2025年9月4日、日立製作所(以下、日立)は、ドローンなどの次世代エアモビリティに対して、突風や強風などの突発的な気象変化による機体の挙動を再現できるモデリング技術(※1)を開発したと発表した。

 従来は、気象状況によってエアモビリティの運航が制限され、重要インフラの点検や物流分野での利用拡大の課題となっていた。同技術は、機体ごとの耐風性能を測定し機体応答(※2)をモデル化することで、機体の位置変動などの挙動をデジタル空間内で高精度に検証し、飛行リスクを算出する。さらにモビリティ管制基盤「Digital Road」を組み込むことで、風況と飛行特性を的確に予測した安全な運航管理と、リスクのある飛行経路を迂回するなどの効率的な運用を可能にする。

 これにより、都市部のビル群や山間部など、これまで対応が難しかった環境でのエアモビリティ活用を図り、インフラの保守・管理の効率化や災害発生時の復旧作業の迅速化など、新たなモビリティインフラの構築に貢献するとしている。

※1 モデリング技術:機体応答をモデル化して、飛行環境下での機体の挙動をコンピューター上で再現・検証するための技術。
※2 機体応答:ドローンなどの機体が、外部から加わる力(風力、揚力、重力など)に対してどのような動きで反応するかを示す航空工学用語。

 小型ドローンやエアモビリティは強風や突風など気象状況の影響を受けやすく、事前に機体ごとの挙動や飛行特性を把握することが難しいため、運航停止や機体破損のリスクがある。特に、都市部のビル密集エリアや山間部などでは、従来の運航管理技術だけでは十分な対応が困難であった。

 日立は、これまで提供してきたドローンソリューションの知見に加え、気象や通信環境などさまざまな環境情報をデジタル化してリスクを管理することで、より安全なエアモビリティの運用を実現するモビリティ管制基盤であるDigital Roadを開発してきた。今回、さらなる飛行リスク算出の高精度化に向けて、耐風性能を測定し機体応答をモデル化することで機体ごとの挙動を再現するモデリング技術を開発した。

機体モデリング技術の概要図
機体のモデリング技術

技術の特長

1. 機体応答のモデル化技術

 突風など急変する風況下では、風の影響でドローンの姿勢が変化するため、それを相殺するフィードバック制御(※3)が行われ、機体の位置を維持しようとする。しかし、急に風が弱まると、制御のタイムラグにより機体を維持する力が過剰に働くため、機体が元の位置からズレたり、姿勢維持が困難となり、衝突や墜落といったリスクが生じる。こうした挙動やリスクの現れ方は、機体の種類や飛行特性によって異なる。

 そこで、繰り返し突風に着目し、風洞実験(※4)とモーションキャプチャー(※5)による計測データをもとに、機体応答をモデル化する技術を開発した。具体的には、あらかじめ実機を用いて繰り返し突風下で機体ごとの移動量や姿勢変化を計測し、取得したデータから風力、揚力、重力などを考慮した空力解析を行い、応答モデルを生成する。この応答モデルは、飛行ルート上の気象状況を模擬した解析に用いて、事前に安全性を高精度で検証することができる。さらに、この技術は実機を用いて応答モデルを構築することから、さまざまな機体や荷物搭載時の条件にも柔軟に対応し、多種多様な運用形態に合わせた飛行経路選定や運用効率化に貢献する。

※3 フィードバック制御:機体状態を測定し、姿勢変化などのズレを検出すると、機体動力や姿勢制御機器を使いズレを回復する制御技術。
※4 風洞実験:人工的に風を発生させる装置(風洞)を使い、物体に対する風の影響を調べる実験。
※5 モーションキャプチャー:物体の動きをセンサーやカメラで計測し、デジタルデータとして記録する技術。

2. 機体応答モデルの高精度化技術

 機体応答モデルは、デジタル空間内で機体挙動を解析し、フィジカル空間で計測したデータと比較することで、構築した機体応答モデルの性能を高精度に検証する技術を開発した。フィジカル空間で計測した繰り返し突風時の機体の実挙動と、デジタル空間の機体応答モデルによる機体の挙動を比較して各パラメーターの差分を算出することで、同一の挙動となるように応答モデルをチューニングし、高精度化を実現する。これにより、繰り返し突風下での機体位置変動を約90%の精度で検証できるようになり、これまで困難だった飛行前の気象状況と機体応答モデルを用いた安全性の確認をデジタル空間内で行うことができるようになる。

 今後日立は、開発した技術を基盤として、エアモビリティの運航状況や機体データをデジタルデータとして収集・蓄積・管理する仕組みを構築し、さらにAIを活用することで、エアモビリティの運航管理や安全性の向上、自動運航など高度なサービスを提供するとしている。