2022年12月の改正航空法施行によりドローンのレベル4飛行が可能になり、さらに、2023年12月にはレベル3.5飛行の制度が新設されました。このように制度の変更が相次ぐなか、今後もドローンに関連する事業分野はさらなる成長が見込まれます。一方、ドローンに関わる事業を安全かつ法令を遵守して行っていくためには、航空法をはじめとする法令や、法令に基づく諸制度についての理解が欠かせません。そこで、ドローンに関する航空法や各制度の解説を行うとともに、現行制度の課題についても論じます。なお、本稿はあくまで筆者個人の見解であり、特に断りのない限り、記載内容は執筆日時点におけるものになります。

ドローンの操縦ライセンス「技能証明」と「技能認証」の違い

 無人航空機操縦者技能証明(以下、技能証明)とは、無人航空機(ドローン)を飛行させるのに必要な技能(知識及び能力)を有することを国(国土交通大臣)が証明するものです。技能証明は、一般には「操縦ライセンス」と呼ばれることもありますが、技能証明と似たものとして「技能認証」と呼ばれるものもあるため、「操縦ライセンス」という場合には、何を指しているのかについて注意が必要です。

 技能認証とは、民間の講習団体がドローン操縦者の操縦技能を証明するものですが、これは航空法に規定された制度ではありません。というのも、技能証明制度が開始される以前は、国などの公的機関がドローンの操縦技能を証明するという制度がなく、航空局のホームページに掲載されている講習団体等が発行した技能認証に係る証明書等の写しを飛行の許可承認の申請に添付して提出することで、許可承認を受ける際の申請書類の一部を省略できるという運用とされていました。なお、これらの講習団体が発行する証明書の中には、国家資格である「無人航空機操縦者技能証明」制度が創設される以前から「技能証明」という文言が用いられている場合もありますが、国家資格としての技能証明とは異なるものになります。

▼航空局-ホームページ掲載講習団体
https://www.mlit.go.jp/common/001580525.pdf

 民間の技能認証は、認証する講習団体ごとに講習項目や内容が様々であり、認証を受けた操縦者が有している技能の水準が必ずしも担保されているとはいえませんでしたが、技能証明制度では、国の定める一定の水準の技能を有することが最低限求められることになりました。技能証明制度の開始後は、技能認証などの民間資格は、測量や点検、農薬散布など用途に応じた専門的な知識や能力を示すものとして活用されることが考えられます。

 なお、技能認証により許可承認の申請書類を一部省略できるという運用は、技能証明制度が開始された現在においても継続されており、国土交通大臣の許可承認を受けることにより特定飛行を行うことができ、カテゴリーⅢ飛行を行う場合を除いては、技能証明がなくてもドローンを飛行させることが可能です。しかし、2025年12月にはこの運用は終了することが予定されています。ただし、この運用の終了は、その時点において型式認証を取得した機体が一定程度普及し、技能証明保有者による一部の特定飛行については許可承認が不要な常態になっていることが前提として想定されていると考えられます。現在、効率的な型式認証取得実現に向けた制度の合理化が図られており、2024年4月20日時点において型式認証を取得した機体は、第一種型式認証が1機種、第二種型式認証が4機種となっています。

 技能証明は、カテゴリーⅢ飛行に必要な技能に係る「一等無人航空機操縦士」と、カテゴリーⅡ飛行に必要な技能に係る「二等無人航空機操縦士」に区分されており、ドローンの種類または飛行の方法について以下のような限定があります。

無人航空機の種類機体の種類
・回転翼航空機(マルチローター)
・回転翼航空機(ヘリコプター)
・飛行機
機体の重量
・最大離陸重量 25kg未満
飛行の方法・昼間飛行
・目視内飛行

 なお、国土交通省によると、2024年3月31日時点における技能証明の交付数は、一等が1,157件、二等が9,088件となっています。

技能証明の今後の課題となるVTOL機の扱いを考える

 技能証明制度に関して今後の課題になると考えられる事項として、垂直離着陸機(以下、VTOL機)の取り扱いがあります。

 VTOL(Vertical Takeoff and Landing)やパワード・リフト(Powered-lift)などと呼ばれる固定翼を有する垂直離着陸が可能な機体は、飛行機に必要となる滑走路が不要という特長があります。他方で、固定翼による揚力を用いた飛行が可能なことから、現状では特に電源による制約の大きいマルチローター機に比べてより長距離・長時間の運用が可能という、いわば飛行機とマルチローター機の「いいとこ取り」をしたタイプの機体になります。

 VTOL機は、その特性を生かして、主に長距離での運航に用いられることが想定されますが、その例としては荷物配送が挙げられます。実際に、「ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドラインVer.4.0」(以下、配送ガイドライン)の事例集において取り上げられている49事例のうち4事例で、エアロセンスやWingcopterなどのVTOL機が採用されています。

▼国土交通省-ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドラインVer.4.0
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001601194.pdf

 VTOL機の操縦には、「回転翼航空機(マルチローター)」(以下、マルチローター型のドローンを「マルチローター型」とします)と「飛行機」(以下、飛行機型のドローンを「飛行機型」とします)の双方の技能証明が必要とされています。しかし、この点については今後の課題として、制度の再検討が必要になるのではないかと考えます。

 技能証明試験の内容の詳細については、次回以降に解説しますが、飛行機型の操縦方法はマルチローター型とはかなり異なるものであり、その相違に応じて、実地試験の内容もやはり大きく異なっています。VTOL機の操縦について一律に飛行機型とマルチローター型の技能証明を求めるとすると、実際は、飛行機型の技能証明の取得はマルチローター型に比べて相当難しいものになると考えられることから、技能証明と型式認証機体を用いたVTOL機の運用が困難な状況になりかねず、VTOL機の利活用の機会を狭めてしまうことになる可能性があると考えられます。なお、2024年4月20日時点において、飛行機型の実地試験はまだ実施されておらず、飛行機型の講習を行う登録講習機関もありません。

 もちろん、VTOL機の飛行の安全を確保する必要はありますが、垂直での離着陸を想定して設計されているVTOL機について、飛行機型の技能証明の実地試験で求められるような技能を全て有することが本当に必須であるのか、また、そのような技能がVTOL機の運航における危険の回避や被害の低減にどれほど有効であるのかについては実態に即した検討が必要と思われます。例えば、配送ガイドラインの事例集で採用されているいずれのVTOL機にも降着装置としてスキッドが装備されており、飛行機型のような滑走路を用いた離着陸は想定されていないと考えられます。そのため、飛行機型に求められる離着陸の技能がVTOL機の操縦にどれだけ必要とされ、有益であるかについては再検討の余地があると思われます。

 現状では、2023年11月にエアロセンスによる第二種型式認証の申請が、2024年3月にWingcopterによる第一種型式認証の申請がなされていますが、実際に型式認証を取得したVTOL機はまだありません。しかし、型式認証を取得したVTOL機が現れた際には、技能証明の課題が顕在化する可能性があり、VTOL機については、いずれはその機体特性に見合った内容の実地試験が再検討される方向へと向かうことが望ましいのではないかと考えます。

岩元昭博 弁護士

2006年東京大学法学部卒業、2007年弁護士登録、2019年University of Washington School of Law(LL.M.)修了、2020年ニューヨーク州弁護士登録。
上場企業・中小企業に関する訴訟・紛争対応、人事・労務、コンプライアンス、組織再編等の企業法務、地方自治体に関する行政法務などを中心に業務を取り扱う。
東京都(法務担当課長)及び国土交通省航空局(無人航空機安全課専門官)での業務経験があり、航空局では2022年12月改正航空法施行によるドローンのレベル4飛行実施に向けた制度整備を担当。
2023年にリーガルウイング法律事務所を開設し、現在に至る。