富士伊豆農業協同組合(以下、JAふじ伊豆)、KDDI、KDDIスマートドローン、全国農業協同組合連合会(以下、JA全農)、静岡県経済農業組合連合会(以下、JA静岡経済連)は、2024年5月22日、静岡県沼津市においてドローンを活用した農薬散布の実証実験を開始した。

 同実証の第1回目では、手作業では2時間ほどかかる傾斜20度以上・2,000平方メートルの畑への農薬散布について、自動航行ドローンを活用することで約93%減の8分間で作業を完了した。

写真:ドローンがみかん畑を飛行する様子。ドローンを見守る人々。

 同実証は、生産者の高齢化が進む西浦みかんの産地で、農作業の負担を軽減させる「スマート農業」(※1)の効果を検証するもの。

 2024年5月、「農政の憲法」とも呼ばれる「食料・農業・農村基本法」にスマート農業の促進に関する条文が盛り込まれるなど、日本の農業課題の解決に資する方法としてスマート農業は注目を集めている。一方、農家にとっては収穫品質への影響が不透明であることが導入の懸念となっている。

 実証実験では、2027年3月31日までの期間に年7回の農薬散布をドローンで実施する。また、農薬散布を手作業で行うエリアとドローンで行うエリアに分けることで、スマート農業の収穫品質への効果を継続的・定量的に分析する。

 農業従事者の高齢化と後継者不足により、多くの農家では労働力不足が課題となっている。さらに、西浦みかん園地は傾斜が20度以上の急斜面が57%を占め、作業が重労働であることから、スマート農業に期待が集まっている。

※1 ICTやロボット技術、ドローンなどの先端技術を活用し、作業の効率化や品質向上を実現する新たな農業

実証実験について

 実証実験では、JAふじ伊豆が沼津市の助成を受け購入した最新型農業用ドローンを活用する。物理的な基準局を必要とせずcm単位の測位精度を可能にするKDDIの高精度位置測位サービスをドローンと連携させることで、傾斜地や散布対象が点在する果樹に対して通常のGPSより正確な自動航行や効果的な自動散布を行う。事前に測量と飛行ルートを設定し、ドローン1台で農薬を散布する。

 実証実験は、2024年5月22日から2027年3月31日まで、JAふじ伊豆なんすん地区本部 西浦みかん営農経済センター管内の柑橘園において実施する。使用機体はDJI社製「AGRAS T25」。

写真:ドローンが飛行する様子
DJI社製「AGRAS T25」

 第1回目の実験の結果、作業者は散布時の立会いのみでよいため作業負荷を大きく軽減することができた。また、手作業で2時間程度要していた傾斜地での農薬散布を、自動航行が可能なドローンにより8分間で完了し、手作業による散布時と遜色なく薬液が葉と果実に付着していることを目視で確認した。

 2024年7月の散布では、水滴が付着すると変色する感水紙などを用いて薬液付着量のさらなる定量分析を実施する予定だ。

 同実証によりJAふじ伊豆は、産地規模の維持および拡大に向け、担い手経営体の規模拡大・法人化のために喫緊の課題となっている防除作業の省力化を狙う。実証実験後は作業受託システムのスキーム構築を目指す。

 KDDIは、実証実験終了後、サービス展開中の上空利用モバイル通信サービスやドローン運用管制システムも活用し、ビジネスプラットフォーム「WAKONX」を通じたサービス提供を目指す。

写真:みかんのなった樹が斜面に生えている様子。背景には富士山が見える。
山の斜面にある西浦みかん農園

【各者役割】

JAふじ伊豆防除暦の作成、ドローン防除に適した樹形剪定作業、試験区の測量・農薬散布、運用検討
KDDI高精度位置測位サービスの提供、作業受託システムのスキーム検討サポート
KDDIスマートドローンドローンの調達、オペレーター育成、散布飛行サポート
JA全農実証試験の企画協力、関係機関調整
JA静岡経済連実証実験の企画および設計