写真:ブルーイノベーション クラウドモビリティ研究所の入り口に立つ熊田雅之氏

 板橋ドローンフィールド(DF)は東京23区内に立地し、ドローンに関する研究・開発や教育が行われている施設だ。巨大な物流施設に併設され、大型トラックが日常的に行き交う環境にある。つまり「リアルな現場」のなかで、各種実証に取り組める稀有なフィールドとなっている。本記事では、開設当初から板橋DFに研究拠点を構えるブルーイノベーションへの取材を通じて、同施設の活用方法や利点を掘り下げ、その魅力に迫る。

都市型物流拠点に組み込まれたテストフィールド

 板橋DFは東京23区北部の板橋区舟渡に位置し、2024年9月に竣工したまちづくり型物流施設「MFLP・LOGIFRONT東京板橋」のなかに整備されている。敷地面積は約2万7,600坪、延床面積は約7万7,400坪、建物は6階建てと、首都圏でも有数の規模を誇る物流施設である。首都高速へのアクセスに優れ、首都圏の物流インフラの一角を担っている。

 板橋DFの大きな特徴は、この広大な敷地と巨大建築物を活かした研究・開発が行えることだ。GPSが入らない暗所や狭小空間に加え、外壁、ソーラーパネルや橋梁などでは、ドローンで点検する需要が高まっている。MFLP・LOGIFRONT東京板橋は、これらすべてを備え、ドローンの実証フィールドとして活用可能だ。

 屋外のネットフィールドでは、風や日照といった環境要因の影響を受けながら、より実際の現場に近い環境での検証が行える。さらに、敷地の南側には新河岸川が流れており、将来的には河川上空を活用した物流実証も検討されている。

ブルーイノベーションが語る板橋DFの価値

写真:暗所をライトをつけて飛行する「ELIOS 3」
ブルーイノベーションが国内販売を手掛けるスイス・Flyability社の「ELIOS 3」。搭載したLiDARによって、飛行しながら周辺環境の点群データを取得し、リアルタイムにマッピングを行う。点検箇所の位置特定などが明確に視覚化された。

 倉庫スペースの一部はR&D区画として貸し出されている。ここに拠点を置き研究・開発に取り組んでいるのが、ブルーイノベーションだ。同社は球体ガードを備え、屋内点検に利用可能なドローン「ELIOS 3」を活用した点検ソリューションを提供するほか、複数のドローンやロボットの運用や取得したデータの管理などを行う独自のプラットフォーム「Blue Earth Platform」(BEP)を開発している。

写真:熊田雅之氏
ブルーイノベーション株式会社 取締役 副社長執行役員 熊田 雅之氏。

 BEPの一例である「BEPライン」は、簡単な操作でドローンを送電線に沿って自動航行させるアプリケーションおよびセンシングモジュールだ。風や電圧変動により揺れやたるみが生じる送電線に対し、BEPラインを利用すれば、ドローンは自動で送電線を追従しながら点検を行う。ブルーイノベーション副社長の熊田雅之氏は、「ドローン点検に対する関心の高まりを肌で感じています。5年後、10年後もインフラは残る一方で、労働人口は減少します。人が担っている点検業務をロボットやドローンで代替し、自動化していくのが当社のミッションであり、その中核を担うのがBEPです」と説明する。

 同社は2024年10月、板橋区内の別拠点からR&D施設を移転し、板橋DFに「クラウドモビリティ研究所」を開設した。現在はエンジニア約15名が駐在し、同研究所で業務に携わっている。移転効果について熊田氏は「絶大でした」と即答する。

 続けて、「非GPS環境下となる暗所・狭小で点検可能なドローンに対する問い合わせが多く寄せられます。ELIOS 3はこのような場所でこそ真価を発揮しますが、デモンストレーションや操縦者教育に利用できる施設を確保するのは難しいです。しかし、同施設では建物を支える部分が『地下ピット点検ゾーン』として開放されています。また、建物の壁面を点検する様子の公開や教育にも利用できますが、その周囲には大型トラックが走行しています。まさに『本物の現場そのもの』の中で、ドローンを飛行させられる。知見が蓄積され、ドローン産業の発展にもつながります」と語った。

写真:地下ピット点検ゾーンで操縦者がドローンを飛行させる様子
現場と同様の環境でドローンを飛ばすことができる「地下ピット点検ゾーン」。屋内点検などの検証が可能。
写真:暗所をライトを点灯して飛行するドローン
「ELIOS 3」は、高輝度な1万6000lmのLEDを採用しており、暗所でも視認性の高い点検を可能にしている。
写真:プロポのディスプレイに表示された飛行軌跡
「ELIOS 3」に搭載したLiDARによって、リアルタイムにマップを生成。マップ上には飛行軌跡も記録される。

 ドローンやUGV(無人運搬車)の研究では、実際に実機を運用することが肝心だ。その点、R&D施設と検証できる場所が隣接しており、プログラムやデバイスを改良し、すぐに施設内で検証できる点は大きなメリットと言える。その検証結果を踏まえてさらに調整する……精度を高めるための作業を容易に繰り返せる環境は、東京23区内にはなかなかない。

 研究・開発におけるコストの圧縮も課題だが、板橋DFの利用で節約が可能になった。熊田氏は、「従来はテストのために全国各地を飛び回っていました。地方に行けば、交通費や宿泊費がかさみます。板橋DFは東京23区内にあり、自動車でも公共交通機関でもアクセスがしやすく、見学者も呼びやすくなりました」という。

 クラウドモビリティ研究所内の研究内容の一例として、UGVの位置制御の向上に関する取り組みがある。GPSが入らないトンネル内では、UGVの自己位置推定および制御が難しい。そこで研究所内に擬似トンネルを構築し、その中でUGVの走行データを取得。これを反映させた機体を用いて、実際のトンネルなどで実証を行っているという。また、モーターやタイヤの個体差がある中で、センサーやソフトウェアを共通化するための検証も同時に進められている。試したいことがすぐできる。その結果、研究スピードは格段に向上しているのだ。

写真:屋外に設置されたドローンポートとドローン
検証施設として「地下ピット点検ゾーン」をはじめ、「バルコニー飛行ゾーン」「外壁点検ゾーン」「橋梁点検ゾーン」が設けられており、「バルコニー飛行ゾーン」と隣接する形で太陽光パネルが設置され、点検の検証も可能だ。

 ブルーイノベーションは文部科学省が推進する「アントレプレナーシップ教育」の一環として、日本大学豊山女子高等学校(東京・板橋)の生徒を対象に、ドローンを活用した地域課題の解決に関する授業を行っている。2024年度には、不審者の発見・監視や垂直方向への物資輸送といったアイデアが生まれ、板橋DFで実証を実施した。ブルーイノベーションが協力して学生たちは自身のアイデアの検証を行った。このように板橋DFは、若い世代の挑戦を育てるインキュベーターとしての役割も担っている。

 施設内環境についても触れておきたい。物流施設とはいえ、執務エリアは都心オフィス並みの機能性を備え、清潔な給湯設備やトイレを完備する。敷地内にはコンビニエンスストアが2店舗、開放的なカフェテリアもあり、研究と業務に集中できる環境が整っている。

 なお、板橋DFは研究・開発拠点としての機能を備える一方で、常駐型の研究所区画については現在すでに満室となっており、新規入居者の募集は行われていない。一般利用者が利用できる施設としては、ドローンの打ち合わせや準備に活用できる「ドローンラウンジ」(5,500円/1時間)、屋外での飛行検証が可能な「ネットフィールド」(5,500円/1時間)、そして少人数の打ち合わせに適した貸会議室(2,200円/1時間)が用意されている。一方、地下ピット点検ゾーンをはじめとする各種検証施設については、内容に応じて個別の問い合わせによる利用相談を受け付けている。現時点では主に入居企業向けの活用が中心となっているが、将来的には一般利用者にも開放できるよう、運用方法の検討が進められているという。

▼板橋ドローンフィールド-MFLP・LOGIFRONT東京板橋
 会員登録(無料)は下記URLから
https://mflp.mitsuifudosan.co.jp/itabashidf/

板橋ドローンフィールドのロゴ

 東京23区内という立地、即時試験が可能な実環境、時間やコストのロスを抑えられる点を考えると、ドローンやロボットの開発を手掛けるスタートアップや、大学研究室などに適した拠点と言えるだろう。

 熊田氏は「大学発スタートアップや、学生起業がここに集まり、コミュニティが形成されれば、研究の循環はさらに加速するのではないでしょうか」と将来像を描く。

 板橋DFは、研究開発拠点であると同時に、都心でドローンに触れ、実証の一端を体験できる数少ないフィールドでもある。今後、利用可能な範囲が広がれば、事業者や教育機関にとって、より身近な実証・交流の場へと発展していくことが期待される。