山梨県北杜市、TOPPAN、TOPPANデジタル、エアロダインジャパンの4者は、AED(自動体外式除細動器)を搭載したドローンのレベル3.5自律飛行による実証実験を、同市で2025年3月10日から12日の3日間実施した。
ドローンのレベル3.5飛行とは、機上カメラによる監視・無人航空機操縦者技能証明の保有・保険への加入を条件として、レベル3飛行で求められる立入管理措置(飛行経路下に第三者が立ち入る可能性を排除できない場所への補助者の配置等の追加)を撤廃し、道路や鉄道等の横断を容易化した飛行方法。
この実証では、へき地医療での救命救急の迅速化を目的として、AEDドローンを出発地点から最大約7km離れた集落まで飛行させ、心肺停止患者の発生からAEDを使用するまでのデモンストレーションを行い、その有用性を確認するとともに効率的な配置方法や飛行ルートの組み方を検証し、自動化に向けた技術的・規制的課題を抽出した。
今後4者は、TOPPANグループの「ハイブリッドToF(Time of Flight)」(※1)センサーを活用した精密着陸技術や、エアロダイングループの自律飛行技術などを組み合わせ、北杜市での実用化を目指すとしている。
※1 ハイブリッドToF:静岡大学・川人祥二教授により提唱されたToF計測法をベースに開発した、ショートパルス型ToF方式とマルチタイムウインドウ技術によるセンサー制御を融合した技術および、その技術を搭載した3D ToFセンサーカメラのこと。マルチタイムウインドウ技術は、複数の短時間ウインドウの組み合わせにより光の往復時間を推定する技術。
心臓発作などの救急医療が必要なケースでは、数分以内のAEDの早期使用が生存率を大きく左右する。しかし、地方部の過疎地域では救急車到着まで数十分かかる地域もある。さらに人口減少などに伴い、救急、医療、消防職員の人手不足も見込まれ、それを補完するさまざまな救急手段の確保が必要となっている。一方、こうしたエリアの心肺停止事例は3分の2(※2)が住宅内で発生しており、より早くAEDを住宅へ届けられる仕組みが求められている。
山梨県北杜市は、山梨県で最も面積の大きな市であり、そのうち森林の占める割合が76.4%という特徴から、医療機関へのアクセスに要する時間が課題となっている。救急事態に迅速に対応できる体制を構築するため、同実証によるAEDドローンの活用検証を救急手段の1つの可能性として重要視している。
TOPPANグループは、AEDドローンの社会実装をハードとソフトの両面で推進している。同グループが開発したハイブリッドToFセンサーを活用した精密着陸システムの活用や、ドローンが社会実装されていく中で、飛行分類により必要となる申請管理・許認可のためのバックオフィス業務の支援などによりAEDドローンの普及に寄与する。
エアロダイングループは、日本におけるドローン物流のニーズを見込み、レベル3や3.5などの目視外飛行ドローン物流の社会実装に取り組んでいる。
これらを踏まえ、各者の技術や知見を連携し、AEDドローンの配送のデモストレーションを実施した。
※2 峡北消防本部管内のデータより
実証実験の概要・成果
へき地医療におけるAEDドローンの飛行実証を目的として、山梨県北杜市須玉町増富地域、明野地域において、2025年3月10日から12日の3日間、計7回の飛行を行った。
実証実験では、消防署から遠い中山間地域の民家で心肺停止事案が発生したと想定し、119番通報とともに、近隣の公共施設に設置したドローンポートからAEDドローンが自律飛行し、通報した民家までAEDを配送。救急車よりも、どの程度早くAEDを届けられるかを実証した。
【検証項目】
- AEDドローン到着までの所要時間の確認と救急車到着との比較
- ドローンの自動運航で対応可能な地域範囲の確認
- AEDドローンの最適な配置場所・飛行ルートの設定
- 自動精密着陸の実現に向けた、TOPPAN独自のハイブリッドToFセンサーを用いた障害物検知(電線など)
- TOPPAN独自の消火フィルムをドローンのリチウムポリマーバッテリーに装着をした状態で飛行が可能か検証
【結果と考察】
この結果、今後増えていく過疎地でのAEDドローン活用の有用性を確認。また、これらを社会実装していくための最適な配置方法や飛行ルートの設定方法を確認できた。
- 最長距離6.2km離れた民家の軒先まで飛行させた際には、時速54kmで直行し通報から約10分で到着した。一方、消防署から同時に出動した救急車は到着まで約40分かかり、緊急性を要する場面でのAEDドローンの有用性を証明した。
- エリア内で広範囲に点在する7つの集落をカバーする効率的なルートを設計し、地区内の民家ほぼ全てをカバーできた。
- 従来のセンサーでは検知が難しい電線など小さな障害物をハイブリッドToFセンサーで検知した。着陸時の障害物回避の対策としての有効性を確認した。
社会実装に向けて、手法と要素技術の有効性は確認できた一方、機能連携や小型化など、プロセス全体の自動化に向けた技術課題が明確になった。また、AEDドローンのマルチユース化や実用化に向けての課題も明らかになった。
今後4者は社会実装に向けた技術開発等を進め、2027年のAEDドローンの社会実装を目指すとしている。
【各者役割】
山梨県北杜市 | 実証場所の提供、住民への案内、峡北消防本部との連携 |
TOPPAN/TOPPANデジタル | 実証実験の企画、全体運営、ToFセンサー提供、消火フィルム提供 |
エアロダイン | ドローン機体等の準備・部品制作、飛行ルート策定、レベル3.5でのドローン運航 |