近年、既製品を小型にすることで使い勝手を向上する“ミニ化”が各業界で注目を集めている。例えば、三菱自動車が2023年に発売した「デリカミニ」は、ワンボックスカー「デリカ」のコンセプトを継承しながらも、軽自動車のサイズにスケールダウンを図った。発売後3か月で約9000台を受注した。また、任天堂が2016年に発売した「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」も、元祖ファミコンの手のひらサイズモデルとして話題を呼び、各地で品薄状態となった。
ドローン業界におけるミニと言えば、DJIの「Mini」シリーズが思い浮かぶ。2019年に199gの「DJI Mavic Mini」が登場して以降、「DJI Mini 2」「DJI Mini 3 Pro」「DJI Mini 4 Pro」と進化を重ねてきた。軽量かつ高性能なエントリーモデルとして、空撮初心者を中心に高い支持を得ている。また、DJI Mini 4 Proからは、機種の品質を国が保証する第二種型式認証を取得したモデルが登場し、Miniシリーズの注目度は高まるばかりだ。
そして2025年9月、Miniシリーズの最新モデルとなる「DJI Mini 5 Pro」が正式に発表された。実機を試用した印象として、従来の趣味向け空撮機の印象を残すMiniシリーズとは一線を画し、上位モデルである「Mavic」や「Air」に匹敵する空撮機になったと感じた。
高画質化と操作性の向上、1インチセンサー搭載で空撮性能が大幅進化
Mini 5 Proのカメラは、1インチCMOSセンサーを搭載しており、前モデル(Mini 4 Pro)より約1.3倍大きく、有効画素数は50MPに向上した。これにより、より高精細な静止画と映像の撮影が可能となった。
カメラのチルト角は下方向に最大90°、上方向に最大55°まで対応。俯瞰や仰角など幅広いアングルからの撮影に柔軟に対応できる。さらに、DJI Mini 3 Pro以降採用されている縦向き撮影(ポートレートモード)にも対応しており、SNS向けの撮影としても相性が良い。
特に面白いと感じたのが、可動範囲が向上したロール機能(画面の水平方向の傾き)だ。DJI Mini 4 Proが-90°または0°だったのに対し、DJI Mini 5 Pro では-180°から45°まで調整が可能になった。これにより、FPVドローンのような迫力ある映像表現も実現できるようになった。
飛行性能と安全性も進化!バッテリー持続時間と障害物検知が向上
飛行時間は標準バッテリー(2788mAh)で最大36分、より容量の大きい「インテリジェントフライトバッテリーPlus(4680mAh)」の使用時には最大52分と、前モデル比でそれぞれ2分、7分の向上を実現。撮影可能時間が長くなったことで、ミッション設計や構図決定の自由度も高まった。
安全面では、前後左右および下方の全方向障害物検知機能に加え、前向きLiDARセンサーを新たに搭載。これにより、夜間飛行時でも障害物検知が可能となった。航空法上、夜間飛行には承認が必要だが、センサー性能の強化は安心感の向上に寄与するだろう。
プロフェッショナル仕様のデザイン、外観と構造にも進化の跡
外観面ではボディカラーが、従来のライトグレーからDJI Mavic 3やDJI Air 3Sと共通の深みのあるグレーへと変更され、プロ用空撮機の印象を与えるデザインとなった。前面の魚眼カメラによる障害物検知機構もハイエンド機らしい存在感を放つ。
ボディサイズは前モデルより全長が約1cm長くなっているが、可搬性に大きな影響はない。折りたたみ機構は、後部アームを引き出し、前部アームをひねって上に持ち上げる構造。初期設定では、バッテリー装着後にアームを展開すると自動的に電源が入る仕様となっている。飛行までの準備時間を短縮するための機能であるが、不意の事故防止のリスク管理も含め、用途によってオンとオフを設定したい。
DJI RC 2との相性と安定した飛行性能
送信機は「DJI RC-N3」および「DJI RC 2」に対応しており、今回はDJI RC 2を使用した。5.5インチのフルHDディスプレイは視認性が高く、操作時のグリップ感も良好であった。左右の人差し指が自然にフィットするデザインも操作性を高めている。なお、送信機は前モデルや「DJI Neo」など、直近1年ほどの間にDJIから発売された機体と共通だ。
実際の飛行テストでは、GPS信号がほとんど取得できない屋内施設でも安定したホバリングを維持し、入力すれば遅延なく意図した方向に操縦ができる。ATTI(手動操縦)モードへの強制切り替えも発生せず、優れた姿勢制御性能を発揮した。
全方位の視覚アシスト機能と安全な着陸設計
全方向障害物検知機能では、障害物までの距離がディスプレイ上でカラー表示され、障害物に近づくに連れて黄色や赤色の警告が表示される。そして、一定の距離まで近づいたところで機体はそれ以上障害物に向かって進むことはなくなった。操縦者に視覚的な注意喚起を行う設計となっており、特に狭い空間での飛行においては有効な補助機能となる。
また前モデルに引き続き、視覚アシスト機能が搭載されている。前後左右のビジョンセンサーの映像をリアルタイムでディスプレイ上に表示する機能だ。周囲の状況把握に活用でき、例えば後退しながら前方を撮影する際、後方の安全確認が可能になる。上手に使いこなせば、よりハイレベルな映像を安全に撮影できるだろう。
着陸時の安全性も向上している。前部アームには約3cmの下駄(接地面から高さを出すための部品)が取り付けられており、着地時に機体下部に空間ができることで、砂利地などへの接地時にも機体が障害物と接触しにくい構造となっている。
ハイエンドモデルに迫る実力、Miniシリーズの真の完成形
今回のレビューでは、半自動や自動追尾によってさまざまなシチュエーションでの撮影が楽しめる「ActiveTrack 360°」や、GPSを使わない帰還機能である「非GNSS RTH」などの新機能を、空間の都合により試すことができなかった。しかし、撮影映像の高精細さ、操縦時の取り回しの良さから、DJI Mini 5 Proは間違いなくMiniシリーズの限界を押し広げたモデルであると確信できた。
筆者はMini 3 Proを日常的に使用しているが、Mini 5 Proは買い替えを十分に検討する価値のある進化を遂げている。既存のMiniユーザーはもちろん、軽量かつ高性能な空撮ドローンを求めるプロフェッショナルにとっても、非常に有力な選択肢となるだろう。
