写真:「第2回 鉄道技術展・大阪2026」入口の看板

 鉄道業界において、ドローンを活用した保守・点検業務の高度化が急速に進んでいる。人手不足への対応や作業の安全性向上、設備管理の効率化が求められる中、従来は人手に依存していた点検業務をドローンへ置き換える取り組みが本格化している。

 その動向を象徴するのが、5月27日から29日までインテックス大阪で開催された「第2回 鉄道技術展・大阪2026(Mass-Trans Innovation Japan Osaka 2026)」だ。同展示会は鉄道分野に関する最新技術やソリューションを一堂に集める専門展示会であり、今回は「ひと・もの・まちをつなぐ」をテーマに336社・団体が出展。3日間で約2万3000人が来場した。

 会場では鉄道車両や信号システム、インフラ保全技術など幅広い展示が行われたが、その中でも特に存在感を示していたのがドローン関連技術である。鉄道各社やグループ企業は、橋りょうや高架橋、トンネル、線路設備などの維持管理におけるドローン活用事例を紹介し、来場者の高い関心を集めていた。

鉄道インフラ点検の高度化を進めるJR西日本レールテック

 JR西日本レールテックは、山陽新幹線をはじめとする軌道整備や保線機械のメンテナンスを担うJR西日本グループの専門企業だ。1992年に設立され、2004年からJR西日本の100%子会社として現在の体制となった。

 同社は20年以上にわたり鉄道土木構造物の診断や補修工事に携わってきた経験を持ち、検査計画の立案から現地調査、報告書作成まで一貫して対応する体制を構築している。さらに、点検結果を効率的に管理するための報告書作成システムも自社開発しており、業務全体の効率化を推進している。

 会場では、同社が構造物点検に使用する各種ドローンが展示された。

写真:展示された複数種類のドローン
機体の特長を活かし、DJI、Skydio、リベラウェアなど複数メーカーの機体を適材適所で使い分けている。

 鉄道土木構造物の点検では、高所作業車や足場の設置を必要とするケースが多く、作業員の安全確保や施工時間の短縮が大きな課題となっている。特に橋りょうや高架橋、トンネル内部などの作業では、作業員に危険を伴う業務も少なくない。こうした課題に対し、近年ドローンの飛行性能が向上したことにより、高精細な撮影や狭隘空間での飛行が可能になったことで、点検ツールとしての実用性が大きく高まった。同社では構造物の種類や点検内容に応じて最適な機体を選定し、夜間での検査やトンネルの天井裏といった狭小空間など、人が立ち入りにくい環境での活用を進めている。

 さらに鉄道インフラだけでなく、駅施設やグループ会社が管理する各種設備の点検業務にもドローンの対応範囲を拡大しており、「ドローン点検のスペシャリスト」として事業領域を広げている。また、持続的かつ高度なドローンの活用において人材育成が重要だ。同社はドローン操縦者の育成にも力を入れ、一等・二等無人航空機操縦士の資格保有者が複数在籍しており、社内教育体制が整備されている。従来の保守業務と比較して体力的負担が少なく、性別を問わず活躍しやすいことから若手社員の関心も高いという。ドローンをきっかけに採用を強化する狙いも見られ、展示会では大型の操縦体験コーナーを設置し、多くの来場者が最新のドローン操作を体験していた。

写真:操縦を体験する来場者
来場者向けにドローン操縦体験コーナーを設置。

 同社は5月27日・30日に、鉄道上空をまたぐ跨線道路橋の点検をドローンで実施した。夜間に鉄道電車線の停電手続きを行わずにドローン点検を実施するのはJR西日本管内で初めての事例であり、労働力不足への対応や作業効率向上への効果も期待されている。

地下鉄点検の実運用を進めるOsaka Metro

 大阪市高速電気軌道(Osaka Metro)は、国内の鉄道事業者の中でも早い段階からドローンを地下鉄施設の点検へ導入してきた事業者の一つだ。

 2020年にはアイ・ロボティクス製のマイクロドローンを用いた駅舎土木構造物点検を実施。その後も運用ノウハウを蓄積しながら活用範囲を拡大している。現在は地下鉄専用にカスタマイズしたマイクロドローンを運用しており、地下空間特有の環境に対応するため、高出力照明を搭載しているほか、線路設備や構造物との接触リスクを低減する設計が施されている。

写真:手の上に載せたアイ・ロボティクス製マイクロドローン
地下鉄の点検向けにカスタマイズされたアイ・ロボティクス製マイクロドローン。
写真:ネット内でドローンを操縦する様子
地下鉄の点検用に照明を改良し、暗所での点検の精度を向上した。

 地下鉄設備の点検は終電から始発までの限られた保守時間内に実施しなければならない。そのため短時間で広範囲を確認できるドローンは非常に相性が良いという。Osaka Metroでは現在3機のドローンを保有し、定期点検業務へ組み込んで運用している。現場では作業効率の向上効果も確認されており、安定した運用体制が構築されている。今後は地下区間だけでなく、高架区間や橋りょう部など地上設備への展開も計画。既存機体を活用しながら適用範囲を広げる方針だ。また、これまで蓄積した知見を活用し、マイクロドローン操縦者を育成するスクール事業も展開。鉄道業界全体でのドローン活用促進を後押ししている。

JR東日本 AIとドローンを組み合わせたスマートメンテナンス

 JR東日本は、西日本エリアにおけるオープンイノベーションや技術連携の推進を目的に出展し、鉄道電気設備のスマートメンテナンス技術を紹介した。

 注目を集めていたのは、米国カリフォルニア州のASUKA社が開発する空飛ぶクルマであるeVTOL(電動垂直離着陸機)「ASUKA A5」の3分の1スケールモックアップである。

写真:会場に展示された「ASUKA A5」の1/3スケールモックアップ
空飛ぶクルマ「ASUKA A5」の1/3スケールモックアップ。

 JR東日本のコーポレートカラーであるグリーンをまとった機体は会場でもひときわ目立つ存在となっていた。単なるeVTOLではなく、地上走行機能も備えているのが大きな特徴だ。飛行時には収納されたローターを展開して離着陸を行う。ASKA A5は4人乗り(パイロット1名、乗客3名)の機体で最高時速は約240km。約400kmの飛行航続距離を実現した。

 ASUKA A5は鉄道と組み合わせることで、人の移動を効率化する役割を担う。鉄道ではアクセスしにくい場所への移動をASUKA A5で行い、JR東日本は“空の観光”も視野に空飛ぶクルマの活用を検討している。また、災害時の物資輸送などにも有効な手段となる。

 一方で、本業である鉄道設備保守分野でも先進的な取り組みを進めている。
 同社は2026年度から山手線にパンタグラフ監視カメラを導入し、AI画像解析による異常検知を開始している。さらに、遠隔操作機能と飛行制限システムを搭載した専用ドローンを2026年秋から試行導入し、電気設備故障時の状況確認や設備点検を効率化していく構えだ。

 都市部の鉄道敷地内で安全システムを備えたドローンを本格運用する取り組みは国内初とされる。異常発生時には迅速な現場確認を可能とし、設備故障箇所の特定や復旧判断の迅速化を実現する。

 同社では従来手法と比較して、運転再開までの時間を約30%短縮することを目標としている。ブースでは実際の点検映像や運用事例の動画も公開され、多くの来場者が足を止めて見入っていた。

写真:「異常時のドローンを活用した設備点検」説明パネル
写真:モニターに表示された「ドローンの活用」事例
山手線における設備異常確認へドローンを活用する。

JR西日本商事 ドローン導入支援サービスを展開

 JR西日本グループの商社であるJR西日本商事は、これまでグループ内で蓄積してきたドローン活用ノウハウを外部企業向けサービスとして展開している。同社が紹介したのは、自動飛行や壁面点検、機械警備などを対象とした「ドローントータルサポート」だ。

 サービスは大きく「課題・ニーズ発掘」「導入支援」「運用支援」の3領域で構成される。導入前のコンサルティングや実証実験の企画・実施から、機体選定、運用設計、飛行申請、操縦者教育まで幅広く支援する。ドローン活用による新規事業創出を検討する企業に対して、商社機能を生かした包括的なサポートを提供するのが特徴だ。

 また、機体レンタルやスクール紹介、各種手続き支援にも対応し、導入ハードルを下げる役割を担う。将来的には点検や警備だけでなく、イベント運営やエンターテインメント分野への活用支援も視野に入れているという。

写真:展示ブースの様子
ブースでは過去のサポート事例や使用するドローンを紹介していた。

鉄道業界で進む「点検DX」の中核技術に

 今回の鉄道技術展・大阪2026では、ドローンが単なる実証段階を超え、鉄道インフラの維持管理業務へ本格的に組み込まれ始めていることが明確に示された。鉄道事業者や関連企業が重視しているのは、単純な省人化だけではない。危険作業の削減、点検品質の向上、設備故障時の迅速な状況把握、さらには熟練技術者不足への対応など、多面的な課題解決ツールとしてドローンを位置付けている。AIによる画像解析、自動飛行技術、遠隔運用システムとの連携が進むことで、今後は「人が設備を見に行く点検」から「設備情報を自動取得する点検」へと進化していく可能性が高い。

 鉄道業界におけるドローン活用は、インフラメンテナンスのDXを支える重要技術として、今後さらに導入が加速していきそうだ。

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