2020年11月6日、ドローン・ジャパンは、オープンソースソフトウェア「ArduPilot」(*1)を地上走行するローバー等の車両制御に転用するため、準天頂衛星システムサービスの委託事業として実証実験を実施したことを発表した。ArduPilotとみちびきSLAS(サブメータ級測位補強サービス)/CLAS(センチメータ級測位補強サービス)の技術を農地走行車に活用することで、圃場や農地を自律走行する搬送型農業機械の開発は可能であること、開発に要するコストを低減させる効果があることを確認できた。

 同社は、国が推進するスマート農業の実現に向け、農業へのドローン活用に関する技術開発および対応する技術者育成に創業以来取り組んできた。ドローンを農業の分野で様々な用途に活用するためオープンソースソフトウェアArduPilotの特性を活かし、高度なドローンの制御を低価格で提供することを目標に技術開発を進めてきたが、今回その技術を地上走行するローバー等の車両制御に転用するため、事業へのステップとしての実証実験を行った。

農地搬送ローバー

 空中を飛行するドローンの制御は若干の位置制御誤差も許容されるが、田畑での地上走行を想定する上では高精度な位置情報を基にした制御が求められる。そこで、高精度測位を可能とする準天頂衛星システム「みちびき」に注目し、ArduPilotとみちびきによる自律制御を可能とする農業搬送用ローバーの開発に取り組むことにしたという。

 農業分野における就農者数の減少と高齢化により、農具、肥料や収穫物等の重量物の搬送が農家の大きな課題として顕在化している。また、収穫・搬送用農業機械は高額で、用途別の仕様のため作物ごとに購入・調達が必要であることから機械化の障害となっており、収穫物等の重量物搬送の「自動化」「普及価格化」が急務となっている。

 そこで、従来と比べ大幅なコスト低減を実現した無人で自律走行する収穫物搬送機械の提供を目指し、以下を活用して試作の技術実証をしてきた。技術実証の成功に併せ、2022年度の事業化に向けた活動を開始するとしている。

1. オープンソース「ArduPilot」を活用したドローンの自律制御のためのソフトウェア開発
2.「準天頂衛星システム(みちびき)」による高精度測位

実証内容

 農業現場での多様な用途に合わせ、3種類の自律走行搬送ローバーを新たに設計開発。実際の利用状況を想定し、3台を自律的に同時走行させる実証実験を実施した。

特性の異なる3種の実験車両

両輪の回転差で走行制御する自作自律ローバー

自律搬送ローバー1

エンジン式市販クローラーの自律化

自律搬送ローバー2

4輪走行車でステアリング走行制御する市販ローバーの自律化

自律見回りローバー

複数ローバーのコントロールセンターでの設定

実証実験圃場でのテスト

・単車動作確認、環境地図作成
・複数動作確認

公開実証実験

 畑作露地作物の複数台の自律ローバーによる自動搬送を、事前に走路(農地~倉庫)を設定し、それに伴う自動搬送(作物や農業資材など)を行い、次の検証を実施した。

1. 空中ドローン用フライトコントローラーの陸上への適用時の課題整理
 開発の容易性/操作の簡素化/総コストの低減

2. 陸上における複数機体での精緻な走行検証
 設定コースの正確なトレースの検証/衝突防止/誤差範囲と搬送への影響の整理

3. 既存のGNSS/GPSと、みちびき(SLAS/CLAS)の比較検証
 測位精度と実走行への課題整理/開発の容易性、操作の簡素化/エラー事例の抽出と解決のための課題整理/コスト

4. 複数機体の運用に関する技術検証
 複数台同時自律走行/各役割に関する動作など

実証結果

 ArduPilotとみちびきSLAS(サブメータ級測位補強サービス)/CLAS(センチメータ級測位補強サービス)の技術を、農地走行車(圃場:土や傾斜が存在する場所)に活用することで、圃場や農地を自律走行する搬送型農業機械の開発は可能であることが確認された。
 また、オープンソースや国が整備した測位衛星等の汎用技術の活用による実現であるため、開発に要するコストを中小農家においても導入可能な価格レベルまで低減させる効果があることを確認できた。クローズド専用技術による新規開発する自律農業機械に比べて安価なコストでの提供が可能となれば、自動化やIT農業化の取り組みが遅れている中小規模農家にとっても導入可能な農業機械が提供できると期待される。
 さらに、ここで確認された技術は、収穫・搬送分野だけではなく様々な農業機械への応用へつながり、ArduPilotとみちびきSLAS/CLASの技術活用の余地は大きいものと想定されるという。

 一方、安定的な自律化に向けて、空中とは異なる陸上走行での障害物対策、振動対策、市販ガソリンエンジン車の自律化のためのデジタル-アナログのアクチュエーターの高度化など、事業化へむけた課題も明確に確認することができた。

ArduPilot+みちびきによる農業用搬送ローバーの自律化技術実証(ドローン・ジャパン)

ドローン・ジャパン 農業用 搬送用ローバーの特徴

1. ドローンおよびローバーリモートセンシングデータ解析に基づく搬送設定
 2016年から2020年の5か年・55,000ha・25作物分のデータをセンシング解析してきており、各々の収穫適期・収穫量・収穫場所を事前予測し搬送ローバーの稼働時期・走行場所を特定しながら搬送設定。

2. 搬送ローバーを制御するオープンソースソフトウェア「ArduPilot」の技術者
 2016年5月よりArduPilotの技術者育成事業を実施し、350人(2020年11月末現在)のArduPilot技術者を育成しており、オープンソースフリー、柔軟性の高い短期間開発可能とするためのリソースを確保。ドローン・ジャパンの農業事業とドローン技術者育成事業が連動し、ドローンおよびローバーがこの搬送用ローバーの開発以外にも農業シーンにおいて様々な活用・応用が広がりはじめている。

3. 高精度測位技術および農業機械工学研究 海津准教授との「みちびき・CLAS」精度実証
 東京大学院 農学生命科学研究科 生物機械工学研究室 海津准教授(ドローン・ジャパン技術顧問)と、様々な田畑圃場での自律ローバー実証を行っている。陸上、特に農地では空中に比べ、より精緻な走行が求めらるなかで、みちびきCLASの高精度測位により搬送用ローバ機の仕様を策定・実証することができた。

農業用 搬送用ローバー 今後の予定

・2020年度に共同開発パートナー(農業機械メーカー)との商品開発開始
・来年度に協力農家でのテスト稼働確認後、商品販売・出荷開始予定



*1 ArduPilot :多種多様なドローンを自律制御するためのオープンソースのソフトウェアプログラム。世界中の専門技術者とコンピュータ科学者が日々最新のソフトウェアモジュールを開発し開発者間で共有されている。多くの周辺サプライヤーがエコシステムを提供しているオープンソフトウェアであるため、多くのソフトウェア技術者が存在することから実証実験後においても周囲の技術進化に遅れることなくスムーズな事業活用につながることが期待される。