2021年に「SOTEN(蒼天)」をリリースしてから4年。ACSLは、防衛装備庁への大型受注をはじめとする実績を積み上げ、国産ドローンの先駆的存在として市場を牽引してきた。しかし、国内市場全体を俯瞰すると、国産機のシェア水準は依然として3%未満という厳しい状況下にある。
シェア3%未満の現実とDJIとの構造的格差
ACSL代表取締役Co-CEOの寺山氏は、「体感として3%程度のシェア水準だと認識しています」とドローンの国内市場について話す。
国が国産ドローンの開発に重きを置いてから約6年が経過した現在も、国産機の普及は限定的であり、市場の大半は中国のDJI社が占めている。この差は単なる価格競争では説明できない。寺山氏は、DJIの競争優位について技術力・開発力・サプライチェーンが三位一体で機能している点にあると分析する。老舗カメラメーカーのHasselbladの買収によるカメラ品質の強化、出荷台数の拡大を通じてサプライチェーンを高度化。その結果、製品競争力と販売が相互に強化される好循環を確立している。
一方で、すべての市場領域にDJI社のドローンが適しているわけではない。防衛、公共インフラ、警察・消防など、高度なセキュリティが求められる分野では、データ管理や供給リスクの観点から非中国製機体へのニーズが高まっている。国のシステムとの連携や個別仕様への柔軟な対応といった点において、国内メーカーの優位性が発揮されているのが現状だ。
防衛分野では、他国での戦争においてドローンの有用性が立証されたこともあり、国内で急速に需要が立ち上がっている。3月には、防衛省向けとして受注金額約10億円の案件をACSLが受注した。寺山氏は「需要の立ち上がりが民生に比べて非常に早いのが特徴です。防衛分野の技術は、後に産業用ドローンの進化にもつながります」と言う。
ウクライナ侵攻以降、各国が有事に備えてドローン産業の自国育成に動き出した。日本でも補正予算による支援が進展しており、市場環境は変化しつつある。シェア3%未満という現実は厳しいものの、政策的な後押しを背景に、今後の成長余地は拡大しているといえる。
「完全国産」から「非中国依存」へ──現実的なサプライチェーン戦略
国産ドローンをめぐる議論では、「どこまでを国産と定義するか」が重要な論点となる。ACSLはフライトコントローラをソースコードレベルで自社開発し、国内での組み立ても行っているほか、安全保障上の観点から中国製部品を可能な範囲で排除することを基本方針としている。一方で、執行役員の池内氏は「すべての部品を日本製とする完全国産化については現実的ではありません」と話し、「日本には得意分野とそうでない分野があります。中国だけでなく、米国や欧州、アジアを含め、安全に調達可能な部品は各国に存在し、健全で持続可能なサプライチェーンを構築することが重要なのです」と説明する。
ACSLの調達構成は、モーターは国内製、センサー類は米欧製が中心となっている。一方で、課題となるのがバッテリーだ。バッテリーは中国の製造規模が大きく、中国メーカーへの依存度が高い。SOTENや次世代機でも一定程度の中国製の使用は避けられない見通しであり、仮に完全国産化を実現した場合、機体価格は1.5〜2倍に上昇する可能性がある。これはユーザー負担の増大に直結し、国産ドローンの普及に対して望ましくない。
さらに、調達リスクはすでに顕在化している。2026年初頭には、中国製モーターが「ドローン関連部品」として輸入停滞する事例も発生した。こうした状況を踏まえ、ACSLは「完全国産化」ではなく、「安全保障リスクを排除した非中国サプライチェーンの構築」を現実的な戦略として位置づけている。
すなわち、バッテリー、モーター、電子制御装置といった基幹部品については、中国以外の調達先の確保や国産化を進めつつ、グローバルに安全で持続可能なサプライチェーンを構築することが、今後の競争力の基盤となる。寺山氏は「セキュリティの観点から、主要部品は国産または中国以外のサプライヤーへの切り替えが不可欠」と強調した。
次世代機とAI戦略──ハード追随からソフト主導への転換
ACSLは現在、経済産業省のSBIRフェーズ3に採択された次世代小型空撮機の開発を進めている。最大の特徴はDJI Mavicクラス(約1kg)をベンチマークとした小型化であり、従来機SOTEN(約1.7kg)から大幅な携帯性・飛行時間の向上を図る。これにより、災害対応や監視用途における機動性を高め、現場実装を加速させる狙いだ。
同社の開発ロードマップは明確に3段階で整理されている。第1段階はセキュリティ耐性の確立とされ、すでにSOTENの開発を終えている。第2段階はグローバル水準のハード性能へのキャッチアップ、そして第3段階ではAI・分散制御を軸としたソフトウェア優位の確立である。寺山氏は「AIや技術・分散制御といったソフトウェアの部分をより強化していくことで、他国のドローンとは一線を画した高機能かつリーズナブルなものを目指します」と説明する。
この戦略の中核を担うのが、今年2月に発表したAI開発企業であるPreferred Networks社との協業だ。飛行前・飛行中・飛行後の全工程にAIを実装し、運用全体の高度化を目指す。具体的には、自然言語によるフライトプラン生成、複数機の統合制御と衝突回避、さらにはAIによる自己点検といった機能が想定されている。
注目すべきは、単なる「AI搭載」の訴求ではなく、技術レベルの可視化に踏み込んでいる点だ。自動運転におけるレベル分類のように、ドローンにおいてもAIの成熟度を定義する共通指標の必要性を提起しており、これは業界全体に対する重要な問題提起といえる。
米国市場とウクライナ連携に見るグローバル戦略
海外展開における最重要市場としてACSLが位置づけるのが米国である。NDAAにより中国製ドローンの政府調達が制限される中、同社はSkydioとの比較検討の場面で評価を高めている。池内氏は「ACSLのドローンはDJIに近い操作性と、競合よりも抑えられた価格帯が評価され、実運用に耐える機体としての認知が広がりつつあります」と話す。加えて、顧客と共に製品改善を進める姿勢も差別化要因となっている。仕様変更やユーザビリティ向上に柔軟に対応する体制は、海外メーカーとの差異として市場で評価されている。
さらにグローバル戦略のひとつとして、3月には日本ウクライナドローンクラスター(JUDC)への参画が発表された。ウクライナは実戦環境でドローン技術を急速に高度化させており、AI活用、ジャミング耐性、低コスト量産といった分野で先行する。この知見と日本の機体開発力を融合させることで、防衛ドローンとしての新たな競争力の創出を目指す。
技術ビジョンとしての9つの重点領域
ACSLは中期経営方針「ACSL Accelerate FY26」において、以下の9つの重点技術を掲げている。これは単なる開発項目ではなく、同社が目指す技術的方向性を明確に示したものだ。
- 自律的判断による飛行計画の再構築
- マルチセンサー融合による屋内飛行の高度化
- 100機規模の超多数機運航
- アンチドローン対応を含むセキュリティ強化
- 有人機・障害物との高度な衝突回避
- 第三者上空飛行を可能にする物流技術
- 完全自動充電および機体点検
- 自然言語による飛行計画策定
- 操作系の標準化(FC/GCSの他機体展開)
寺山氏は、製造に追われる中で技術ビジョンが曖昧になるリスクを強く意識しており、「メーカーは開発に注力しがちですが、技術で未来を創造することが重要だと思っています。9つの技術を公表することで自らのコミットメントにもなります」と話し、業界への問題提起を両立させた。
国産ドローンの課題は、単純な性能や価格競争では解決しない構造的な問題にある。一方で、安全保障、サプライチェーン、AIといった新たな競争軸が明確になりつつある。
ACSLの戦略は、「非中国依存のサプライチェーン構築」と「AI主導のソフトウェア競争力」という二軸に収斂する。これは単なる企業戦略にとどまらず、日本のドローン産業全体が進むべき方向性を示唆している。
