佐賀県と宇宙航空研究開発機構(以下JAXA)は、宇宙技術を利活用して地域課題の解決等を図ることを目指し、2021年3月22日に連携および協力に関する協定を締結。災害、農業、土木等の分野における地域課題解決や宇宙ビジネスの発展に寄与するモデルケースを創出することに加え、他自治体への展開も目指し、「宇宙×地方創生」をテーマとした取り組みを進めている。

 この取り組みに今回はSynspectiveと島内エンジニアも参画。衛星データ活用により、全国的に頻発している豪雨等の水災害対策の強化に加え、Synspectiveの浸⽔被害モニタリングサービスの精度向上を目指し、平時・災害時での実運用に向けた実証実験を実施したことを、2022年5月24日に発表した。

4者の役割と連携協定

 同実証では、2019年8月と2021年8月の豪雨を検証対象に、佐賀県が被災地域の現地データを提供し、Synspectiveの浸水被害モニタリングサービス「Flood Damage Assessment」による解析の精度向上と実運用可能性の検証として、島内エンジニアが撮像したドローンデータと衛星データの変化検出の比較検証を行った。

 武雄市・大町町エリアの浸水被害において、複数の衛星データおよび六角川の水文データを用いてデータの解析、比較、精度検証を実施。当初は農地エリアも浸水箇所と判別していたが、解析アルゴリズムの改良により真に浸水した箇所のみを検出できた。

解析アルゴリズムの改良により検出した浸水箇所(水色着色部分)© Synspective Inc.

 実証の結果、従来は高精度での浸水状況検出が難しかった農地エリアの解析アルゴリズムの改良により、検出精度の向上を実現。災害発生時だけでなく、復旧・復興時の被災状況データ蓄積への活用等の新たなユースケースを得ることができた。

 今後これらの成果を踏まえ、今年の洪水時期においても実利用に向けた試験運用に取り組み、今回得られたユースケースの有用性がさらに認められれば、衛星データ活用による地域課題解決という社会実装に大きく近づくとしている。

 佐賀県とJAXAは引き続き、今回の成果をモデルケースとした水平展開を目指し、地域課題解決および他の自治体との連携・協力に取り組む構えだ。

実証メンバーのコメント

 豪雨災害はどこでも起こりえることから、今回のSAR衛星ソリューション精度向上は全国すべての自治体の災害対応を大きく前進させる可能性があります。一見、地域と宇宙は縁遠いと思ってしまいますが、JAXA新事業促進部は今回の事例のように宇宙技術を地域課題の解決に役立てることで、地域と宇宙を繋いで日本を元気にしていきます。

JAXA新事業促進部 企画調整課(地域連携担当)主任 円城寺雄介氏

 佐賀県は「宇宙技術を利活用した地域課題の解決」を目指しており、その中でも優先度が高い防災・減災対策について、当県が経験した2度の豪雨災害のデータや現場の声などを活用していただき、Synspectiveが開発した浸水被害モニタリングサービスの精度向上や運用に向けた検証に協力することができました。このサービスが多くの地域で活用され、水害時に人命や財産の保護に繋がることを期待しており、さらなるサービスの高度化に向け、佐賀県は引き続き協力していきます。

佐賀県 政策部企画チーム 係長 秋吉盛司氏

 SAR(合成開口レーダー)衛星は、夜間でも悪天候でも地表の状況を把握する事が出来るセンサです。Synspectiveは2026年前後までに自社衛星StriXシリーズの最大30機の衛星コンステレーションによって、全世界を2時間頻度で観測する体制を構築します。今回の実証では佐賀県関係者様を始め、数多くの皆様のご支援・ご指導を頂き、精度向上だけでなく現場での実運用に向けた課題などを把握する事が出来ました。災害は突然やってきます、それは夜起きるかもしれないし、集中豪雨のように長期間に渡る時もあります。今一番その情報を必要としている人々に必要となる情報を一秒でも早く、災害マネジメントのさらなる高度化に向けて衛星ソリューションの開発を進めていきます。

Synspective ソリューション部 VP、FDA/DDAサービスマネージャー 角屋暁史氏

 SAR衛星画像による広域に被災状況を解析する技術とドローンによる高解像度の現地調査を融合することは、災害発生時に迅速に被災箇所を特定し地上から正確な調査を可能にする効果的な取り組みになると思います。今後もサービスの実証にご協力していきます。

島内エンジニア 技術部技術第二課 課長代理 中川和樹氏