2020年10月12日、電源専業メーカーのVicorは、有線ドローンを開発しているDragon Picturesと協業したことを発表した。Vicorの高電圧BCMで給電することにより、高度なホバリングが可能な通信・監視システムを構築する。

UMARドローンは、諜報・監視・偵察活動(ISR)と、通信、ビデオアプリケーションのための通信タワーを即座に構築する。RFアンテナを搭載することで、船舶無線の見通し距離を8マイルから最大30マイルまで延ばすことができる。

長時間のホバリングが可能な有線ドローン

 固定翼ドローンは空中を高速で移動できるが、静止飛行をする用途には適していない。このホバリング機能は、空中で長時間の監視と通信を行うアプリケーションで特に重要である。

 小型の飛行船型無人機をワイヤーでつないだ初期の実験で、強風の中では空中で静止することが困難であるという根本的な課題が明らかになった。そこでDragonfly Picturesは新しいアプローチとして、決められた場所でホバリングができる新しいカテゴリーの有線ドローンを開発した。

 20分ごとのバッテリ―交換が必要なバッテリー駆動のマルチロータードローンと異なり、有線ドローンはベースステーションと接続されたワイヤーを通して電力を受け取るため、長時間飛行を続けることができる。Dragonfly Picturesの有線マルチロータードローンは、船やボート、トラック、無人艇、無人地上車両などに搭載した、移動式のホストプラットホームを追従するように設計されている。

 有線マルチロータードローンは、垂直離陸や着陸能力など固定翼ドローンより優れている点がある。滑走路や発射装置、回収装置は不要。小型飛行船とは異なり、荒天や風速が急に変化する場合でも決められた位置に静止し続けることができる。

 この有線ドローンは、実際の環境で様々な動作条件のテストが行われた後、現在、米国海軍の海洋環境における、諜報・監視・偵察活動(ISR)、通信、ビデオアプリケーション用途に使うための認証を取得している。

有線アーキテクチャの課題を解決

 Dragonfly Picturesのミリタリ/産業グレードの無人マルチローター空中中継器(UMAR)有線ドローンは、雨や雪、ほこり、熱に対する耐性があり、特に塩水の海洋環境で運用するのに適している。

 このUMARドローンは、最高500フィートの高度で運用できるが、ワイヤーによる連続給電ができるため、稼働時間は400時間を超える。ただし、有線のアーキテクチャは重要な設計上の課題がある。細くて軽いワイヤーを使うためには、電流値を極端に下げるために非常に高い電圧でホスト側の船舶からマルチロータードローンに電力を供給する必要がある。これによりドローンの機動力が上がり、積載量を増すことができる。

 UMARドローンは、動作電力が8~10kWであり、海上の嵐のような厳しい状況でも、空中で静止を続けられるようパワフルで堅牢にできている。ホストの船舶の位置は波や乱流の影響を受けるため、状況はさらに厳しくなる。これに対応するためには、ドローンの上昇下降とヨー制御のために、ローターのスピードを素早く加速することが必要である。状況に応じて瞬間的に加速したり、長時間の加減速を繰り返したりして高度を維持することになる。

 マルチロータードローンの内部に使う高電圧を変換するコンバータは、出来る限り小型で軽量にする必要がある。UMARにはPCB回路で複雑に相互接続された8つのローターがあり、電力変換のコンポーネントのサイズを小さくすることで、別の付加価値のあるコンポーネントを搭載することができる。例えば、RFアンテナを搭載したUMARドローンは、船舶無線の見通し距離を8マイルから最大30マイルまで延ばすことができる。

 Dragonfly PicturesのオペレーションVPであるJoe Pawelczyk氏は、次のように述べている。「Vicorの電源モジュールを使ったことで、ドローンを構成するコンポーネントの総重量を軽くすることができたので、ミッション機器を搭載した状態で、ドローンの高度と飛行速度を上げることができた。Vicorのコンバータより電力密度の高い電源モジュールは他にない。Vicorのモジュールを採用することで、我々は、機動性や性能、ホバリング制御について業界トップクラスのドローンを作ることができる。Dragonfly Picturesの有線ドローンは、搭載重量を増やし、より高く速く飛行することができる」。

電力密度を上げるために電源アーキテクチャを最適化

 電力の課題に対して、Dragonfly Picturesでは、Vicorの薄型のVIAパッケージのハイボルテージBCMを使うことで、UMARの内部において高効率(98%)で800Vから50Vに電圧変換する。BCMは小型でどこにでも取付けられるので、ドローン搭載機器の電力密度を非常に高くして軽くすることができる。

 8個のVicorのハイボルテージBCMが並列接続されて、Dragonfly PictureのUMARの8つの独立したローターへ電力を供給する。ローター間で電力を共有して冗長性を高める。VicorのBCMは、本質的に高調波ノイズが無く、BCM内部に組み込まれたフィルターの効果と合わせて、EMIノイズを非常に小さくすることができる。そのため従来のDC-DCコンバータの場合と比べて、サイズと重量を減らすことが可能である。もし従来のDC-DCコンバータで、ノイズフィルターを付けなければ、ドローンとホスト船舶の間のRF通信の妨害や、EMI基準を満たさない危険がある。

Dragonfly PicturesのUMARは、独立した8つのローターに電力を供給するために、8つのVicorハイボルテージBCMを用いる。ローター間で電力を共有して冗長性を高める。

 現在、米国海軍で実施している試験配備に加えて、Dragonfly Picturesのテクノロジーは、多くの政府機関や企業、その他の団体で評価されており、災害救援の初動や広範囲の監視(公開のイベントやスタジアムのセキュリティなど)の用途に期待されているという。

▼Dragonfly Pictures有線ドローンについて (Vicor)
http://www.vicorpower.com/ja-jp/resource-library/case-studies/dragonfly-uav

Vicor Corporation

 Vicor Corporationは、高性能モジュール型電源コンポーネントの設計、製造、販売を行う米国(本社:マサチューセッツ州アンドーバー)の電源専業メーカー。HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)、オートモーティブ、通信ネットワーク、産業機器、ロボティクス、鉄道、航空防衛アプリケーションなどへ向けて、広く事業を展開している。日本法人のVicor株式会社(Vicor KK)は2017年に設立され、電源コンポーネントの販売・技術サポートを行っている。

Dragonfly Pictures, Inc.

 Dragonfly Picturesは、米国(本社:ペンシルバニア州)の小型回転翼の無人航空機(UAV)を開発する企業。革新的な回転翼航空機の設計技術、広範なテスト知識により堅牢で低コストのUAVを供給している。同社のUAVは、地表に近い環境で複雑な地形、都市やジャングル、山岳地帯などの限定された環境下で戦術的活動ができるように設計されている。

【参考動画】UMAR - Unmanned Multirotor Aerial Relay(Dragonfly Pictures, Inc.)