日本電信電話(以下、NTT)、NTT e-Drone Technologyは、埼玉県熊谷市の道路橋において、ドローンと画像認識AIを用いた鋼材の腐食検査の実証実験を2024年9月2日より開始した。

 実験では、道路橋点検のDXを目的として、ドローンで撮影した道路橋の画像からAIを用いて鋼材の腐食を検出し、腐食の深さ(腐食による鋼材断面の欠損量)を自動的に推定する検査方法の実用化に向けた検証を行う。検査員が超音波装置を用いて計測していた腐食箇所の鋼材厚を画像撮影に置き換えることで、点検作業の効率化による維持管理コストの縮減を実現する。

ドローンと画像認識AIを用いた道路橋の検査イメージ。ドローンで撮影した画像からAIが鋼材の腐食の検出と深さの推定を行う。腐食部分が赤く表示されている。

 重要なインフラ設備である道路橋の老朽化は社会問題となっており、劣化要因のひとつに鋼材の腐食が挙げられる。腐食の進行に伴い鋼材の断面を欠損させるため、設備の耐久性能や耐荷性能は徐々に低下し、最終的には破損や崩壊につながる可能性がある。そのため、設備管理者は腐食が発生した箇所の鋼材の厚さを把握することが重要である。

 一方、現行では検査員が目視で設備外観を確認しているため腐食の深さは把握できない。腐食が著しい箇所に対して超音波を用いて鋼材の厚さを計測する方法はあるが、探触子を計測箇所にあてる必要があり、設備全体では多くの作業コストを要すため実施は容易ではない。また、大型の道路橋の点検時には、足場設置等のコストが発生する場合もある。

 国土交通省は効率的に道路橋の点検を進めるため、直轄国道では国土交通省が定める「点検支援技術性能カタログ」の技術を用いることを原則化しており、点検支援技術の導入を推進している。

 NTTとNTT e-Drone Technologyは、道路橋の点検支援技術として、ドローンと画像認識AIを用いて鋼構造物の検査を効率化する方法を検討している。ドローンで撮影した道路橋の画像から画像認識AIを用いて腐食を検出し、その箇所の腐食の深さを自動的に推定する。ドローンを活用することで大型の道路橋の点検時に必要な足場設置等のコスト削減に加え、画像認識AIにより設備の腐食箇所の把握と鋼材厚の計測が簡単かつ低コストで実現できる。

 実用化に向け、2024年9月2日より両社は熊谷市と連携し、同市保有の道路橋を用いてドローンと画像認識AIによる設備検査の実用性の検証を開始した。

実験の概要

 ドローンで道路橋の画像を撮影し、画像認識AIを用いて鋼材の腐食検出と腐食の深さの推定、および作業能率や技術精度の検証を行う。

【検証項目】
・ドローンによる画像撮影と画像認識AIによる検査の作業時間
・画像認識AIによる鋼材の腐食検出率(評価方法は、画像認識AIによって検出した腐食領域と専門の検査員が判断した腐食領域の一致率を確認する)
・画像認識AIによる腐食の深さの計測(評価方法は、画像認識AIによって推定した鋼材断面の欠損量と同一箇所を超音波装置にて計測することで算出した鋼材断面の欠損量との比較を行う)

 検証で用いる画像認識AIは、NTTが通信用管路で構築した腐食検出技術と鋼材断面の欠損量推定技術を道路橋へカスタマイズした技術を用いる。

【実験期間】
2024年9月2日(月)から2025年2月28日(金)まで

【実用化に向けた検証ポイント】
 ドローンと道路橋の撮影距離を常に一定の距離に保つことは、高度な操作技術の必要性や橋の形状により飛行可能な空間が異なるため難しく、同一の腐食を遠写した場合と接写した場合、腐食箇所の画素分解能(mm/pixel)の差異が生じ、腐食の深さの推定精度に影響を与えることが想定される(図2)。
 そこで、粗い画素分解能の画像からでも高精度に腐食の深さを推定できるよう画像認識AIをカスタマイズするとともに、腐食の深さの推定精度と画素分解能の関係性を明らかにし、運用時のドローンでの撮影条件(撮影距離・撮影機材等)を定めることで検査方法の実用化を目指す。

同一の鋼材腐食に対して撮影距離を変えた際の画像分解能の違い。実際の腐食の大きさ50mmで、遠写(約5m)の場合は21pixel(画像分解能2.38mm/pixel)、接写(約2m)では45pixel(画像分解能1.11mm/pixel)となる。

【各者の役割】

NTT・画像認識AIによる腐食検出と腐食の深さの精度検証
・画像認識AIのカスタマイズ
・超音波装置による腐食箇所の鋼材断面の欠損量計測
NTT e-Drone・ドローンと画像認識AIを用いた点検作業の能率検証
・ドローンによる道路橋の撮影
・ドローンの飛行時の撮影条件(撮影距離・搭載カメラ等)の検討
熊谷市・実証実験場所および道路橋の点検結果の提供


 今後、実証実験結果から実用性を評価し、2025年度に点検支援技術として実地導入を予定している。さらに、道路橋だけでなく鉄塔やガードレール等のさまざまなインフラ設備への技術拡大を進める方針だ。