天井裏から発電所ボイラーまで――現場の最前線に見る活用実態

 ドローンによる点検と聞くと、橋梁や送電設備、建物外壁といった屋外インフラの点検を思い浮かべる人が多いだろう。しかし近年、ドローンの活用領域として屋内空間が注目されている。人の立ち入りが困難あるいは危険を伴う閉鎖空間で、小型ドローンの活用が本格化しつつある。

 こうした屋内点検分野に取り組んできたのが、屋内点検用ドローンを展開するERI Roboticsの中田浩毅氏だ。2017年頃からマイクロドローンを自作し、屋内点検の研究と実証に取り組んできた。本稿では、小型ドローンで点検可能な構造物と、従来手法との違いを中心に解説しよう。

写真:川を背景にした中田氏
株式会社ERI Roboticsの中田浩毅氏。ERI Roboticsは、1月にTOMPLA株式会社と株式会社COBALTが統合することで新会社として創設された。COBALTの代表取締役を務めていたのが中田氏だ。

 屋内点検の代表的な対象として挙げられるのは、ビルや商業施設の天井裏、マンションや戸建住宅の床下、配管や設備機器が収容された地下ピットなどだ。これらの空間は人が進入できる大型設備も多いが、そのような場所であってもドローンを活用することで足場の設置や危険な姿勢での作業を省略でき、作業効率と安全性を大幅に向上させることができる。

 一方で、中田氏が手がけてきた現場は建築物の内部にとどまらない。発電所や工場のボイラー内部、各種配管、サイロ、導水路、ダム関連施設など、人が容易に進入できない特殊な閉鎖空間にも及ぶ。中田氏は、「導水路や土木構造物の内部なども、屋内環境(閉鎖空間)に含まれます」と説明する。屋内点検と一口に言っても、その性質は大きく異なる。床下や天井裏のように人がかろうじて進入できる空間では、安全性向上や省力化が主な目的となる。一方、配管内部や炉内、サイロのような人が進入できない空間では、ドローンでなければ実施できないケースも少なくない。

写真:オフィスビルの吊り天井裏を点検飛行するドローン
オフィスビルの天井裏は吊り天井となっていることもあり、多くの金具が使われている。人が入るのは狭く困難なため、ドローンが活躍する。
写真:地下ピット内を点検飛行するドローン
被写体に最大限接近可能な小型ドローンは、写真のような広い空間の地下ピット内であっても役立てられる。
写真:下水施設内をドローンが点検飛行する様子
近年、小型ドローンが注目を集めたのが下水施設内の点検だ。暗く狭い下水施設では人が入れない場所も多く、人命にかかわる危険も伴う。

 ERI Roboticsの藤本代表も、現場のニーズの高まりを実感していると話し、「屋根裏や狭小空間の点検を内製化したいという相談が増えています」という。建物所有者や保守管理事業者の双方から、屋内点検への関心は確実に高まっているといえる。

屋内点検ドローンの主な事例

場所機材内容結果
大型公共施設の天井裏/自治体の市民向けホール360度撮影マイクロドローン・狭小狭隘部点検ドローン耐震補強設計のための事前調査。キャットウォークから人が見られない場所や、構造上立ち入れない場所の撮影天井の吊金物の状態や、過去の地震による損壊状況を確認
ダムの仮排水路①照明を強化した狭小狭隘部点検ドローン素掘りトンネルで内部が半水没状態・人が入れない。内部状態の一次スクリーニング洞内の内壁の状態、堆積物や水没の状況などを確認
ダムの仮排水路②照明を強化した狭小狭隘部点検ドローンコンクリート巻トンネルで入口付近に大きなクラックが発生・人が入れない。内部状態の一次スクリーニングコンクリート内壁の状態を閉塞地点まで全て確認
ダムの仮排水路③ボート型360度撮影機材(この用途のために開発)素掘りトンネルで約500mと長く、流水量が多く人が入れない。内部状態の一次スクリーニング洞内の内壁の状態、流木や水流の状況などを確認
煙突ドローンからの吊り下げ型360度撮影ユニット70m煙突の内部全体のスクリーニング全周を360度撮影し、データから三次元化とオルソ画像を作成
ボイラー(炉内部)360度撮影マイクロドローン・狭小狭隘部点検ドローン炉内壁の劣化や損傷の調査炉内部のスクリーニングと、三次元化・オルソ画像の作成
暗渠・排水路照明を強化した狭小狭隘部点検ドローン市街地の道路下に埋設された暗渠内部の劣化調査人による点検より大幅な時間短縮を実現
下水道狭小狭隘部点検ドローン内部の劣化調査人では難しいサイズの下水路で、内部撮影を短時間で完了
原料サイロ・タンク狭小狭隘部点検ドローン内壁や上部構造物の劣化調査原料等の内容物が残り人が入れないサイロ内部の点検を実施

足場・操業停止・人命リスク――ドローンがもたらす経済合理性

写真:Small Doctor Edge
ERI Roboticsが提供する「Small Doctor」シリーズ(写真はSmall Doctor Edge)。機体寸法は260mm(W)×230mm(L)×85mm(H)で重量は530g。18分の飛行が可能。

 屋内点検でドローンが注目される最大の理由の一つは、従来手法に伴う高いコストとリスクを大幅に削減できる点にある。その典型例が、ボイラーや煙突、サイロといった大型設備の内部点検だ。中田氏は、「高さのあるボイラーでは、従来は足場を組んで人が内部に入り点検を行う必要がありました。しかしドローンであれば、高所部分まで短時間で確認できます」と説明する。

 さらに、問題は足場設置費用だけではない。中田氏が“ダブルパンチ”と表現するのが、設備停止による機会損失だ。足場の設置、点検作業、足場の解体という工程を行う間、プラントや工場は操業を停止しなければならない。その停止時間が長くなるほど、生産機会の損失は大きくなる。「産業設備は停止している時間そのものが損失です。設備所有者は、できるだけ停止期間を短くしたいと考えています」という。足場設置費用と操業停止による損失。この二重のコストを削減できることが、屋内点検ドローン導入の大きな経済的メリットとなっている。

 他方、設備の修繕を行うためには結局足場を組む必要があるのではないか?と考える人もいるだろう。しかし、ドローンの活用は、事前に全体を把握できる点にある。従来は最初から足場を組み、作業員が劣化・破損箇所を目視点検していくが、ドローンを活用すれば足場を組むことなく劣化・破損箇所を特定することが可能になり、加えて修繕が必要かの判断もできる。結果として、ドローンの登場でコストをかけずに簡易点検を行うことができるようになったのだ。

 また、人命に関わる安全性の向上も重要な要素だ。密閉空間では酸欠のリスクがあり、下水道においては硫化水素などの有毒ガスによる事故リスクが存在する。中田氏は、「密閉空間での点検は、まさにドローンが有効な領域です。人が入る必要がなくなれば、人命リスクを大幅に低減できます。仮にドローンが墜落しても、人身事故と比べれば損失は大きく異なります」という。このように屋内点検ドローンは、コスト削減と安全確保を同時に実現する技術として評価されている。

点検から予防保全へ――データ活用が変える設備管理

 では、ドローンによる点検ではどのような情報を取得できるのだろうか。

 屋内点検に用いられるドローンにおいては、機体の小型化や飛行時間を長くするための軽量化を重要視している。そのため、光学ズームカメラなどは搭載せず、その多くはフルHD画質のカメラを搭載しているものが一般的だ。

 屋内ドローンはその小型なボディを活かし、狭小空間に入り込めることが最大の特徴であるのに加え、構造物に接触しても墜落しない設計になっている。これにより最大限接近することが可能となり、点検箇所をしっかりと確認できる。また、予防保全においては動画を撮影して大まかに全体像を把握することにも役立てられる。

 一方で、現場環境による制約は大きい。粉塵が舞う環境では視界が悪化し、広く暗い空間では照明性能が課題となる。また、対象物から距離が遠ければ画像の精度は低下する。つまり、機体性能だけでなく、空間の広さや明るさ、クリアな視界といった環境が点検品質を大きく左右するのである。こういった視界の悪い環境でも一定の点検を担えるように、屋内用小型ドローンには高輝度なLEDライトが備えられている。

写真:住宅床下内をドローンが点検飛行する様子
住宅床下内や建物の地下、下水施設内などは暗所となり、高輝度LEDを頼りに点検する必要がある。

 また、撮影データの管理も重要だ。屋外点検であれば、大規模構造物であってもGPSから座標を取得し、おおよその撮影箇所が特定できる。一方、GPSを受信できない屋内空間では、撮影位置をどのように特定し、記録として残すかが問われる。

 そこで、現在の技法は大きく二つに分けられる。一つはオルソ画像や点群データを生成し、三次元空間として管理する方法。もう一つは、図面と映像を照合しながら異常箇所を記録する方法だ。「天井裏や床下のように区画が明確な場所では、図面と映像を照らし合わせながら変状箇所を図面上に記録していくことで、おおよその位置を特定できます」という。前者であれば、屋内空間の点群データを取得する必要があり、ドローンにLiDARやレーザースキャナーを搭載しなければならず、ドローンの選択肢が狭まってしまう。近年は三次元データの活用が進んでいるが、レーザースキャナーのような高精度計測を目的とするものではなく、あくまで位置関係の把握や進捗管理を行うための補助情報として利用されるケースが多い。

 こうしたデータ蓄積は、設備管理の考え方そのものにも変化をもたらしている。中田氏は、「定期的に撮影を行い、過去データとの差分を管理することで劣化の進行状況を把握できます。特にプラント設備では、故障してから修理するよりも、故障前に計画的な部品交換を行う方が効率的です」と話す。つまり屋内点検ドローンは、単なる点検ツールではなく、設備の予防保全を支える情報基盤としての役割を担っているのである。

 そして現在、屋内点検用ドローンの利用は新たな段階へと移行しつつある。かつては取り扱いが難しく、専門事業者に依頼するのが一般的だったが、機体性能や自律安定飛行技術の進歩によって、点検事業者が操縦して点検を実施する「内製化」の動きが増えている。これには中田氏も「想定していた以上に内製化の動きが進んでいます」と驚きを隠せない様子だった。

 ERI Roboticsが開発する小型点検用ドローン「Small Doctor」シリーズは、GPSの届かない屋内環境においても安定した飛行ができる機体となっている。これは利用者の「扱いが難しい」という課題をくみ取って追求してきた結果だ。近年、このようなドローンが複数のメーカーから販売されるようになり、ドローンによる屋内点検の敷居が下がり始めている。中田氏は、「点検を行う当事者が操縦できるようになることが理想です。それが、私たちERI Roboticsが目指す社会実装の最終形だと考えています」と話した。