2026年4月15日、日本技術安全保障戦略機構(以下、JISDA)は、ドローン対処技術の有効性を段階的かつ実運用に沿った試験・検証するためのフルセットアップパッケージ「The SHIREN」の提供を開始したことを発表した。
近年、日本でも小型無人機等への対処能力の整備が進みつつあり、高出力レーザーや高出力マイクロ波、電子戦装備、迎撃用無人機など、多様な手段の研究・導入が進んでいる。一方、これらの手段をどのような前提・シナリオ・運用条件で評価すべきかについては、まだ発展途上である。特に日本の地理的・制度的・運用的条件を踏まえた評価設計には大きな負荷が伴う。
こうした課題に対し、単体装備の性能確認にとどまらず、指揮統制、センサー、通信、電源、電子戦環境、運用要員の連携を含めた「システムとしての対処能力」を評価するための試験パッケージとして、JISDAはThe SHIRENを構築した。標的機の準備、シナリオ設計、試験進行、記録・分析までを包括的に支援し、より現実に近い条件で技術評価を行える環境の整備を目指す。
JISDAはウクライナでの継続的な現地調査を通じて、無人機や電子戦の運用に関する知見を蓄積してきた。現地では無人機運用の多様化が進み、装備単体の性能だけではなく運用全体の設計が重視されている。こうした知見をもとに、どのような脅威シナリオが想定され、どのような条件で試験を行うべきかを整理し、日本国内で実施可能な評価メニューとして構成している。
パッケージ内容
The SHIRENでは、比較的単純な小型クアッドコプターへの対処の確認から、固定翼機との組み合わせ、複数機同時侵入、群制御、耐妨害性を備えた機体、光ファイバー型を含むより高度なシナリオまで、段階的な試験を実施することが可能。評価対象は、ジャマー、レーザー、マイクロ波、機関砲、迎撃ドローンといった対処手段に限らず、探知センサー、識別機能、追尾機能、通信・中継機能、指揮統制機能、情報共有機能など、無人機対処能力を構成する各種要素について、個別の性能確認と、システム統合時の有効性確認の双方に対応する。
さらに、JISDAが運営するRISEコンソーシアムに参画する国内無人機企業の製品や技術を、標的機や試験構成要素として柔軟に活用することで、より現実的で多様な脅威像を前提とした評価を行いやすくなる。無人機企業側も、自社機体のジャミング対処能力や耐妨害性、運用上の脆弱性を実証的に検証し改善につなげることができるため、対処側の評価だけでなく被対処側となる無人機のレジリエンス評価にも資する枠組みである。
JISDAは、試験に必要な標的機の提供に加え、試験の企画、シナリオ設計、条件設定、試験運営までを一体として請け負うため、利用者は評価そのものに集中しやすい環境を確保できる。今後、このパッケージを通じて蓄積する知見をもとに、無人機対処技術の評価項目や試験レベルの整理を進めていく予定だ。
The SHIRENの特徴
無人機対処に活用する各種装備やコンポーネントは、それぞれ性能指標を持つ。例えば、センサーであれば探知距離や分解能、ジャマーであれば対象周波数帯や出力、レーザーであれば照射精度や出力などが挙げられる。こうした指標は技術評価に必要であるが、実際の無人機対処能力は、これらの数値を個別に確認しただけでは判断できない。識別が遅れれば対処判断が遅れ、識別できても指揮統制系統への共有が滞れば適切な手段を選べない。妨害手段が有効でも、対象が対策を講じている場合もある。
また、各種装備はそれぞれ異なる制約のもとで運用される。ジャマー、マイクロ波、レーザーなどは電力供給や継続使用条件、センサーは天候、地形、建造物、背景環境、通信系は妨害、遅延、輻輳の影響を受ける。
このように無人機対処能力の評価は、各装備の性能表に記載された数値や個別条件での部分的な成功だけでは不足しており、複数のコンポーネントが接続された状態で、どのようなシナリオの下で、どこまで実際に機能するかを確認することが必要となる。JISDAはThe SHIRENを通じて、実運用に近い条件下での総合的な評価を支援する。
また、無人機対処能力は単独の装備で成立するのではなく、探知手段や識別手段、追尾手段、情報共有手段、交戦判断、指揮統制など、実際の対処手段とつながって初めて実効的な能力となる。例えば、ジャマーは単独では万能な手段ではなく、対象の通信方式、飛行モード、妨害対策の有無、周辺電波環境によって効果が変化する。迎撃ドローンは探知や追尾、判断、投入までの一連の過程で評価される必要がある。
評価においても単体装備の性能のみを判断するのではなく、複数手段を組み合わせた場合の役割分担や相互補完の可能性を確認する必要がある。The SHIRENでは、各構成要素を分解して評価する視点と、全体システムとして統合して評価する視点の双方を重視している。
無人機や電子戦の運用環境は変化し続け、通信手段や周波数、飛行経路、制御方式、編成、改修内容が相手方の改良によって有効性を失う可能性が常に存在する。したがって、無人機対処能力の整備では、単一の完成形を前提にすることではなく、変化する脅威環境に応じて組み替え可能な構成を前提にすることが重要となる。
The SHIRENでは、各種技術を固定的な単体装備としてではなく、モジュラーを組み合わせる構成要素として捉え、脅威のシナリオや運用条件の変化に応じて評価内容を設計する。これにより、現時点の性能確認にとどまらず、将来的な改修や構成変更を見据えた評価を可能にする。
代表取締役CEO 國井翔太氏のコメント
私たちはこの3年間、ウクライナにおいて、無人機とそれに対抗する技術が極めて短い周期で変化し続ける現実を見てきました。ある時点では有効と評価されていた装備や構成が、作戦の変化、運用要件の変化、相手側の改修によって、急速に使えなくなる。その過程を、継続的な現地調査と一次情報の確認を通じて繰り返し確認してきました。
そこで強く認識しているのは、無人機対処技術を、ある時点の性能や単体のデモだけで評価することの危うさです。重要なのは、個別の装備が優れているかどうかだけではなく、探知、識別、指揮統制、妨害、迎撃といった複数の要素が接続され、変化する脅威環境の中で全体として機能し続けられるかどうかです。
日本においても、無人機対処技術が重要だからといって、個別の装備やシステムをそのまま実装するだけでは十分ではありません。必要なのは、継続的に評価し、改良し、組み替えながら、持続的にイノベーションを生み出していく仕組みです。JISDAは、ウクライナで蓄積してきた知見を日本における現実的な評価設計へと接続し、実効的な無人機対処能力の整備を支援してまいります。
