2023年12月12日、東京都市大学 理工学部 機械工学科の西部光一准教授および機械システム工学科の関口和真准教授らと東急建設は、天井効果を利用することで、天井裏やピット(地下に設けられた配管を通すための空間)などの狭所空間において従来型ドローンよりも安定・長時間飛行が可能な「天井吸着移動型ドローン」を開発したことを発表した。天井に吸着し、強く作用する天井効果による気流反転を利用することで、長時間飛行、高い飛行安定性、撮影映像の高い視認性を実現する。

天井吸着移動型ドローン

 作業員のアクセスが困難な建築物の天井裏やピットなどの狭所空間は、ドローンの需要が見込まれる一方、上下にある壁面とプロペラ気流が干渉して天井効果(※1)や地面効果(※2)などが起こり、飛行制御が難しい点に課題があった。狭所空間向けのマイクロドローンが実用化されているものの、バッテリー容量が不足しているため、十分な調査・検査時間を確保できないという。

 今回開発した天井吸着移動型ドローンは、天井効果を利用することで、従来よりも30%長い連続飛行に成功。さらに、天井にプロペラが近接する際にドローン近傍の気流が吹き上がる現象を利用し、上下壁に囲まれた狭所空間での安定飛行と気流の乱れの抑制を実現した。

 上壁への吸着力が大きいことから、屋内環境下に留まらず、橋梁下などの横風による外乱の影響を受けやすい屋外構造物の点検・調査作業への利用も期待される。

※1 天井効果:ドローンが天井のような上壁に近づくと、プロペラによって生成される旋回流が上壁と干渉し、ドローンと上壁間の気圧が下がって上昇する力(推力)が増大する効果。同効果が作用して推力が急増すると、飛行制御が難しくなり上壁に衝突する問題が起きる。

※2 地面効果:ヘリコプターやマルチコプター式ドローンが地面や床などの下壁に近づくと、プロペラによって生成される吹き降ろし気流と下壁が干渉することで、迎角が増加して上昇する力(推力)が増大する効果。

吸着直線移動例
吸着旋回例

研究の詳細

 天井吸着時の方がホバリング時よりもプロペラ回転数が約10%低下することで消費電力が約30%低下し、連続飛行時間が約30%増大することを確認した。

機体近傍に障害物が存在しない大気中でホバリングしている場合(青実線)と、天井吸着飛行時(橙実線)のプロペラ回転数と消費電力の時間変化。
左:回転数、右:消費電力

 天井にプロペラが近接すると、ドローン近傍の気流が反転する現象(図A)が発生し、天井裏や空調のダクト内のように機体下部に壁面が存在する場合に作用する地面効果をキャンセルできることを確認した。これにより、上下壁に囲まれた狭所空間での安定飛行と気流の乱れの抑制、および飛行時間の長時間化を実現した。

PIV(粒子画像流速測定法)解析で得られたドローンプロペラ近傍の速度ベクトル例。
左:気流吹き降ろし時、右:気流吹き上げ時(図A)

 狭所空間ではオペレーターが機体を目視しながら操縦することは難しく、機体に搭載したカメラからの映像をリアルタイムで見ながら遠隔操縦するため、高度な操縦技能が必要であった。天井吸着型ドローンは、車輪駆動により天井面を移動し、気流が反転していることから、従来機体よりも操縦が容易になることが予想される。また、気流反転によって吹き降ろし流れが生成されないことから、ほこりなどが舞い上がらずに撮影映像の視認性が向上することが期待できる。

建築ピット内の調査イメージ