「本日はぜひ、“AIが身体を持った世界”を体験してください」——。内覧会の開幕を告げたのは、ヒューマノイドロボット「ひとみん」だった。GMOインターネットグループは4月7日、東京・渋谷のセルリアンタワー11階に創設された「GMOヒューマノイドラボ渋谷ショールーム」を公開した。
382坪のフロアを活用した同施設は、ヒューマノイドの社会実装を見据えた国内最大級の研究開発拠点となっている。GMOインターネットグループは、GMO AI&ロボティクス商事(GMO AIR)、GMO Various Roboticsの3社で連携し、研究開発から事業創出までを一体的に推進する体制を構築している。
AIが「身体」を持つ時代へ──フィジカルAIの実装拠点
内覧会で案内役を務めたのは、中国Unitree社のヒューマノイドロボット「G1」だ。GMOインターネットグループはこれを「ひとみん」と名付け、ヒューマノイドロボットの研究開発を行っている。
冒頭にひとみんは「インターネット革命の後半戦」と宣言。これまでデジタル空間に閉じていたAIが、現実世界で身体を持って活動する段階へと移行しつつあるという認識だ。GMOインターネットグループはこの領域を「フィジカルAI」と定義し、2026年を「ヒューマノイド元年」と位置づける。その象徴的拠点が今回のショールームである。
先行オープンしたのはセルリアンタワー11階の約半分のエリアで、残るスペースは今年10月に全面開設を予定している。現時点で展示されているヒューマノイドロボットは、ひとみんのほか、UBTECHの「Walker E」、BOOSTER Roboticsの「BOOSTER K1」及びEngine AIの「PM 01」の4機種で、何れも中国メーカーだ。各ロボットは、設計思想の異なる機体を横断的に揃えた構成となっている。
GMOグループは「品揃えNo.1」を方針に掲げ、世界中のヒューマノイドロボットを調達・比較しながら研究開発に活用していくとしている。将来的には「エンジニア100名、ロボット100台」規模への拡張も視野に入れており、単なる展示施設ではなく実証・開発拠点を想定。
施設内には、ヒューマノイドロボットの稼働を想定したステージエリアも整備されている。空間デザインはデザイン会社であるグラマラスの森田恭通氏が担当し、床面には防振材を採用。稼働時の振動が下階へ伝わりにくい構造となっている。また研究スペースには3Dプリンター「RAISE3D Pro3」を設置し、ロボットハンドの接続部品など機構部の試作を内製できる環境を整えた。
エンタメ主導の市場構造と、産業利用に向けた技術課題
質疑応答に応じたGMO AIRの金明源氏は、ヒューマノイド型を選択した理由として「汎用性・環境適合性・親和性」の3点を挙げた。従来の産業用ロボットが単一用途に特化するのに対し、ヒューマノイド型は一台で複数タスクに対応できる設計思想を持つ。また人間と同じ体型であることから、既存インフラを改修せずに導入できる点も大きな優位性といえる。
ヒューマノイドロボットにおける現在のニーズは、エンターテインメント用途が約7割を占めている。具体的には展示会やカンファレンスでの登壇、学校行事でのスピーチなど「人前での表現」を担う用途が中心だ。残る3割は物流現場などにおける産業用途の実証段階にある。
GMO AIRはヒューマノイドロボットのレンタルに加え、用途に応じたカスタマイズを組み合わせた「ロボット人材派遣型サービス」を展開している。ただし現状の機体は、追加開発なしでは実用的な自律作業が困難である。シニアリサーチエンジニアの滝澤氏は「ロボットがタスクを確実に遂行できるか、作業成功率を高められるか、この2点に注目して研究を進めています」と説明する。
技術開発の中核となるのが「全身制御」である。メーカー提供のソフトウェアは基本動作に限定されており、人間が日常的に行う作業はほぼすべてが“特殊動作”として扱われる。このギャップを埋めるため、動作生成・制御の高度化が不可欠となる。データ収集については、実機での蓄積に依存せず、シミュレーション空間を主軸とした開発を採用。「当面はシミュレーション空間内での調査研究が中心になります」と滝澤氏は述べる。
さらに、GMOグループの強みとして金氏が挙げるのが、通信・セキュリティ領域との統合である。「ロボットは通信環境がなければ動かず、接続された瞬間にセキュリティリスクが発生します。この点をグループのセキュリティ商材で担保できることが競争力に繋がります」と説明し、今後はフィジカルAI領域のスタートアップへのラボ開放も視野に入れているという。
国産化の必要性と、実用化までの時間軸
ヒューマノイドロボットの市場は中国・米国メーカーが大きく先行している。GMO AIRの内田代表は「コストにおいては他国に勝てません」と率直に語る。海外メーカーはサプライチェーンの規模と効率性を背景に、価格競争力で優位に立っている。その一方で、「修理や部品供給のリードタイムの長さはリスクとして顕在化しています」と話し、「一度故障すると復旧までに時間を要するのが課題となっています」と説明した。これは運用の信頼性に直結する問題だ。
こうした背景から、安全保障の観点で国産ヒューマノイドロボットへの需要は確実に存在すると内田氏は指摘する。「重要インフラへの導入では国産でなければ採用されないケースがあります」とし、国内の通信事業者や大企業における海外製機器の制限と同様の構造が見られるという。この領域では海外メーカーとの直接競争は限定的となる。
ただし、企業現場で実用レベルに達するまでには時間を要する。「本格的な業務活用には少なくとも5年はかかると見ています」というのが内田氏の見立てだ。
その前提として重要なのが、「環境を変えるのではなく、ヒューマノイドロボットを既存環境に適合させる」というアプローチだという。人間のために設計された空間にそのまま導入できる点こそがヒューマノイド型の本質的価値であり、この適合性を最大限に引き出すことが普及の鍵を握る。GMOヒューマノイドラボ渋谷ショールームは、そのための実証と開発を加速させる拠点として、フィジカルAI時代の中核を担っていく構えだ。
