屋内点検用ドローンは、小型の機体を操縦者が1人で飛ばすものと思われがちだ。しかし、複雑な屋内や狭小空間での点検は、操縦者1人だけでは成立しない。飛行中のバッテリー管理や進路の指示、撮影位置の記録、依頼者との調整を担うナビゲーターが重要になる。さらに、点検対象によっては、建築や設備、石綿、安全衛生など、ドローン以外の知識も求められる。機体を導入し、操縦者を1人育てるだけでは、ドローンによる屋内点検を継続的な業務として定着させることは難しい。

 屋内点検用小型ドローンの開発・販売と現場運用を手がけるERI Roboticsの中田浩毅氏に、操縦者とナビゲーターの役割、運用体制について伺った。

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屋内点検はパイロットとナビゲーターで行う

 中田氏は、屋内ドローン点検の運用体制について、「屋内のドローン点検は、操縦者1人で飛ばす印象があるかもしれませんが、1人では運用できません。必ず2人以上で運用することを推奨しています。その役割は1人が操縦者、もう1人がナビゲーターです」と説明する。

写真:中田氏
株式会社ERI Robotics 執行役員 中田浩毅氏。

 操縦者の手元のディスプレイには、バッテリー残量や方位、高度、機体姿勢など運航管理に必要な情報が表示される。ただし、操縦者はカメラ映像を見ながら、障害物との距離や機体の姿勢を判断しなければならないのだ。屋外の飛行では身近に障害物が無く、ある程度の余裕を持って飛行に集中することができる。一方、屋内点検では狭小部や暗所が多く、障害物と密接した環境に加え、GPSの利用できない場所で安定した飛行が求められる。そのような飛行に集中すべき状況において、ナビゲーターが画面に表示された情報を読み上げ、進路を指示する役割を担う。

 中田氏によると、「ナビゲーターは、飛行ルートの指示だけにとどまらず、様々な点に気をつけてパイロットが安全に飛行できる手助けをします」という。

 点検の依頼者から出される指示を受け止めることも、ナビゲーターの役割だ。例えば、「金具の劣化状態を確認したい」という要件をナビゲーターが整理して操縦者へ伝えれば、パイロットは機体の操縦と撮影に集中できる。役割を分担することが、事故や撮影漏れを防ぐことにつながる。ナビゲーターは、飛行した場所や撮影範囲を図面に記録する役割も担う。屋内では周囲の金属や設備などの影響により、GPSや磁気コンパスは利用できない。ERI Roboticsの運用では、飛行開始時の機体の向きを基準として方位を管理するため、飛行前に図面上の基準方向を決めておく。これにより、飛行中の映像と図面上の位置を対応させるという。操縦者1人で点検した場合、屋内の狭小部で左に曲がり、次に右に曲がりなどしているうちに自己位置が分からなくなったり、機体がどちらを向いているのか分からなくなったりしてしまう。これが、手元の映像だけを頼りに飛行させるFPV(First Person View:一人称視点)の難しい点である。

 撮影した映像だけが残っていても、それが建物内のどの場所を撮影したものなのか分からなければ、点検成果として活用することは難しい。飛行経路や撮影位置を管理するナビゲーターは、操縦を補助するだけでなく、取得したデータを点検成果へ結び付ける役割を担っている。

ナビゲーターが帰還の判断をすることも

 理想は、ナビゲーターも操縦者と同等の操縦経験を持つことだ。「操縦者のスキルを持つ人は、ナビゲーターも務まります。パイロットがどのような情報を求めているのかが分かるからです」という。実務では、ナビゲーターの負担が操縦者以上に大きくなる場合もある。バッテリー交換や機材の設置、撮影記録をこなしながら、飛行中は画面を確認して進路を指示する。加えて、飛行を継続するか、帰還させるかの判断をすることもある。操縦者は、調査対象の奥まで到達しようとする。依頼者からも「さらに奥を確認したい」という要望が出る。しかし、帰還に必要なバッテリー残量を確保できなければ、途中で機体を回収できなくなるおそれがある。そのなかで、バッテリー残量や飛行距離を踏まえて帰還を判断しなければならない。ナビゲーターは、飛行現場を細部まで把握し、専門用語を理解したうえで依頼者の要望を操縦者に伝えるなど、幅広い知識が必要とされる。

写真:屋内空間を飛行するドローン
ドローンによる点検は複雑な形状の構造物もあり、障害物が多い場所での飛行も求められる。

 中田氏には、15年来コンビを組んでいるナビゲーターがいる。2人は連携を確かめるため、手動操作の機体を使い、中田氏が画面を見ずにナビゲーターの指示だけで目的地まで飛ばすことも試したという。「モニターも機体も見ない状態でホバリングし、ナビゲーターの声だけを頼りに、前、右、右、後ろと指示を受けて飛ばすのです。これは信頼関係があり、呼吸を合わせられなければ難しいです」と中田氏は話す。これは通常の点検方法ではなく、パイロットとナビゲーターの意思疎通がどこまで成立するかを確認した事例である。実際の点検でも、パイロットが求める情報をナビゲーターが先回りして伝えられる関係が、安定した運用につながる。

 現場の規模によっては、機材の運搬や機体の回収を担う補助者も加わる。中田氏によると、バッテリー交換を挟みながら1日30~40フライトにわたる調査をすることもあるという。長時間の点検では、集中力を維持するためにも、パイロットやナビゲーターの役割を交代できる人数の確保が必要になる。

石綿や高所作業など現場固有の知識も必要

 屋内点検では、ドローンの知識だけでなく、点検対象となる建物や設備への理解も求められる。その一例が石綿(アスベスト)への対応だ。

 古い建築物では、天井裏などに使われている吹付け材について、石綿を含むかどうかが現場で直ちに判断できない場合がある。そうした場所でドローンを飛ばすと、劣化して落下した材料や堆積した粉じんを、プロペラの風で巻き上げるおそれがあるという。石綿の含有が疑われる場合には事前調査が必要になり、調査や作業の内容によっては隔離養生や負圧管理などの飛散防止措置が求められる。点検前に大がかりな準備や工事が発生すれば、ドローンをすぐに飛ばせるとは限らない。

 一方、古い大型建築物は耐震補強の対象になることも多い。図面どおりに施工されているか、天井裏の構造がどのようになっているかを確かめるため、ドローンによる調査が必要になる場合がある。中田氏は、現場で石綿への対応を求められたことをきっかけに、石綿作業主任者技能講習を修了し、建築物石綿含有建材調査者の資格も取得したという。

 現場ごとの安全ルールへの対応も必要だ。業種や施設によって守るべき規則が異なり、入構前に安全教育を受ける場合もある。必要な装備も現場によって変わる。中田氏は、「作業服を着て、安全靴を履き、防じんマスクや保護眼鏡を着けなければいけない現場もあります。フルハーネス型墜落制止用器具を装着して高所へ上がることもあります」と話し、これまでに職長・安全衛生、高所作業、酸欠場所作業に関する教育・講習等も修了してきたという。

 こうした知識を最初からすべて身につけている必要はない。中田氏自身、出発点はテレビ局での映像制作であり、建築に関する知識はドローン点検に携わるようになってから習得した。新規参入を検討する事業者に対し、中田氏は次のように助言する。「いきなり畑違いの分野に進出しなくても良いと思います。建築に携わっているなら建築物、土木なら土木構造物、設備なら設備点検から始める。そこで実績やノウハウ、操縦経験を積み、対象を広げていくのが一つの考え方です」。

写真:話をする中田氏

資格の取得だけで点検できるわけではない

 建物内部だけで飛行させる場合、ドローン操縦の国家資格である「無人航空機操縦者技能証明」の取得は必須ではない。ただし、発注者や業務の仕様によっては、技能証明書番号などの提出を求められる場面は非常に多いという。

 屋内での運用を前提とする場合でも、屋外から全体を把握するなど、屋外飛行の可能性があるなら、航空法をはじめとする関係法令や機体登録、飛行許可・承認制度への理解が欠かせない。屋内用として導入した機体であっても、屋外へ持ち出せば、飛行場所や方法に応じた手続きが必要になる。なお、無線設備についても、使用する周波数帯や出力、通信方式によって、無線従事者資格や無線局免許の要否が異なる。

 ERI Roboticsの機体は、一般に無線局免許を必要としないWi-Fiの周波数帯を使用しているという。一方、FPVドローンの中には5.8GHz帯の映像伝送装置を使用する製品もある。その場合は、用途や機器の仕様に応じた無線従事者資格と無線局免許が必要になる。

 個人的な練習でアマチュア無線を使用する場合には、第四級アマチュア無線技士以上の資格と無線局免許が必要になる場合がある。ただし、アマチュア無線は業務目的では使用できない。企業が業務や訓練に使用する場合には、第三級陸上特殊無線技士を含め、用途に適した資格、無線局免許、機器の要件を確認する必要がある。

 中田氏によると、小型のFPVドローンは比較的低価格で購入でき、屋内で操縦感覚を維持するための練習に活用できる。ただし、周波数帯や無線設備の条件を確認したうえで使用することが前提だという。

3~5人から適性を見極める

 屋内点検を業務として行うなら、訓練環境の整備も欠かせない。一般的なドローンスクールで基礎を学ぶことにも意義はあるが、屋内点検では一般的な屋外用ドローンに対して使用する機体や飛行環境が異なる。そのため、導入する機体メーカーが実施する専門的な講習が、実務上は重要になるという。

 チームの人数も重要だ。操縦への適性は、実際に飛ばしてみなければ判断できない。候補者が1人だけでは、その人に適性がなかった場合に代替できず、事業の立ち上げそのものが止まってしまう。中田氏は、新たにドローン点検事業を始めるのであれば、3~5人程度の候補者を募り、実際に飛行を経験させることを勧めるという。そのなかから操縦への適性がある人を選び、パイロットとナビゲーターの双方を担えるように育てていく。これは、個々の得意不得意やドローンに対する関心などを考慮した結果だという。

 適性のある人を選べる余地を設けることに加え、会社が日常的な練習の場所と時間を用意できるかどうかも重要になる。個人任せでは、業務時間内に訓練時間を確保したり、実機を飛ばせる場所を用意したりすることが難しい。「上司が理解し、勤務時間中にシミュレーターで練習する、あるいは練習スペースを設けて実機を飛ばす。そうした体制を整えている事業者は、点検業務として定着させることができています」と話す。

 屋内小型ドローンの導入で重要なのは、高機能な機体を購入することでも、操縦が上手な人を1人育てることでもない。点検対象となる建物や設備を理解する人材が、パイロットとナビゲーターとして連携し、継続的に訓練できる環境を整えることが必要になる。機体の導入は、屋内点検を始めるための入口にすぎない。安全に飛ばし、利用可能なデータを取得し、それを継続的な業務として運用するには、人材の選定、役割分担、現場知識、訓練環境までを一体として設計する必要がある。