2026年3月23日、日立製作所(以下、日立)は、グローバル展開を目指すAIを活用した次世代ソリューション群「HMAX by Hitachi」の一環として、現場で自律的に学習し、動作を最適化しながら作業の速度や品質を向上するフィジカルAI技術を開発したと発表した。
同技術を搭載したロボットは、現場で得られる動作データや作業ノウハウを継続的に学習することで、現場環境や作業内容の変化に合わせて進化を続ける。また、視覚や力触覚などのセンサー情報をもとに、作業対象物と接触する際の力の強さや向きを細かく制御し、ワイヤーハーネスの組み付けのような柔軟物を繊細に扱う複雑作業まで自動化する。製造や設備保守、ロジスティクスなど幅広い産業現場に導入でき、これまでは自動化が困難だった作業を現場適用レベルの速度・品質で対応する。
この技術は、HMAXにおいてフィジカルAIやHMAXの構築を支える「IWIM」を構成するモデルの一つ。IWIMは、社会インフラ領域の知識や手法にAI技術を統合し、フィジカル世界の現象を正確に理解・推論・応答できるようにするもの。これにより、現象予測、計画・制御など現場で連続的・自律的に進化するAI基盤を構築する。
産業現場では、労働力不足や熟練技能者の高齢化による技能継承が大きな課題となっている。特に多様な製品を扱う現場では、工程ごとの作業が異なるだけでなく、繊細な力加減や動きが求められる。これに対して日立は、現場作業の自動化につながるフィジカルAI技術の研究・開発を進めてきた。
単純作業の自動化は進展した一方で、設備・部品・手順が異なる多様な現場では、作業環境や対象物の変化のたびに設備停止を伴うデータ収集や動作調整が必要となる。その結果、汎用性・柔軟性の確保が難しく、変更の多い工程や複雑で繊細な作業の自動化には課題があった。
開発技術の特長
- 自ら学び最適化するAI
開発したAIは、現場にすぐ導入できるだけでなく、導入後も現場で得られる作業データや熟練作業者のノウハウをAIが自動的に取り込み、継続的に学習する。これにより、AIが反復訓練をするように作業の速度や品質を向上させる。また、現場ごとに異なる作業環境や設備構成、工程の変更や新たな作業パターンに対しても、現場データの蓄積を通じて柔軟に対応し、最適な動作へと進化を続ける。
例えば、成功した作業動作データのみを自ら収集・追加学習し、動作の精度を高める。これにより、設備の入れ替えや製品仕様の変更があった場合でも、追加の大規模な再学習やシステム改修を必要とせず、現場で得られる最新の情報を活用して自律的に学習し、最適化する。 - 日立独自の100Hz高速AIモデル
従来のロボットは搭載AIによる作業動作指示の速度が毎秒10回程度と限られていたため、柔らかい部品やケーブルなどを扱う繊細な作業には十分対応できなかった。日立と早稲田大学が共同開発した「深層予測学習」(※1)を基盤に、毎秒100回の高速な指示が可能なAIモデルを開発した。これは人間の無意識的・反射的な筋肉の調整に相当する速さであり、触覚センサーなどの情報を瞬時に処理できるため、人間と同等の速度と精度で複雑な作業を実現する。さらに、開発したAIモデルは小型・省電力設計で、少ないデータでも効率よく学習し、多様なロボットや現場への迅速な適用が可能だ。
※1 AIが先の状況を予測し、現実とのズレを最小限に抑えつつ、自律的に行動を決定・実行する深層学習技術。 - 全身協調動作学習
人は、作業内容に応じて最も動きやすい位置・姿勢を無意識に選び、全身を効率よく動かしながら作業を行っている。この仕組みに着想を得て、腕や手の動きだけでなく、上半身・下半身を含む全身の協調動作を学習するアルゴリズムを開発した。これによりロボットは、対象物に対して作業しやすい位置・姿勢を自律的に取りながら動作できるため、作業品質のばらつきや手戻りを抑え、作業者の負担軽減に貢献する。
日立は今後さまざまな現場で実証を重ね、この技術をHMAXの中核技術として展開していく。取り組みの一環として、2026年4月1日、日立の協創施設「Lumada Innovation Hub Tokyo」内に「フィジカルAI体験スタジオ」を開設し、同技術を搭載したロボットを常設する。
