おもに狭所点検用ドローンを手がけるERI Roboticsと、下水道・排水管の維持管理機器販売のカンツールは、管路調査に特化した点検用ドローン「Small Doctor Argo」を共同開発したと発表。7月28日に千葉県松戸市のカンツール松戸テクニカルセンターにおいて、同機のデモンストレーションを報道関係者に対して行った。
水面への着水・再離陸に対応する「飛行艇型」ドローン
この日、ERI Roboticsとカンツールが披露したSmall Doctor Argoは、約50cm四方のクワッドコプター。機体全周を囲むプロペラガードに加えて、スキッド(着陸脚)に筒状のフロートを装備しており、水面に着水して浮くことができることが最大の特徴となっている。ERI Roboticsでは同機を「飛行艇型」と呼んでおり、点検作業中に管路内で一時的に飛行を停止する必要がある場合に、管路内に水があったとしても安全に着水し、再び離水することができるというものだ。
こうした管路内を点検する飛行型ドローンは、管渠への接触をはじめとして常に墜落のリスクが伴う。管路内に汚水がある場合には、墜落すなわち水没ということになりかねない。Small Doctor Argoでは、そうしたリスクをフロートで解決したとしている。
これまでにもERI Roboticsではおもに屋内狭所部の点検用ドローン「Small Doctor」シリーズとして、3機種のモデルを展開してきた。今回リリースしたSmall Doctor Argoは、下水管路というこれまでとまた違う領域でのドローンという位置づけで、古代ギリシアでヘラクレスが乗船して未開の地に踏み入れた“絶対に沈まない船”である「アルゴー船」にちなんで名付けたとしている・
光ファイバー通信を採用、管路内の電波遮蔽に対応
さらにもうひとつの特徴が、機体とその操縦を行うコントローラーとの間の通信を、一般的な電波を使った無線方式ではなく、光ファイバーを使った有線方式としている点だ。機体とコントローラー間の通信に電波を用いる場合、コンクリートの管によって電波が反射されることでマルチパスが発生し、制御に支障が出るとされる。また、屈曲した管路の場合、電波が屈曲部で遮蔽されて届かなくなり、やはり制御できなくなる。そこでSmall Doctor Argoでは、この機体とコントローラー間の通信に光ファイバーを採用している。
光ファイバーは機体下部に取り付けられた筒状のカートリッジに約3km分の長さが収められており、筒の後部からクモが糸を吐くように繰り出される。そしてこの光ファイバーで機体の操縦とテレメトリー情報の取得、さらにカメラが撮影した映像のデータすべてがやり取りされる。この日展示されていたものは、黄色い被覆がある光ファイバーであったが、実際には糸のように細い光ファイバーが用いられるという。
3kmの光ファイバーを機体から繰り出して飛行
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に伴う戦闘をきっかけに、さまざまなドローンが用いられているが、その中で無線では妨害を受けることや操縦者の位置が特定されやすいことから、光ファイバーを用いた有線方式のドローンが多数使われている。空中を飛行するドローンの場合、光ファイバーが何かに引っかかるようなことは少ないのかもしれないが、Small Doctor Argoが飛行する下水管路の中では、管路が屈曲していたり管内部に突起が出ていたりして、そこに光ファイバーが引っかかる可能性が考えられる。
こうした懸念に対しては「たとえ引っかかったとしても、ドローンが進むのに合わせて光ファイバーが繰り出されるので、光ファイバーがピンと張ってドローンが落ちるようなことはほとんどない。また、光ファイバーが引っかかってドローンが身動き取れないときには、光ファイバーを切断すればいい」(藤本氏)という。ただし、光ファイバーが切断されると機体とコントローラー間の通信が途絶するため、「そうした時には自動帰還するといった機能を今後開発する」(藤本氏)としている。
また、下水管路の点検ではドローンをはじめとした検査ロボットを進入させる場合、ひとつのマンホールから進入させて、管路を進ませ、隣のマンホールで回収するという方法が用いられる。Small Doctor Argoでは回収の際に光ファイバーを切断するといい、そのために光ファイバーの収納部をカートリッジ式にしておき、ドローンを飛行させるたびにこのカートリッジを交換する。カートリッジにはERI Robotics側であらかじめ光ファイバーを巻いて収納されており、「カートリッジは消耗品として販売する」(藤本氏)としている。
ビジュアルオドメトリーで飛行を安定化、今秋以降の販売を予定
Small Doctor ArgoはほかのSmall Doctor同様、単眼カメラのビジュアルオドメトリーによるポジショニング機能を搭載しており、安定した飛行を実現。また、プロペラガードと機体上部のフックも兼ねたガードによって、下水管に接触しても張り付いて墜落するようなことを防いている。1/2インチのCMOSセンサーを採用したカメラは、下方90度、上方25度の範囲で可動するジンバルで支持されている。
このSmall Doctor Argoはカンツールを提供元として、機体を販売するほか、オペレーターの派遣と合わせた形のレンタルも行う。販売した場合の価格は「およそ500万から700万円くらいになるのでは」(小川氏)としている。ERI Roboticsによると発表会時点では開発中であり、「8月末にはテストをして、それでOKが出れば今秋以降販売する」(小川氏)見込みだ。カンツールによるとまずは2027年3月までに10機の販売を目指しており、年間販売基数は20機を見込んでいる。
