2023年5月25日、伊藤忠商事は、ドローンによる血液製剤輸送の社会実装に向けた医学的検証のため、ドローンフィールドKAWACHIにおいて実証実験を実施したことを発表した。

 同プロジェクトでは、同社が2022年3月に資本業務提携・販売代理店契約を締結したドイツのWingcopter社製のドローンを使い、一般的なマルチコプター型のドローンでは取り扱いが難しいとされてきた温度管理が必要な血液製剤の、全自動による高速での長距離安定移動の可能性を品質管理面と共に検証する。共同研究者は東京都立墨東病院(以下、墨東病院)、共同運航者はANAホールディングス(以下、ANAHD)。

 Wingcopter社の最新eVTOL型ドローン「Wingcopter198」を使用し、遠隔地への血液輸送を想定した長距離・長時間飛行を複数回計画、実施した。

 厳密な温度管理が必要な血液製剤を格納するドローン用の保冷容器は、医療向け定温輸送容器の製造・販売を行うスギヤマゲンが協力。2種類の血液製剤を調達した墨東病院(東京都墨田区)から実証実験を行ったドローンフィールドKAWACHI(茨城県稲敷郡)までの往復(片道約75km)の血液製剤の輸送容器並びに輸送に関しては、それぞれ東邦ホールディングス、セルートが協力した。

 Wingcopter社は2017年の設立以来、医療品分野を中心に、アフリカでの医療品配送ネットワークの構築や、日本を含む世界各地での実証実験を通じてドローン物流の事業化を目指している。同社の安定した高速・長距離飛行が可能なドローンの利用は、医療品や医療資機材に限らず食料品や日用品等の配送も可能とし、特に自然災害が多い日本では離島や山間部、被災地でのBCP(事業継続計画)対応への貢献が期待される。

 2022年12月の改正航空法によりレベル4(有人地帯における目視外飛行)が解禁され、ドローンの活用領域が大きく拡大した。今回実証実験の対象とした血液は、その性質上輸送にあたっては緊急性および定時制が求められ、インフラや人員の確保、血液の安定供給と品質維持が大きな課題となっている。

 今回の実証実験では関係者の医学監修・協力のもと、現場での運用を見据え、実践的な手法・機材を用いた輸送フローを検証することで、ドローンが物流手段の一つとして有効であることを示していくという。

 同社は、Wingcopter198を利用してのドローン配送ネットワークの構築を進め、多様なニーズや社会課題に対応したサービスの提供を目指すとしている。

各社役割
伊藤忠商事実証実験の取りまとめ、機材提供、運航
墨東病院共同研究(血液製剤の提供、医学監修)
ANAHD共同運航(機体の運航、運航支援)
スギヤマゲン血液製剤輸送用の保冷容器の試作、提供
東邦ホールディングス血液製剤用の冷蔵庫、冷凍庫の提供
セルート血液製剤の病院~ドローンフィールドKAWACHIへの輸送

 Wingcopter198は、Wingcopter社が自社で製造・開発するティルトローター式(※1)ドローン。固定翼機でありながらマルチコプターのような自律垂直離着陸・ホバリング機能を持つ。一度の飛行で、3カ所に配送可能なトリプルドロップ機能も有している。

※1 ティルトローター:垂直・短距離離着陸のための手法のひとつで、ローター(プロペラに似た回転翼)を機体に対して傾けること。

モデルW198R1
最大積載量最大4.5kg
耐風性平均15m/s、突風時20m/s
巡行速度(標準)90km/h
最大飛行距離110km
本体(L×W×H)167×198×66cm
本体重量24.9kg