2022年10月18日、奈良文化財研究所(以下、奈文研)と産業技術総合研究所(以下、産総研)は、文化財デジタルデータと3次元地理空間情報を統合表示する「全国文化財情報デジタルツインプラットフォーム」を開発したことを発表し、3DDBViewerを同日公開した。

 日本中の文化財の位置情報を網羅する奈文研の文化財総覧WebGISと、産総研の3次元地理空間情報データベース(3DDB)との連携により、地下空間を含む国土の3次元構造と社会活動の歴史的情報を総合的に記述することが可能となる。

 建築物のCADモデルや点群といった3次元データを統一的に扱えるため、地下から地上の情報を一体的に把握することができ、開発事業における意図しない文化財の破壊回避に役立つほか、GIS(地理情報システム)や3次元データに関する専門的な知識がなくとも利用できるため、地方公共団体や博物館が取得した文化財の3次元データ等も容易に登録可能だという。

 文化財情報の活用を通じて、スーパーシティーやデジタル田園都市といったスマートシティープロジェクトにも貢献するとしている。

東京(高輪築堤)周辺図。ビルと文化財位置データの表示。(プロジェクトPLATEAUのデータを利用)
国指定特別史跡・岩橋千塚古墳群天王塚古墳墳丘(地上)と石室(地下)の一体表示。

 地下を掘削する開発事業においては、遺跡に影響を与えることがあるため掘削の場所や深度に配慮が必要である。しかし過去の発掘調査記録は主に紙ベースの文献や図表、地図といったアナログ形式で集積されており、工事の際の確認が容易ではなかった。そのため意図しない文化財破壊が発生している。
 一方で近年、遺跡地図のデジタル化が進み、2021年7月には奈文研が全国の文化財情報61万件を登録した文化財総覧Web GISを公開。文化財情報を統合的に扱える環境が整いつつあるが、開発事業で掘削する地下深度の3次元情報データベースや、水道やガス配管といった地下のインフラデータと連携するためのプラットフォームはなかった。
 また、3次元スキャン手法の普及により急速にデジタル化が進み、遺跡の立体的な記録も残せるようになってきた。しかし3次元デジタルデータを公開するプラットフォームがなく、関係機関内で死蔵されるケースもあるという。

 今回開発したプラットフォーム上では、地下に存在する埋蔵文化財と建物・道路・植生といった現在の地表状況との位置関係が正しく可視化され、地理空間データを読み解く専門知識がなくともその位置関係を容易に調べることができる。

 同プラットフォームは産総研が開発してきた大規模AIクラウド計算システムABCI上に構築されているため、国土交通省のPLATEAU(プラトー)などが公開している都市の3次元データを格納し、樹木・人工物・地面の自動分類のような高度な解析を行うことができる。

 同プロジェクトのモデル事業として、2022年2月、和歌山県の岩橋千塚古墳群においてドローンLiDAR計測を実施。取得した高精度地形データと現存の古墳分布図を重ね合わせた結果、古墳の可能性がある高まりを新たに確認している。今後2023年冬に現地確認を行うとしており、こうしたドローンLiDAR計測により古墳群の調査方法の大幅な効率化が見込まれる。

 さらに研究の波及効果として、遺跡地図の高精度化による国土開発・管理の効率化や、街づくりと文化財保護の両立が挙げられるという。

 AR(拡張現実)技術により地下埋設物を可視化することで、意図しない破壊を防止するとともに工事の効率化を図ることができ、工事設計段階で文化財の存在も考慮した開発計画を立案することで予防的に文化財を守り工期や費用を縮減する。
 さらに発掘調査や各事業の工事の中間生成物として作成された3次元データも3DDBに追加登載が可能で、深さ方向を加味した遺跡地図を高精度化させていくことができる。
 発掘調査に起因する開発計画の変更に伴う工期の延長や工事費用の抑制につながるほか、現物保存できなかった遺構を3次元記録することでバーチャル空間上に残せるようになる。

 業種や分野に関わらず誰もが容易に文化財情報にアクセスできる基盤を提供することで、住民が自らの地域にどのような文化財が存在するのか、それがどのような歴史的・文化的な価値を有するのかを認識・評価することを支援する。

 今後、文化財行政に携わる各地の教育委員会や博物館の関係者がより多くの文化財3次元データを登録し、広く公開するための技術を開発するとしている。具体的には、3次元データをxRデバイス(※)へ直接配信する機能、安全なデータアクセスを実現するための認証・認可機能などを実装し、さらに複数のプラットフォームに分散している地理空間データをワンストップで検索するためのメタデータ標準化を進める方針だ。

※ スマートフォンやAR(Augmented Reality)グラスのように現実環境に付帯情報を提示する装置や、VR(Virtual Reality)、MR(Mixed Reality)によってユーザーに仮想空間と現実空間を行き来する体験を提供する視覚装置。