写真:研修の様子

 空撮や測量といった分野から社会実装が進んできたドローンの産業利用において、近年はインフラや工場の設備の点検用途でも、ドローンによる点検手法が実験や実証の段階から本格的なソリューションとして実装されつつある。

 こうした中で、現場でドローンを飛行させるオペレーターの知識や技術はもちろんのこと、インフラ・設備の点検を取りまとめる事業者の管理部門や、ドローン専門事業者に運航を外注する発注者にも、ドローンによる作業のフローや企業としての安全管理の責任が求められるようになってきている。

 そこで産業用途におけるドローンの人材育成を手がけるスカイピークでは、こうしたドローン業務の管理者向けの人材育成を目的に、企業のニーズに合わせた「管理者研修」を行っている。

企業が抱えるドローン運用・管理の課題とは

写真:笑顔の高野氏
株式会社スカイピーク 代表取締役 高野耀氏。

「これまで数多くの企業に対してドローンに関する講習や導入支援を行ってきたが、企業からは『社内でドローンを運用していくなかでさまざまな課題がでてきている』という相談を受けて始まったのが『管理者研修』」だという高野氏。

 自動航行ドローンやドローンポートの登場により、企業にとって年々ドローン導入のハードルが下がっている。そのためドローンを利用する企業の間では、まず機材を導入し、同時に社員に民間資格の操縦技能講習や、登録講習機関による国家資格講習を受けて技能証明を取得させれば、ドローンを安全に運用できると捉えられている。しかし、実際に現場でドローンを運用しようとすると、こうした資格講習で身に着けた知識や技能だけでは対応できないことも多いという。

 また、ドローンの運用を内製化する企業にとって課題の一つとして挙げられるのが、担当者の異動だ。ブラックボックス化された、“あの人にしかわからない運用ノウハウやリスク判断”が、現場では行われている例も少なくない。ドローンに関する知識や技能を身に着けた社員が人事異動で担当を外れると、新しい担当者にイチからドローンに関する再教育を行う必要がある。また、社内で独自に育成を行う取り組みも増えているが、航空法をはじめとしたルールや機材のアップデートのペースが速く、適切に対応する形で継続的な安定教育を行うのは難しい。そもそも、ドローンの利用企業はドローンの運用が目的ではなく、あくまでも本業を効率化するためのツールとして導入している。それだけに、ドローンに関する人材教育は日常業務の中で負担でしかない。

 一方、ドローンの運用を専門業者などに外注する場合、航空法をはじめとした法令・ルールへの対応や、運用に関する技術などはその事業者に委ねることができる。ただし、この知識や技術のレベルはドローン事業者によってさまざまであり、発注時点でそれを見極めることは難しい。一方で、作業全体を指揮・監督する立場となる発注者にも、結果として指揮監督できるだけの知識や発注元としての責任が求められる。一般的にはドローンの運用を外注することで、内製化による管理や教育の負担やコストを抑制できると思われがちだが、発注企業側にドローン運用を管理する一定の知見がないと、コンプライアンスのレベルは外注先のドローン事業者によって左右されることになり会社としてコントロールできていない状態となる。「自社の社員のみならず、協力業者や第三者を守るためにも、法令やルールを正しく理解したうえで、適切な安全管理のもとドローンを運用することは重要だが、内製化であっても外部委託にしても、知見の蓄積や教育は企業にとって大きな負担となっている」(高野氏)という。

実務を想定したワークショップで管理者の判断力を養う

 こうしたドローン利用企業が抱える、“ドローンの運用を管理する”ことに対してスカイピークが提供しているのが「管理者研修」だ。細部の内容は利用企業のニーズに合わせる形でさまざまではあるが、座学におよそ半日、実技におよそ半日という形の講習を基本としている。座学についてはとくに重視しているのが、受講企業のユースケースに基づいたワークショップのパートだ。

 一般的な資格講習では、合格が目的となるため講義を聞いて“覚える”ことに重きを置いているケースが多いが、この研修では受講企業から実際の業務でドローンを利用する状況をヒアリングし、それをもとに実業務にもとづく身近な各ケーススタディでドローンを利用するうえで“法律的な観点でこの現場はどう考えればいいか”“安全面では何に気を付けなければいけないか”ということを複数の受講者がディスカッションしながら実務シーンでの理解を深める形を取っている。「ワークショップでは、明確な答えがないものに対して、受講者それぞれが何に気を付けなければならないか、ということを話し合うことで、現場でのドローン運用の勘所を身に着けてもらうことが狙い」(高野氏)だという。

座学内容の例

  • ヘリポート周辺での飛行の際に行うべき対応
  • 目視外×夜間飛行の場合など、包括申請で対応できるケースとできないケース
  • 150m以上の空域でも、当該構造物から30m以内の空域は無人航空機の飛行禁止空域から除外されている

 また、受講者が実際にドローンを運用するわけではなく、ドローンによる作業を管理・監督する立場であったとしても、現場でドローンを運用する際のフローやリスクを、ワークショップを通じて自分ごととして学習することで、社内でドローンを運用するにしろ、外部の業者に委託するにしろ、適切な管理ができるようになる。「実際にこの研修を受けた企業からは、飛行の難易度や注意すべきポイントがわかってきたことで、“自社でやるケースと、外部の専門業者に委託するケースの判別ができるようになった”という声をいただいた」(高野氏)という。

法規制に関する事例紹介:出題事例①
出題事例①:DID、空港周辺、ヘリポート周辺、昼間飛行の条件で、建物調査を行うために必要な手続きとは?
法規制に関する事例紹介:出題事例②
出題事例②:DID、夜間飛行の条件で、建物調査を行うために必要な手続きとは?
法規制に関する事例紹介:出題事例③
出題事例③:DID、高さ166m(高度150m以上)の高層ビル、鉄道近傍、昼間飛行の条件で、建物調査を行うために必要な手続きとは?

 大手企業の中には、単発の研修に加えて、持続可能な体制作り目的に、独自のガイドラインやマニュアルを整備してドローンを運用している事業者もある。こうした企業からは「研修を受講したことで、問題ないレベルだと考えていた社内教育に課題があることがわかった。外の目でチェックしてもらえたことで、社員の安全意識の向上と事故やインシデントの未然予防にも役立っていてありがたい、という声もあるようだ。

技能証明だけでは身に付かない実務で求められる安全運用

 ドローンを利用したいと考えている企業は、無人航空機操縦者技能証明はレベルが高い知識と技能を有する資格と捉えている人も少なくなく、「そこまでのものはいらない」という声もあるという。しかし、技能証明はドローンを飛行させるための最低限の知識と技能を備えたことの証明であり、ドローンを使った実務においてはスタート地点ともいえるだろう。

 スカイピークの管理者研修の実技講習では、飛行業務の一連の流れの確認や注意点からはじまり、フェイルセーフにおける学びや模擬体験、技能証明の試験にあるようなGPS機能を切って、操縦者が自らドローンの位置を安定させる経験など網羅的な学びの機会を設けている。そんな実技講習の内容は厳しいと見る向きもあるという。それに対して高野氏は「技能証明の講習や試験に合格しても、それは自動車の運転免許に例えると、教習所の中で運転できるようなものでしょうか。確かにほとんどの現場でドローンを運用するうえでは、GPS機能を切る必要がないため、国家資格が求めるレベルまではいらないのではないか、という声もある。しかし、業務の中では、手動操縦・自動飛行のいずれの運用方法であったとしても、いざというときに第三者に被害を与えることなく安全な緊急着陸や回避ができなければならず、多くの人はそのようなシチュエーションのイメージができない。今後、企業の中でドローンの内製化が進むにつれて、持続可能な現場運用に向けた安全教育や社内体制の整備など実務的な課題や相談がより顕在化するのではないか」と意義を語る。