2020年9月29日、自動航行で動くヨットの開発を行うエバーブルーテクノロジーズは、樹脂ペレットタイプの大型3Dプリンターを中心とした新しい造形加工機の開発を手がけるEXTRABOLDと業務提携し、技術開発および実証テストを進めてきた帆船型ドローン「type-A」の実運用に向け、量産体制を見据えた共同開発に着手したことを発表した。

3Dプリンターによる量産体制

 小型船はFRPで製造するのが一般的だが、型を作る必要があること、少量多種生産のケースでは型の製造・改修費用がかさむことなどから効率的ではなかった。一方3Dプリンターを活用したデジタルファブリケーションは、CADデータから直接造形するため、設計開発スピードは早いものの、造形サイズに制限があること、造形スピードの制約から製造時間がかかることなどが課題となっていた。

 EXTRABOLD社が展開する大型3Dプリンター「EXF-12」は、造形サイズが最大長1,700mm、吐出量15kg/h(換算値)と大型かつ高速のため、以下のような大きなメリットが見込める。

・造形(制作)工数の大幅な短縮 :従来40時間以上かかっていたメインハル(船体、船殻)の造形時間が約7時間に短縮

・一体構造出力による性能向上 :分割せず一体構造で出せることから、強度の向上、同時に耐水性や耐久性の向上や軽量化が見込める

大型3Dプリンター「EXF-12」で「Type-A」プロトタイプのメインハルを出力する様子

 Type-Aプロトタイプでは、1mクラスの大型3Dプリンターを利用してハルを2分割(バンパーを含めると3分割)構造で出力しており、中央部で接着・ボルト締結する必要があった。

 EXF-12を利用した場合、ハルを一体化した状態で造形することが可能なため、組立工程が省けるとともに、造形方向を従来の(進行方向に向かって)垂直方向から水平方向にすることにより、強度を高めることが可能である。また、ノズル径3mm(最大8mm)、積層ピッチ1.5mmにすることで、内部構造を空洞にして軽量化するインフィルを使わずともに一様で厚い壁面を作り防水構造にすることが可能である。

大型3Dプリンター「EXF-12」で「Type-A」プロトタイプのメインハルを出力する様子のアップ

 これら組立工程、防水処理の省略などの後工程が簡略化されることで、プロトタイプでは数週間かかっていた製造期間を数日、ゆくゆくは1日にまで短縮し、量産体制を整備したいという。

 ハルに使用したペレットはリサイクル可能な素材のため、船体が不要になった際には粉砕し、再びペレットとして再利用可能となり、現在FRP船で問題となっている廃棄プラスチックを最小限にすることができる。

実用化に向けた量産体制とビジネスモデルについて

 Type-A量産型では漁業、海洋調査用途にフォーカスし、魚群探索や詳細海底地図作成を自動かつ無人で行うことができる。これまで有人で行っていたこれらの作業を、無人操船ヨットを複数同時に稼働させることで、広範囲かつ短時間で実施することを可能とする。

 これをサブスクリプションモデルで関東からサービス提供を開始し、将来的には全国の海岸線での運用を目指す、としている。

エバーブルーテクノロジーズ、帆船型ドローンの開発背景

 同社は、従来の動力船を自動操船技術による効率的な自動帆走に置き換えることで、地球温暖化ガスを抑制し、持続可能な社会の実現に貢献することを目指している。

 近年、あらゆる産業で地球温暖化防止のための施策が求められているが、海上を舞台とする産業ではいまだ内燃機関が主力であり、決定的な方策が打ち出されていない。また、陸上交通の電動化による将来的な電力不足も予測される中、国土の狭い日本では太陽光発電による電力供給に限界があることから、波力、潮力、地熱、風力といった海上の再生可能エネルギーの活用が注目されている。

 しかし海中送電ケーブルの敷設コストの高さや、動力船を電気推進船に置き換えるための大型バッテリー積載容量、重量、充電時間確保といったハードルから、海上の再生可能エネルギーの活用も現実的ではない。一部では水素を使った燃料電池の活用が有望ともいわれているが、そのためには低コストで水素を大量に用意する必要があり、実現には時間がかかると考えられている。こうした課題の解決策として、産業革命以前の海上交通で活用されていた帆走に着目したという。

 海上の再生可能エネルギーを水素に変換して自動操船ヨットで運搬することにより、海上水素サプライチェーンを構築し、動力船をゼロエミッションの帆船または電気推進船に置き換えていく未来を目指している。

オリジナルプロトタイプ「Type-A」

エバーブルーテクノロジーズについて

 自動航行で動くヨットの開発、設計、運用、製造販売および関連サービスを行う。2019年2月、シリアル・アントレプレナー(連続起業家)の孫泰蔵氏が代表を務めるMistletoeより1億円の投資を受ける。2021年までに航行可能なHunter(仮)の実モデル(MVP)の設計開発を行う計画。現在は、プロトタイプの設計、実証実験を行い実用化に向けて活動中である。

ExtraBoldについて

 プラスチックを循環させる3Dプリンターシステムを研究開発する会社として、Mistletoeの出資を受けて2017年12月に設立。コンテナサイズの大型3Dプリンター「EXF」シリーズを開発し、様々なプロジェクトで実験的な活用をしている。2020年4月にリリースした最新機「EXF-12」を、阪大3Dプリントフェイスシールドのプロジェクトに実践投入した。また、2020年9月に開催された第8回ディープテックグラプリにて最優秀賞を受賞。シンガポールにR&Dのための関連会社を設立。今までにない新しい3Dプリントシステムを目指し、研究開発中である。