2025年7月24日、東京大学生産技術研究所の横田准教授とハマは共同で、UAV搭載用の海底通信装置を高度化し、海面に着水したUAVによって1,000m以深の深海底のセンチメートル精度での位置計測に成功したと発表した。
飛行艇型UAVを活用した高精度な海底観測は、高速・高効率・リアルタイムに海底情報を取得する基盤の構築に貢献する。南海トラフ巨大地震などの地震災害対策に必要な情報を迅速かつ高頻度に取得することで、地震防災研究の進展が期待される。
海洋・海底計測には船舶やブイが用いられるが、船舶にはコストや機動性の点に課題があること、ブイには海面位置の保持能力に限界があることが、頻度向上のボトルネックになっている。特に、近年は南海トラフなどプレート境界で発生する地震のメカニズム解明や地震災害対策のため、海底の微小な地殻変動を高頻度かつ高精度に計測することが求められている。
2022年、横田准教授とハマは共同で、海面に着水したUAVによる深海底の観測に成功。今回、GNSSアンテナ、音響ソナーなど各種機器と解析の高精度解析手法を確立し、UAVによるセンチメートルレベルの高精度な海底位置計測技術を実現した。
実験で活用したUAVは、ハマが開発した飛行艇型UAV「HAMADORI6000」の新モデル。翼幅6.3mのボディにガソリンエンジンを搭載し、機体の大型化を実現しながら90km/h以上の速度で330kmの飛行が可能となった。観測機器(ペイロード)の一部は、民生用ドローンで一般的に採用される非測量用機器を利用し、コストを低減している。
深海底の位置計測は、音響によって海底に設置された海底音響基準局(※1)との通信と測距を繰り返すことで行われる。まず、東京大学生産技術研究所の海洋工学水槽において、UAVに搭載した音響装置を用いて水中の距離計測実験を行った結果、約2cm以内の精度で計測が可能であると示された。
※1 海底音響基準局:受信した音響信号をそのままの形で返信する海底機器(ミラートランスポンダ)。実験では、海上保安庁が運用する海底地殻変動観測網(SGO-A ※2)の相模湾(SAGA)観測点の海底音響基準局を使用した。
※2 海底地殻変動観測網(SGO-A):Seafloor Geodetic Observation-Array。海上保安庁が海底地殻変動を観測するために日本海溝や南海トラフ沿いに設置している観測網。
次に、相模湾でUAVを用いた海底位置計測実験を行った。大きな波や風のない理想的な環境で実施した結果、海底位置がセンチメートル精度で特定できることを実証した。この結果により、船舶を使用せずに低コストかつ迅速に海底の位置を測定できることが示唆され、地震発生直後の迅速な海底変動の把握や、より頻繁な長期モニタリングへの応用が期待される。
機動性の高い飛行艇型UAVによる高精度海底観測の成功は、南海トラフ巨大地震などの地震災害対策に必要な海底情報を迅速に取得する基盤実現への貢献が見込まれる。今後、風浪等の気象・海象条件が理想的ではない環境下での計測など、システムの改良と実運用に向けた展開を予定している。
発表者・研究者等
東京大学
生産技術研究所
横田 裕輔 准教授
大学院新領域創成科学研究科 海洋技術環境学専攻
吉住 優憧 博士課程
株式会社ハマ
金田 政太 代表取締役
論文情報
雑誌名:Earth and Space Science
題名:Construction and Demonstration of a Seaplane-type UAV-based High-Precision GNSS-A Seafloor Crustal Deformation Observation System
著者名:Y. Yoshizumi*, Y. Yokota, M. Kaneda, S. Yamaura, Y. Kameta, T. Inoue, and K. Kouno
DOI:10.1029/2025EA004237
