2023年11月29日、東芝エネルギーシステムズ(以下、東芝ESS)は、NEDOが助成するグリーンイノベーション基金事業「洋上風力発電の低コスト化」プロジェクトの一環として、四国風力発電の僧都ウィンドシステムにおいて実証試験を実施し、ドローンによる15MW級風車の翼(ブレード)の完全自動点検に必要な技術評価を完了したことを発表した。

 点検用ドローンが飛行しながら風車の位置や向き、ブレードの停止位置を自ら検出、併せて波や風で揺れる風車ブレードを自動追従し、画像を撮影する完全自動点検のめどが立ったことから、2024年2月までにドローンを用いた風車外観点検の完全自動点検実現を目指すとしている。

 完全自動点検の実用化により、定期点検や、落雷などにより風車ブレードに異常が検知された緊急点検でも、保守員が風車まで行かずに点検が可能となる。これにより、風車まで保守員を送り届ける輸送費や人件費の削減で点検コストが低減できるほか、保守員の人材不足にも対応できるなど、浮体式を中心とした洋上風力発電の点検コスト低減および導入拡大が期待される。

自動点検時の様子(上)、風車ブレードを画像処理した様子(下)

洋上風力発電コストの3割超を占めるメンテナンス業務

 2050年のカーボンニュートラル実現に向け、再生可能エネルギーを最大限導入することが求められている。洋上風力発電は、大量導入やコスト低減が可能であり、経済波及効果も期待されることから、再生可能エネルギーの主力電源化実現の切り札とされている。欧州を中心に洋上風力発電の導入が拡大しており、2050年に向けてはアジア市場の急成長が見込まれている。

 一方、洋上風力発電の大量導入に当たり、コストの3割超を占める運転保守、修理、監視、点検などメンテナンスの高度化を実現する技術開発が必要とされている。特に、洋上での作業は強風や波浪のある厳しい気象・海象条件の下で行われるため、洋上で安全に作業するための技術を習得した保守員が必要であるほか、移動には船を使うため陸上風車に比べて迅速な対応が難しいといった課題がある。

 NEDOは、2022年度からグリーンイノベーション基金事業「洋上風力発電の低コスト化」プロジェクトにおいて、「洋上風力運転保守高度化事業」に取り組んでいる。その一環で東芝ESSは「遠隔化・自動化による運転保守高度化とデジタル技術による予防保全」として、ドローンによる風車外観点検の自動化、ロボットによるナセル(※1)の内部点検作業の遠隔化、センシングデータによる洋上風車の健全性分析サービスの開発など、保守・メンテナンスの低コスト化に向け、今後建設が見込まれる浮体式洋上風力発電向けの技術開発を進めている。

※1 ナセル:増速機や発電機、ブレーキ装置、ロータ軸、主軸で構成されている。風車タワー上部に配置され、ロータ軸およびハブによってブレードと連結している。

完全自動点検に必要な技術評価を完了

 事業のテーマの1つである「ドローンによる風車外観点検の自動化」において東芝ESSは、四国風力発電の僧都ウィンドシステム(愛媛県南宇和郡愛南町)で実証試験を実施した。実証では、点検用ドローンが飛行しながら、風車位置からナセルの向き、ブレードの静止位置を自ら検出。併せて波や風で揺れる風車ブレードに自動追従し、点検用の画像を撮影する完全な自動点検を実現するための要素技術の検証を行った。

 従来のドローンによる点検は、風車の正面位置などのスタート地点へドローンを手動で移動させる必要があった。今回、ナセルの向きとブレードの静止位置を把握できたことで、スタート地点への移動も自動化し、完全自動点検に必要な技術評価を完了した。

2024年2月までに風車外観点検の完全自動化実現を目指す

 2024年2月の検証では、風車全体を見渡せる位置に手動でドローンを移動させてから風車方位の検出を行う従来の手法ではなく、ドローンが旋回飛行しながら画像を撮影し、同時に処理することで正面位置とブレードの角度を認識し、自ら移動して検査する完全自動点検の実現性を確認するとしている。

 同社は今回開発した技術をもとに、2024年2月までにドローンを用いた風車外観点検の完全自動点検実現を目指す。また、ナセル内部点検を遠隔で実施するシステム開発、および東芝ESSのエネルギーIoTサービス「TOSHIBA SPINEX for Energy」上での風車健全性分析サービス提供により、浮体式洋上風車の運用・保守コスト20%削減を目指す。