写真:ドローンを持つ兵士のシルエット

現地で見えた運用・調達・訓練の実態

 ロシアによるウクライナ侵攻は、現代戦におけるドローンの位置づけを大きく変えた。前線では小型の偵察用ドローンやFPVドローンに加え、中・大型の爆撃用マルチコプター、固定翼型の中距離攻撃機、長距離打撃用の無人機、通信中継や電子戦に関わる機材まで、多様なシステムが日々投入されている。戦闘の長期化に伴い、ドローンは一部の部隊が使う特殊装備ではなく、前線を支える基盤のひとつになりつつある。

 本稿では、実際にウクライナに一定期間滞在し、ロシアの侵攻下にある現地の状況を見てきた日本技術安全保障戦略機構(JISDA)の國井氏が、ウクライナにおける軍事用ドローンの進化、運用実態、製造・調達の構造、そしてドローン兵に求められる訓練と適性について整理する。

ドローン戦を動かしているのは、機体性能だけではない

 ウクライナの前線で起きているドローン戦の本質は、「無人機という新しい兵器が大量に使われている」という一言では説明しきれない。重要なのは敵の動きを観測し、その情報を共有することで攻撃につなげ、その結果確認後に失敗や損耗をすぐに改修へ戻すという循環がきわめて短い周期で回っている点にある。

写真:屋外でドローンを手にする兵士
飛行試験の様子。

 この循環の中で、ドローンは単体の無人機として使われているわけではない。観測、通信、判断、攻撃、補給、訓練、現地改修を結びつける即応システムとして機能しているのだ。したがって、軍事用ドローンを理解するには、機体の飛行性能や搭載量だけを見ても不十分だ。一連の循環を前提とした運用全体を見なければならない。

 ドローンによる攻撃と聞くと、あらかじめ設定された目標に向けて機体が飛び、任務を遂行する姿を想像するかもしれない。しかし、防御戦闘が続く前線では、日時を指定した計画的な攻撃だけでは通用しないのだ。敵の接近や部隊の移動、突然発見された車両や拠点など、戦況はリアルタイムに変化する。このような変化への対応力が大きな比重を占めている。

 そこで問われるのは、カタログ上の飛行距離やペイロードだけではない。機体をどれだけ速く立ち上げられるか。現場の電波環境に合わせて設定を変えられるか。得られた映像や座標を味方の判断にどれだけ早く接続できるか。こうした運用面の速度が、前線では直接的な価値になる。つまり、ドローンは「飛ぶ兵器」であると同時に、観測から攻撃までの意思決定を短縮する装置でもある。戦場で優位を得るには、機体そのものの性能だけでなく、情報を受け取り、判断して次の行動へ移すまでの一連の流れを迅速に行う必要があるといえる。

前線で進化を迫られる二つの理由

 軍事用ドローンの進化速度は、前線では非常に速い。その理由は大きく二つに整理できる。

 ひとつは、敵の変化に合わせるための進化である。敵が妨害方式や使用する周波数帯を変えたり、ドローンの進入経路や運用パターンを読んで対策してくることがある。こうした変化が起きるたびに、部隊側は設定や運用方法を短期間で変えなければならない。戦線の状況や敵の練度にもよるが、前線ではひとつの対策が1〜2週間ほどで通用しなくなることもある。そこで改良の中心となるのは、映像伝送系、操縦・通信系、アンテナ構成、電源周り、ジャマーや受信機との接続、表示端末との連携といった電波関連の要素だ。これらは一見すると現場レベルの細かな調整に見えるが、実際には作戦全体の成立に関わる。映像が途切れれば目標を確認できず、通信が失われれば機体を失う。小さな技術的差異が、任務の成否を分けることになる。このように、敵への対策を互いに繰り返すことでドローンの技術が進化していく。

 もうひとつは、敵に対して優位を得るための進化である。これは単なる応急処置ではない。より遠くの目標を見つけることや、妨害を受けても任務を継続する、夜間や悪天候に近い条件での運用といった敵に対する優位な立場を取るために機体と運用は絶えず改良されていく。

 この段階になると改良対象は航法、カメラ、画像処理、飛行制御、任務支援ソフトウェア、情報共有基盤にまで広がる。個々の機体性能を上げるだけではなく、観測、識別、共有、攻撃、再評価までの速度を高めることが重視される。戦術レベルの即応性に加え、作戦層や戦略層に近い判断を支えるための改良でもある。

 この二つの進化は、実際の戦場では明確に分かれているわけではない。敵の妨害に対応するための改修が、結果として次の優位につながることもある。反対に新しい装備や機能を投入したことで敵の対抗手段を引き出し、再び現場での適応を迫られることもある。現代のドローン戦では完成した機体を配備し、そのまま長期間使い続けるという発想は成り立ちにくい。ドローンの装備類や構成部品の技術は投入された瞬間から変化する環境にさらされる。そのため、高価かつ高品質な完成したドローンよりも、改良しやすく安価な消耗を前提としたドローンが求められる傾向にあるのだ。前線で評価され、修正され、再び投入といった繰り返しに追随できるかどうかが、戦場での優位を左右している。

FPVドローンだけでは語れない前線の実態

 ウクライナのドローン戦では、FPVドローンが大きな注目を集めてきた。操縦者がゴーグルに映し出される映像を見ながら機体を操作し、目標へ接近するタイプのドローンである。比較的安価に調達しやすく、前線で発生した即応攻撃に向いているため、戦場での存在感は大きい。

 ただし、FPVドローンだけが軍事用ドローンの中心であり続けるわけではない。現地では、任務に応じてさまざまな機体が使い分けられている。小型の偵察用ドローン、FPV型の攻撃ドローン、爆撃用に改造された中・大型マルチコプター、固定翼型の中距離攻撃機、長距離打撃用の無人機、通信中継や電子戦に関わる機材など、その種類は幅広い。

 例えば、より長い距離を飛行し、一定のペイロードを運べる中距離攻撃用の固定翼機も増えている。「ライトニング」や「DARTS」と呼ばれる系統の機体は、FPVよりも広い範囲を担う存在として位置づけられる。前線直近の目標だけでなく、やや後方にある補給拠点や集結地点などに圧力をかけるために使われる。

 爆撃用ドローンでは、「ババヤーガ」と呼ばれるような中・大型マルチコプターの改造機が目立つ。小型FPVほど安価ではないものの、より大きなペイロードを搭載できるため、夜間運用や反復的な投下任務に用いられやすい。前線では夜間にこうした機体が低空で接近し、爆発物を投下する運用も行われている。

 なお、各ドローンの役割は機種ごとに固定されていない。ある機体が偵察に使われ、別の状況では攻撃支援に転じることもある。偵察、監視、攻撃、爆撃、通信、電子戦への対応が一体化しているため、機体の分類だけでは実態を捉えきれないのが実情だ。現地で重要なのは、名称や機種そのものではない。敵の妨害環境にある戦域の中で、その部隊の練度と補給状態を前提に任務を成立させられるかどうかである。どれほど高性能な機体であっても、通信が通らなかったり整備ができなければ戦力にはならない。反対に簡素な機体でも、現場の条件に合い、部隊が使いこなせるならば大きな意味を持つ。

完成品を送るだけでは、前線の速度に追いつけない

 製造と調達の構造も従来の銃火器をはじめとする装備類とは大きく異なる。進化の速い戦場では、後方の工場で完成品を作り、手続きを経て前線へ送るといった従来の仕組みでは間に合わないことがある。とくに電波環境や敵の妨害手段に関わる部分は変化が速く、製造時に最適だった設定が、前線に届く頃にはすでに通用しなくなっている場合もある。そのため現地では、機体の基本構造や主要部材を工場で用意し、それ以外は戦況に合わせて組み込む形が現実的になっている。緊迫している前線ではドローンを運用するだけではなく、組み立て、改修、試験、再投入の現地調整を行う拠点にもなっている。

 例えば翼、胴体、フレームといった基本的な構成部分は工場でまとめて準備する。その一方で、電子系や運用設定のように変化が激しい部分は現地で調整される。取り付け具、保護部品、固定部品、治具のような小物は3Dプリンターで作られることもある。こうした方法は高度な工場設備だけに依存しない分散型の製造基盤であり、戦場の変化に合わせて装備を変えるための現実的な手段となっている。

 さらに部品の流通も見逃せない。軍事用ドローンは専用部品だけで構成されているわけではない。モーター、バッテリー、カメラ、配線、制御基板、樹脂部品、固定具など、民生用やデュアルユースの部品に大きく依存している。こうした部品は広く流通しており、状況によっては現地で調達しやすいという利点がある。

 もちろん、すべてが容易に進むわけではない。部品の個体差や輸送の不安定さ、在庫の偏り、敵による攻撃、規制の影響は避けられない。それでも、前線で必要なものを前線に近い場所で入手し、組み立て、試験し、改良する仕組みが存在していることはドローン戦の持続性を支えている。

 このような構造下では、「より質の高い完成品を納めること」が調達の価値ではないといえる。むしろ、自ら組み立てや部品交換を行える前線の人材のほか、ソフトウェアや設定を短時間で変更できる体制、修理不能な機体を部品取りに回すことができるリサイクル可能なドローンが重要になる。

 ドローンは重要な航空兵器である一方、弾薬に近い消耗品として扱われる面もある。少数の高性能機を大切に維持するだけではなく、失うことを前提に補って更新し続ける発想が必要だ。

ドローン兵に必要なのは、操縦のうまさだけではない

 ドローンを扱う兵士の訓練も単純な操縦教育ではない。基礎課程では操縦感覚に加えて、空間認識、映像から地形や距離を読み取る力、機体の挙動を予測する力、緊張下で操作を続ける集中力といった特殊なスキルが求められる。

 とくにFPVドローンの操縦には、センスの要素が大きく影響している。ドローンレースでも分かる通り、訓練を重ねれば誰もが同じ水準まで上達するというものではない。そのため、基礎課程の段階で多くの人員がふるい分けられる。これは厳しさを目的とした選抜ではなく、限られた訓練時間と機材を適性の高い人材に集中させるための現実的な判断なのだ。

 基礎課程を通過した者は、より実戦に近い応用訓練へ進む。そこでは、単に飛ばせるだけでは足りず、偵察、目標発見、味方との情報共有、即応目標への対応、電波妨害下での判断、機体喪失時の切り替え、夜間や視界不良時の運用など、チーム内での役割分担が求められている。

 また、任務は操縦者ひとりで完結できるものではない。任務遂行時にはチームを組み、ナビゲーターや整備担当、情報を整理する者、通信や電子戦に詳しい者、指揮判断を行う者が連携して初めて任務が成立する。ドローン兵とはパイロットだけではなく、小さな複合チームの一部であり、それぞれが専門性に長けた人材が必要となる。実戦に入った後も、適性の見極めは続く。最初の任務で強さを発揮する者もいれば、訓練では優秀でも戦場の緊張や疲労に耐えられない者もいる。逆に、操縦そのものは突出していなくても、整備、観測、電子系の調整、情報整理、部隊間の連絡で高い適性を示す者もいる。実戦経験を通じて役割が振り分けられ、チーム全体として任務を遂行する体制がつくられていく。

 ここで見落としてはならないのが疲労と人材不足である。前線では過労、睡眠不足、緊張、喪失の経験が重なり、判断力と集中力を削っていく。ドローン運用は画面越しの戦闘であり、一見すると身体的負荷が少ないように思われるかもしれない。しかし、実際には判断の密度が高く、精神的負荷は小さくない。敵の動きに対する対策を繰り返し、任務を遂行するには本人が自覚する以上に消耗する。そのため、訓練体系には技量だけでなく、メンタルケアやモチベーション維持といった内面を整えるコミュニケーションを含める必要がある。

戦場で生き残るのは、変わり続けられる仕組み

写真:足場が組まれ、覆いで防護されたモニュメント
写真:See you soon! Yours, Volodymyr.
空爆に備えて防護される像と、そのカバーに記された “See you soon! Yours, Volodymyr” の言葉。戦争が終わり、像と街の風景が元に戻る日への願いが込められた言葉のようにも見える。

 現代のドローン戦で求められるのは、万能な機体でも万能な操縦者でもない。必要なのは変化に耐える仕組みである。ドローンの進化とは、機体の進化であると同時に、製造、調達、訓練、運用、改修、情報共有の進化でもある。ウクライナの前線が示しているのは、戦場で生き残る装備とは、完成度の高い固定された製品ではなく、現場で変わり続けられるシステムだという事実だ。

國井 翔太
日本技術安全保障戦略機構(JISDA)代表取締役CEO
一般社団法人ルール形成戦略機構 理事

幼少期からロボカップへの出場などを通じ、ロボティクスやものづくりに親しむ。大学では工学を学びながら、経済安全保障や国際関係にも関心を広げ、マルチエージェントAIやロボティクスを研究。日本の優れた科学技術を社会課題の解決や産業競争力の向上につなげたいとの思いからJISDA株式会社を創業した。現在は、技術・産業・政策を横断し、日本から新たなイノベーションを生み出すための事業に取り組んでいる。