能登半島地震の教訓を踏まえた訓練の目的
陸上自衛隊中部方面隊は1月13日から17日にかけて、南海トラフ地震を想定した「南海レスキュー2024」を実施した。6年ぶりの開催となったこの訓練は、2024年1月に発生した能登半島地震の教訓を基に、孤立地域が生じた地域における発災直後の情報共有、人命救助、生活・インフラ支援、物資・人員輸送といった初動対処を焦点としている。
能登半島地震では孤立地域や道路の寸断などが発生したことから、情報収集や救援物資輸送の必要性が強く認識された。同地震ではJUIDAの指揮下で各ドローン関連企業が支援に当たったが、南海トラフ地震発生時においてはさらに大規模な範囲での孤立地域・道路寸断の発生が予想されることから、「南海レスキュー2024」において自衛隊と各ドローン関連企業が連携し、ドローンを活用した情報収集や物資輸送訓練を行うことが決定した。
参加企業は、エアロジーラボ、ACSL、川崎重工業、古河産業、プロドローン、三菱重工業、リベラウェアの7社。なおこれは陸上自衛隊中部方面隊(第3・10師団)とJUIDAが締結した連携協定に基づくもので、自衛隊の訓練に複数のドローン関連企業が参加するのは初となる。
ドローンによる情報収集・物資輸送の実践を検証
1月15日に行われた訓練では、兵庫県淡路市において、午前にドローンを自衛隊の車両に積載する検証や、撮影した映像の受信要領などを確認した後、午後は各社のドローンがデモフライトを行った。
午後のデモフライトでは、まず情報収集を目的としたドローンが飛行。飛行経路上に配置した目標物を見つけ、その映像をモニターに伝送するとの一連の流れを確認した。
まず飛行したのは三菱重工業の小型ドローン。同ドローンは航空機製造で長年培った安全性や品質保証のノウハウを活用して開発されたもので、中型ドローンと併せて現在デュアルユースでの実運用を見据えた実証試験の段階にある。両機ともに、メディアでの飛行公開は初。小型ドローン・中型ドローンとも航続時間2時間で、小型ドローンのペイロードは7kg、全長約2mとなっている。
状況に合わせて最適なドローンを使用する物資輸送訓練
次に関西に本社を置き、最大飛行時間200分、最大ペイロード7.0kgのエアロジーラボの「AeroRange G4-S」がデモフライトを実施。同社は同月17日に実施された物資輸送訓練にも古河産業とともに参加している。
次に飛行したのは、能登半島地震および能登半島豪雨でも支援を行ったACSL社の「SOTEN(蒼天)」。同機は赤外線カメラを搭載しており、サーモグラフィーによる温度測定が可能となっている。
同社は物流用の最新機体である「ACSL式PF4-CAT3型」での物資輸送も実施。「ACSL式PF4-CAT3型」は最大積載重量5.0kgで、機体内に荷物を格納できる。医薬品の運搬といった用途に期待が寄せられており、訓練では荷物の積載、飛行、荷下ろし、再飛行、着陸までを行った。
さらに、古河産業の重量物運搬ドローン「EAGLE77」が、荷物を搭載した状態で飛行を行った。同機はペイロード77kgで、飛行時間は77kgの荷物搭載時には「8分+荷下ろし後11分」。飛行中には荷物をあえて揺らし、実際の飛行時に突風などで荷物が揺れても安定して飛行できることを証明した。
その後リベラウェア社が、家屋が倒壊したとの想定で、「IBIS2」を活用した要救助者の捜索およびリアルタイム映像伝送技術の確認を実施。家屋と見立てたプレハブ内での要救助者捜索時には、可視カメラおよびサーマルカメラを活用した。
最後に飛行したのが、三菱重工業の中型ドローン。「中型」となってはいるが、全長6m、ペイロードは200kgを誇り、今回飛行させる中では最大のドローンとなる。国内のドローンを見てもペイロード200kgのドローンは珍しく、災害対応での有用性が期待されている。訓練では緊急支援物資として水を運搬した。
自衛隊・自治体・企業の連携強化へ―訓練参加者の反応
訓練には自衛隊および民間のドローン関連企業の社員のほか、自治体の職員や他国の軍隊の将校らも見学に訪れていた。自衛隊とドローン関連企業は今後、災害時の情報収集や物資輸送、収集した映像情報の各司令部への伝送などで連携を深めていく方針。
訓練の橋渡し役となったJUIDAの嶋本学参与は、「南海トラフ地震は極めて大きな被害をもたらすことが予想される。そのため、自衛隊と民間企業が連携して組織的な対応を行うことが重要であり、この訓練には大きな意義がある」と話した。