2021年3月10日、ANAホールディングス(以下ANAHD)、武田薬品工業(以下、武田薬品)、長崎大学、五島市は、長崎県五島市福江島港エリアから久賀島の内陸に位置する久賀診療所へ、通常定期船と陸路で45分程度かかる行程を、Wingcopter社製 固定翼型垂直離着陸(VTOL)ドローンにより約10分(無風時)で、処方箋医薬品を配送する実証を行うことを発表した。

固定翼型VTOLドローン

 実証実験では、インテグリティ・ヘルスケア社が提供するオンライン診療システム「YaDocQuick」を用い、オンライン診療およびオンライン服薬指導を実施する。また、服薬指導に基づく処方箋医薬品のドローン配送の実施(シナリオ1)および医薬品卸による医薬品のドローン配送(シナリオ2)について実証を行う。

・シナリオ1:オンライン診療モデル
 患者が自宅でオンライン診療・オンライン服薬指導を受けた後に処方箋医薬品の自宅配送を実施。
・シナリオ2:緊急配送モデル
 医薬品卸から医療機関への緊急配送を想定したドローン配送を実施。

 今回の取り組みにより、離島に住む患者が有する通院へのハードル(通院困難等)の地域医療課題解決を目指す。なお、この実証実験は、国土交通省・環境省連携事業「社会変革と物流脱炭素化を同時実現する先進技術導入促進事業(過疎地域等における無人航空機を活用した物流実用化事業)」に採択されている。

実証実験概要

実証実験期間 :2021年3月22日~26日
飛行区間 :長崎県五島市福江島港~久賀島 片道約16km(直線距離:約12km)
運搬物 :処方箋医薬品(医薬品)
対象者 :住民等

飛行区間(左下:福江島:右上:久賀島 )

各社の主な役割

実証実験実施者

ANAHD :ドローンの遠隔運航管理、配送通知を含む配送管理システム、実証総括

武田薬品 :ドローンを活用した処方箋医薬品および医薬品流通シナリオの策定、医薬品卸の調整

長崎大学 :久賀診療所、長崎県五島中央病院、ニック調剤薬局でのオンライン診療・服薬指導とドローンによる薬剤・検体輸送に従事する医師・看護師・薬剤師の合意形成・意見調整

五島市 :市営診療所医師および職員の協力、現地官公庁および船舶事業者等の調整

実証実験協力者

NTTドコモ :ドローンの上空飛行に係るLTEネットワークの提供、およびdocomo skyによる、上空の電波状況を考慮した運航計画の策定支援

SkyLink Japan :機体およびシステム提供、パイロット訓練、運航サポート、飛行申請サポート

インテグリティ・ヘルスケア :オンライン診療/オンライン服薬指導システム「YaDocQuick」の提供

東七 :医薬品および処方箋医薬品の運搬

藤村薬品 :医薬品および処方箋医薬品の運搬

久賀島について

 久賀島は、人口185世帯305人(2020年11月末時点、五島市住民台帳より)が暮らす、島全体が世界遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産となっているU字型の島である。福江島の対岸に定期船が発着する田ノ浦港があり、福江島から日に5便定期船が通う。港から山を越えた島の中心に小中学校、郵便局、診療所、商店などが位置し、医薬品等の配送等の際には、診療所の職員が港まで荷物を取りに行く。島内には14の集落が点在しており、それぞれ診療所等へ通う際の島内の陸路移動が高齢化(久賀島の高齢化率58.4%、同住民台帳より)とともに課題となっている。

参考:本実証に対する背景・目的

ANAホールディングス
 ANAHDでは航空機の安全運航に関する知見を活かし、ドローンオペレーターとして、五島市や福岡市にて無人地帯での補助者なし目視外飛行(レベル3)による実証実験を行う等、2022年度のレベル4解禁を目処としたドローン配送サービスの事業化にむけて、継続して検証を実施している。本実証では、Skylink Japan協力によりプロジェクトメンバーが訓練を受け、固定翼型VTOLの運航を行う。
▼ドローン配送事業化に向けた取り組み(https://www.facebook.com/ANA-Drone-103919601419057

武田薬品
 武田薬品は、持続可能性のある医療環境構築のサポート・醸成は、製薬企業が果たすべき責務の一つと考えている。本実証実験においても患者を中心に考えるというバリューに基づき、オンライン診療・オンライン服薬指導およびドローン配送を組み合わせることで、離島に住む患者の医薬品アクセスを向上し、地域医療課題の解決に貢献する。特に今回の実証では、難病症状等により通院負担の大きい患者の課題解決を目指す。

長崎大学
 長崎大学は2004年5月、長崎県と五島市による寄付講座「離島・へき地医療学講座」を開講し、離島での活動拠点として長崎県五島中央病院内に「離島医療研究所」を設置した。また、2013年7月に五島市福江総合福祉保健センター内に「先進予防医学研究所」を設置し、2つの研究所に計4名の教員が常駐して地域医療に関する研究と教育、離島の診療支援にあたっている。この研究所が中心となり、五島市と地域の医師会・薬剤師会等の協力を得ながら、集団健診と連携した地域疫学研究や医療情報等の解析・共有に関する研究を進めている。2018年以降は、オンライン診療関連の法制度の整備を受け、離島・へき地における医師・看護師・薬剤師の不足をオンライン診療・服薬指導で補う実証実験を施行している。椛島・黄島間および三井楽・嵯峨島間のオンライン診療・服薬指導は患者にも好評で、現在も継続中である。

五島市
 長崎県五島市では、二次離島地域をはじめとした市民の生活の利便性向上を目的とし2018年に「ドローンi-Landプロジェクト」を立ち上げ、ドローン等を用いた無人物流実証事業を継続して実施している。これまで、奈留島-前島、福江島-黄島/赤島/嵯峨ノ島間でドローン配送の実証を行い、この間に日用品の輸送に関する関係者や医療従事者との連携構築を行ってきた。そして今回、第4段となる福江島と久賀島間での実証において、福江島から診療所までをドローン輸送網でつなぎ、日常や緊急時における活用を検討する。