ワールドスキャンプロジェクト(以下、WSP)は、九州大学浅海底フロンティア研究センターなどとの共同調査に基づき、WSPが開発した水中3Dスキャンロボット「天叢雲剣(MURAKUMO)」を使用した調査を2020年と2021年に実施。その結果、1927年の美保関事件で沈没した駆逐艦「蕨」を93年ぶりに発見し、その3Dモデル化に成功したことを、2023年3月31日に発表した。

 美保関事件とは、1927年8月24日、松江市沖で夜間演習中だった旧日本海軍の軍艦4隻が衝突し、119人が犠牲となった多重衝突事故。このとき駆逐艦「蕨」(全長88m)は沈没したが、沈没地点についての詳細はこれまで解明されていなかったという。

 今回の調査の結果、ミリ単位の精度で駆逐艦「蕨」の3Dモデルを作成することで、船体の劣化状況や漁網が大量に絡まることによる船体の破損状況などが明らかになった。

 これらの調査成果と3Dモデルは、美保関事件慰霊の会による地元への報告会で使用された。今後は3DモデルをAR、VR、メタバース上で利活用して「蕨」の貴重な映像を幅広い層に発信するとともに後世に残し、水中遺産を守ることの重要性を啓発していくとしている。

船首(左)、船尾(右)
ドローンによる画像
MURAKUMOによる3Dモデル

調査内容

第1回調査 (期間:2020年9月14日~18日)

 2020年5月に実施されたマルチビームソナーによる民間調査で、美保関灯台(松江市美保関町)から北東33.4kmの海底に巨大な構造物があることが判明。水深約96m地点のMURAKUMOによる映像から、巨大な構造物は駆逐艦「蕨」が衝突により分断された艦首部分と確認。デジタル3Dモデル作成用のデータを取得した。

第2回調査 (期間:2021年7月19日~25日)

 第1回調査で艦首部分が発見された地点から北北西に約10km離れた水深約180m地点のMURAKUMOによる映像によって、駆逐艦「蕨」の船体後部を確認。デジタル3Dモデル作成用のデータを取得した。

水中3Dスキャンロボット「天叢雲剣(MURAKUMO)」

 高画質画像データによってデジタル3Dモデル化するフォトグラメトリを用いたスキャンシステムと、マルチビーム測深で取得した高解像度地形情報により、正確な位置情報をもつ3Dモデルを作成してモニタリングができる水中3Dスキャンロボット。海底ケーブル調査・沈船調査・洋上風力発電所施工前査定など、さまざまな用途に活用が可能。