まえた今後の事業展開の構想。

SkyDriveのマルチローター型機体を活用、都市内移動での実用化を目指す

 SkyDriveの執行役員 グローバル事業統括責任者である小野泰司氏は、同社が関西圏で進めている空飛ぶクルマの社会実装に向けた取り組みと、開発中の機体について説明した。

写真:話をする小野氏
SkyDrive 執行役員 グローバル事業統括責任者の小野泰司氏。

 SkyDriveは2025年の大阪・関西万博で空飛ぶクルマのデモフライトを実施した。現在はOsaka Metroと連携し、「新大阪・梅田」「森之宮」「天王寺・阿倍野」「ベイエリア」の4つのエリアを結ぶ「大阪ダイヤモンドルート構想」を進めている。

 同構想では、まず2028年を目途に森之宮エリアでのサービス開始を目指し、その後、2030年以降に向けて運航エリアを順次拡大していく計画だ。

▼SkyDriveが空飛ぶクルマの公開フライトに成功、夏の2地点間飛行・周回飛行も視野に
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/event/1187204.html

▼SkyDriveとOsaka Metro、万博後の空飛ぶクルマ「大阪ダイヤモンドルート構想」を発表
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/news/1186830.html

スライド:Osaka Metroと大阪ダイヤモンドルートを構想
SkyDriveとOsaka Metroが進める「大阪ダイヤモンドルート構想」。

 また、2026年10月には、内閣府のスーパーシティ関連調査事業として、Osaka Metroや大阪府・大阪市などと連携し、大阪市内のビル屋上にある既存の緊急離着陸場(Hマーク)を空飛ぶクルマの離着陸場として活用するための調査を開始した。

 新たな用地の確保が難しい都市部では、既存施設の活用が離着陸場の整備を進めるうえで重要な選択肢となる。ただし、緊急離着陸場を商用運航に使用するには、航空法上の要件や安全性、施設の運用方法などについて検討が必要だ。

 今回の空の交通ネットワーク構想では、運航距離や利用シーンに応じて、SkyDriveのマルチローター型機体と固定翼を備えた機体などを使い分けることも想定しているという。SkyDriveが開発する「SKYDRIVE(SkyDrive式SD-05型)」は、12基のモーターとローターを備えた電動垂直離着陸機(eVTOL)だ。最大搭乗人数は操縦士1人を含む3人で、複数のローターによって機体を浮上・飛行させるマルチローター方式を採用している。

 固定翼を備えたeVTOL機と比較してコンパクトな機体構成とすることで、都市部の比較的限られたスペースに設けられる離着陸場での運用を想定している点が特徴だ。一方、航続距離や輸送人数などには制約もあるため、広域ネットワークの実現に向けては、路線の特性に応じた機体の選定が重要になる。

 安全性の確保に向けては、飛行制御システムに3系統の主要システムと独立したバックアップ系を備える「3+1構成」を採用。推進システムやバッテリーについても、複数の系統を設ける冗長設計を取り入れているという。

 開発状況については、2024年11月の飛行試験開始から約1年半で、累計300回のフライトを事故なく実施したと2026年7月に発表している。

 また、商用運航に必要となる型式証明の取得に向けた手続きも進めており、2026年3月には、機体の安全性をどのような試験や解析によって証明するかを定めた「全般計画書」について、国土交通省航空局と合意した。

 型式証明は、航空機の設計が国の定める安全基準に適合していることを確認する制度だ。SkyDriveは2028年の商用化を目指して開発と認証取得に向けた活動を続けており、今回の共同検討にも機体メーカーの立場から協力する。

スライド:開発・認証スケジュール
SkyDriveが進める機体開発と型式証明取得に向けたスケジュール。

 小野氏は「サービスに向けて安全な機体を開発するのは重要な要素ですが、法規制を変えたり、社会受容性を高めたりといった課題解決はメーカーだけではなかなかできないところであり、お互いに補完しあいながら取り組みに尽力していきたい」と述べ、企業間の連携の重要性を強調した。

商用運航に向け、関西から事業モデルの具体化へ

 空飛ぶクルマは、政府が2026年7月に閣議決定した「日本成長戦略」において、戦略17分野の一つである「航空・宇宙」分野の主要技術に位置付けられている。機体開発に加え、運航サービスや関連インフラの整備など、産業としての成長も政策上の課題となっている。

 10月5日から10月7日まで大阪で開催された国際展示会「Global Startup EXPO 2026」の三菱UFJ銀行ブースでも、今回の構想が紹介された。ブースには岸田文雄元首相も訪れ、関係者から説明を受けた。

写真:「Global Startup EXPO 2026」三菱UFJ銀行ブースを訪れた岸田元首相や吉村知事、関係者
「Global Startup EXPO 2026」の三菱UFJ銀行ブースで紹介された空の交通ネットワーク構想(写真提供:MUFG)。

 空飛ぶクルマの商用化に向けた開発や制度整備は海外でも進められている。関西圏でも2028年ごろのサービス開始を目指す取り組みがあるが、機体の認証取得や運航体制の整備、離着陸場の確保など、実現に至る課題についても少しずつクリアされている。

 今回の共同検討は、個別の実証や運航ルートの検討から、関西圏を広域で結ぶ交通ネットワークへと発展させるための取り組みとなる。機体メーカー、交通事業者、インフラ関連企業、金融機関などが連携することで、どこまで具体的な運航ルートや事業モデルを構築できるかが、今後の焦点となりそうだ。