2024年10月17日、アイフォレストは、東京都の「吸収・除去系カーボンクレジット創出促進事業」に採択されたことを発表した。同社を中心に、ヤマハ発動機、バイオーム、東京建物、ナチュラルキャピタルクレジットコンソーシアム(以下、NCCC)、九州大学都市研究センター(以下、九大UI)の6者が産学連携し、東京都多摩地域の森林を対象に、超高精度なCO2吸収量、および生物多様性の定量的価値の算定方法を開発する。

写真:山の景色

 東京都は、「ゼロエミッション東京」の実現に向け、CO2排出削減に加え、⼤気中のCO2を吸収・除去する取り組みを推進している。この事業では、農林⽔産分野のCO2吸収・除去に関する⾰新的なアイデアや技術等を有するスタートアップと連携し、東京発の新たな吸収・除去系カーボンクレジットの創出を⽬指している。

 気候変動対策には、適切な森林管理によるCO2吸収量の最大化が不可欠だが、その実現には正確な森林資源の測量データが必要となる。しかし、経済性と取得データの精度を高いレベルで両立する技術の確立、その技術に基づいた科学的根拠のあるCO2吸収・固定量の算定方法(カーボンクレジットの方法論)の開発が大きな課題となっている。

 同実証では、生物多様性にも考慮した超高精度な森林価値の可視化モデルと、それに基づいた実用可能なカーボンクレジットの新しい方法論を構築した上で、国内のレジストリー機関がカーボンクレジットの認証・発行をするという取り組みを6者で推進する。

取り組み内容

○1次データの収集

 実証地は東京都檜原村内の私有林(約17ha)。ヤマハ発動機の産業用無人ヘリコプターに搭載したLiDARにより、森林資源を計測する。同社の計測技術は、衛星やドローンによる一般的なリモートセンシングと異なり、上空から幹を捉え、その直径を計測することで、森林資源の高精度な再現が可能。また、バイオームが保有する生物分布ビッグデータや、森林計測エリアにおける生物分布の現地調査データを活用し、生物のデータベースを構築する。

実証実験の対象範囲
国土地理院空中写真(檜原村)
写真:飛行する無人ヘリ
写真:花にとまるミツバチ
左:ヤマハ発動機の産業用無人ヘリコプター、右:ミツバチによる蜜採取の様子(生物多様性)

○1次データの解析・評価

 森林のあり姿を高精度で再現したデータに基づき、アイフォレスト、ヤマハ発動機、九大UIが共同でCO2吸収・固定量の将来予測モデリングを実施。また、森林内の植生構造と鳥類・哺乳類・昆虫などの動物種のデータから、実証地における生物多様性の情報をバイオームが定量化する。

○方法論の策定

 アイフォレストと九大UIの共同研究により、森林と生物多様性の高精度な将来予測に基づいた森林管理プロジェクトの新たな方法論づくりを行う。九大UIは衛星データの高度な解析技術を有しており、解析した衛星データを実社会に応用する研究でも成果をあげている。

 ヤマハ発動機が収集する高精度な森林価値の1次データ、ならびにバイオームが有する生物分布ビッグデータにもとづく生物多様性データと、九大UIによる衛星データの高度な解析技術を組み合わせることで、森林管理のカーボンクレジットに関する現時点での最適な方法論を開発する。

○方法論の審査・登録、カーボンクレジットの認定・発行

 新たな方法論は、NCCCでの方法論登録を目指す。登録が認められた場合、本実証地を含む多摩地域を対象として、当該方法論を用いたNCCCカーボンクレジットの創出事業に着手し、認証・発行を目指す。登録されるカーボンクレジットの方法論は、「自然資本の価値向上、科学的根拠、現実的なMRV(※1)」の全てが高次元で整合する最適解を追求する。

※1 MRV:Measurement(削減量の計測)・Reporting(認証機関への報告)・Verification(認証機関の検証)

○ビジネスモデルの評価

 実証事業では、新たな方法論の確立、NCCCによるカーボンクレジットの認証・発行とあわせ、都市開発およびオフィスビル・マンション・商業施設等の開発・賃貸・管理運営を手がけている東京建物との連携により、同カーボンクレジットが「森林資源の適切な管理・利活用によるCO2吸収・除去量の増加と生物多様性の保全、ならびに農林業を通じた地域経済の活性化を循環させるハブ」として有効に機能するビジネスモデルづくりを目指す。

実証事業の各者の役割、関係性を表す図
実証事業のスキーム