2022年5月30日、デジタルカレッジKAGAは、石川県加賀市において、パラモーターを用いて市街地上空を実際に人が飛行して、空飛ぶクルマの飛行ルートを検証したことを発表した。

 加賀市の上空(高度約100m~200m)を、山間部の山中温泉から海岸の橋立漁港まで約1時間、距離にして25kmを飛行。空飛ぶクルマの地上設備の設置やルートの設置に向けた課題を検証した。

 同社は、夏以降に加賀市で行われる空飛ぶモビリティシンポジウムにおいて、今回のルート検証で得られた詳細な成果報告を行うとしている。

加賀市と空飛ぶクルマのイメージ

 空飛ぶクルマは100kmから300kmの距離を飛行でき、小型のヘリポートほどのサイズで離発着が可能。大阪・京都の関西圏や名古屋から気軽に温泉宿の軒先まで、空飛ぶクルマで乗りつけることができると構想する。

 加賀市は2021年12月に兼松との間に「空飛ぶクルマ・ドローンを用いた地方創生に向けた包括連携協定」を結ぶなど、空飛ぶクルマの産業育成を積極的に行っている。
 空飛ぶクルマの裾野産業の誘致とそのための準備の一段階として、今回、空飛ぶクルマの離発着場の設置やルートを想定し、パラモーターで検証を行った。

加賀市の温泉街と空飛ぶクルマのイメージ

 検証では山中温泉にある野球グラウンドからパラモーターが離陸し、山代温泉、大聖寺周辺、加賀温泉駅周辺を飛行、橋立漁港にある小学校のグラウンドに着陸した。

 また、離発着時の風速・風向きなどを検証し、飛行経路上を車両で伴走することで、上空での挙動や市街地上空を飛行したときの地上からの見え方等を確認した。

加賀市と空飛ぶクルマのイメージ
検証ルート(Google Earth)

 パラモーターは安全で静か、また場所を取らずに離着陸できるため、空飛ぶクルマの模擬ルートを検証するのに適しているという。航空法上の規制を受けないため、上空5mの低空飛行や空中静止、市街地上空での飛行なども可能だ。

 ドローンでは困難な150m~450mの高度での飛行や、ドローンでは飛行許可が必要となる市街地上空での飛行が可能。また、ドローンの飛行時間は20分程度なのに対し、パラモーターは1時間以上。複数のカメラやレーザーセンサー等も搭載できる。

 ヘリコプターや軽飛行機と比較した場合、滑走路や指定場所以外の開けた場所で離発着が可能。ヘリコプターには最低高度の制限があるが、パラモーターは300m以下の低い高度も飛行できる。機材が少なく騒音もなく、安価に検証可能である。

ルート検証の様子

 今回の検証により、さまざまな発見と課題が明らかになった。

 空飛ぶクルマの離発着地については、機体の大きさに応じた広いスペースが必要となり、最低でも1万平方メートル程度と考えられる。風向きや侵入経路の安全確保において、気流が複雑な山岳部での離発着運用はコストが高くなり、離発着場の設置場所検討時に考慮が必要となる。経路確保の観点から外周に木や電線があるところは不向きである。また、空飛ぶクルマの特性上、機体と風向きの関係によって効率が変わるため、風が安定していない場所での離発着は航続距離やコストに影響する。

 市街地の上空の飛行については、さまざまなトラブルを想定し、安全に退避場所に着陸するための機体特性を持たせる必要がある。航空機やヘリコプターの滑空性能は滑空比で示されるが、空飛ぶクルマにおいても一定以上の滑空性能を有することが必須となる。
 市街地の上空を飛ぶ際には滑空性能を考慮して一定区間ごとに安全退避場所を確保する必要およびそのルール整備を行う必要がある。また、退避場所には通信や充電設備等の基本的設備が必要になる。今回の検証では約1kmおきに緊急着陸場所をあらかじめ想定した。
 飛行スピードは原付二輪と同じくらい(平均30km/h)であったが、道路を伴走する車両よりもだいぶ先行する状況が起きたことから、直線で拠点間をつなぐことの有用性が証明された。一方、過疎地等においては空飛ぶクルマ以前に地上の生活導線の再検討が行われるべきだとしている。

加賀市と空飛ぶクルマのイメージ