2020年8月5日、長野県伊那市は、KDDIと「空飛ぶデリバリーサービス構築事業」としてともに実証を重ね構築した、ドローンによる商品配達を行う支え合い買物サービス「ゆうあいマーケット」を、伊那ケーブルテレビジョン(以下ICT)と同日より開始することを発表した。

 少子高齢化に伴う買い物困難者が増加する中、食料品などの日用品をケーブルテレビのリモコンで手軽に注文しドローンによる当日配送を実現することで、買い物困難者を支援するとともに、買物支援の担い手不足などの地域課題解決を図っていく。

 なお、自治体が運営主体となってドローン配送事業の本格運用を開始するのは、日本で初めての取り組みである(伊那市調べ、2020年8月5日時点)。

サービス概要

 配送用ドローンは、KDDIのモバイル通信ネットワークに対応し、目視外自律飛行、遠隔監視制御が可能なスマートドローンである。日用品など最大5kgまで積載し、約7km離れた地点までの配送を行う。また、本サービスは、ドローン配送だけでなく、地域住民の見守りを行う集落支援員による陸送も実施する、新しいテクノロジーとマンパワーを融合したサービスとなる。

 3者は今後も、地域課題解決のリファレンスモデルとなる持続可能な取り組みを進めていく、としている。

導入背景

 伊那市は、南アルプスと中央アルプスの二つのアルプスの山々に囲まれた地方都市である。中山間地やその周辺の地域での暮らしは高低差もあり移動が大変なところが多く、山あいの集落は少子高齢化も進んでいる。

 伊那市では、近年、物流や交通、買物などが地域課題となっており、高齢者を中心に食料品をはじめとする日用品などの買物困難者が増加している。市民の暮らしをよりよいものにするため、地域住民や地元企業と連携し、ドローンを用いた新たな物流システムを構築することにより、中山間地域における買物困難者支援と地域経済の振興を目指す。

サービス概要

 本サービスは、ドローンによる配送だけでなく、利用者の見守りを行う集落支援員による陸送も実施する、新しいテクノロジーとマンパワーを融合したサービスである。また、新型コロナウイルス感染症拡大の影響が広がる中で、山間部に住む高齢者を中心に、3密を避けた新たな買物の手段を確立できるため、今後の活用が期待されている。

1. 利用方法

(1)ケーブルテレビの画面で商品を注文。午前11時までに注文を受けた商品は、その日の夕方には利用者宅へ配達する。

(2)注文された商品は、ドローンを使って近隣の公民館まで配送される。ドローンで運ぶことのできない荷物については、軽自動車で運ばれる。

(3)利用者はドローンの着陸地点である近隣の公民館に荷物の受け取りに行く。取りに行くことができない場合は、ボランティアが配達を行う。

(4)ケーブルテレビ利用料と一緒に口座振替で支払いを行う。

公民館へ商品を運ぶドローン

2. 対象地域

 伊那市長谷地域の非持・溝口・黒河内・中尾区からサービスを開始し、順次、地域を拡大していく。

3. 注文システムについて

 テレビ放送にインターネット通信を連携させたハイブリッド・キャストデータ放送システムを使ってテレビから注文を行う。使い慣れたリモコンを使うため、操作が簡単である。

 なお、ケーブルテレビを用いたこのシステムは、買物だけでなく、AI乗り合いタクシーの予約や、見守りサポートといった機能も搭載しており、将来的には、遠隔診療車の予約機能などを加えて利用ができるようになる予定である。

4. 配送に利用するドローンについて

 配送に利用されるドローンは、KDDIのモバイル通信ネットワークに対応し、目視外自律飛行、遠隔監視制御が可能なスマートドローンである。本サービスでは、日用品など最大5kgまで積載することが可能。荷物と機体の重さを合わせると25kg以上となり、約7km離れた地点まで配送を実施する。

 なお、本サービスは航空法に基づく「補助者無し目視外飛行」と「最大離陸重量25kg以上の無人航空機の機能及び性能」の承認下でのサービスとなる。

配送に利用するドローン

参考

これまでのドローン物流事業の取り組み

 伊那市は、2018年から物流拠点から各集落までのローカルエリア配送や、買い物の注文から決済までをケーブルテレビのリモコンを使って実現する「空飛ぶデリバリーサービス構築事業(受託者:KDDI)」と、河川上空をドローン物流航路として、中心市街地と中山間地域の物流拠点を結ぶ「INAドローン アクア・スカイウェイ事業(受託者:ゼンリン)」の開発・実証を重ねてきた。

 今回は「空飛ぶデリバリーサービス構築事業」をベースに、ICTを事業受託者とし、KDDIのサポートを受けながら実際に事業を運用していく地元事業者やボランティア体制などの調整を進め、伊那市議会6月定例会において「伊那市支え合い買物サービス条例」が可決された。2020年6月から7月にかけては、お試しキャンペーンとしてテスト運用を実施し、事業者や利用者の声を反映させて、今回の本格運用開始となった。

伊那市について

 伊那市は長野県南部に位置し、人口は約68,000人、南アルプスと中央アルプスの2つのアルプスに囲まれ、市の中央部を天竜川と三峰川が流れる豊かな自然と歴史・文化が育まれた自然共生都市である。市内を南北に走る中央自動車道や国道153号などの幹線道路が整備され、東京・名古屋のほぼ中央に位置し商工業にとって優良な立地条件であり、電機、精密、機械などの高度な加工技術産業や食品などの健康長寿関連産業が発展し、モノづくり産業の拠点として、いくつもの工業団地が形成されている。また、肥沃な土地と豊かで良質な三峰山系の水を活かした、米作り、花卉などの農業も盛んである。

 特色ある伝統文化が各地で継承され、またかつての高遠藩の藩校「進徳館」に象徴される教育的風土が多様な人材を輩出してきた。さらに「天下第一の桜」と称される高遠城址公園の桜や、高遠石工による石仏群、南アルプス国立公園といった観光資源があり、多くの観光客が訪れている。

伊那市ホームページ https://www.inacity.jp/

伊那市の新産業技術の取り組み

 伊那市は、今後の人口減少や少子高齢化に起因するさまざまな課題に対応し、それぞれの地域で住みよい環境を確保し、将来にわたって、活力ある地域社会を維持していくことを目的とする「新産業技術推進ビジョン」を2018年3月に策定した。目指す姿である「伊那市に生きる、ここに暮らし続ける」の実現に向け、5つの分野(既存産業活性化、伊那新産業創出、住みよさの向上、行政サービスの拡充、新産業時代の人材育成)において産学官連携による新産業技術推進協議会を中心に、地域課題の解決及び活力と魅力があふれる伊那市の実現を目指して事業を展開している。

KDDIについて

 KDDIは、これからも事業を通じてさまざまな社会課題の解決に取り組み続けるという決意をこめ、2030年を見据えたKDDIのSDGs「KDDI Sustainable Action~私たちの『つなぐチカラ』は、未来のためにある~」を策定した。今回の取り組みは「暮らしをつなぐ~地方・都市の持続的発展~」「心をつなぐ~安心で豊かなデジタル社会構築~」に該当する。

KDDIのスマートドローンについて

 KDDIは、モバイル通信を用いた遠隔監視/制御により、ドローンの目視外自律飛行を実現するスマートドローンプラットフォームを開発している。今回は、そのプラットフォームを活用し、ドローン商用配送を実現している。

スマートドローンホームページ http://smartdrone.kddi.com/

ICTについて

 伊那ケーブルテレビジョン(ICT)は、1986年11月1日に開局し、伊那市、箕輪町、南箕輪村の3市町村をエリアとするケーブルテレビ局である。「地域から必要とされ、頼られ、期待されるケーブルテレビをめざします。」を経営理念とし、現在BS4K放送を含む79チャンネルをサービスしている。2001年にインターネット事業、2011年にケーブルプラス電話事業、2016年にMVNO事業、令和元年にケーブルプラスでんき事業も開始した。

 自主制作番組、自主放送の取組みにも力をいれており、各種コンクールで受賞を重ねていて、今年は日本ケーブルテレビ連盟の第13回ベストプロモーション大賞を受賞した。平成18年には伊那市と災害時の応援協定を締結し、7月豪雨の天竜川決壊時には数日間にわたり災害情報を提供した。

 現在、伊那市とのライフサポート事業で、ぐるっとタクシー、ゆうあいマーケットなど地域住民がより安心して利用できるサービスの提供に取り組んでいる。

伊那ケーブルテレビジョンホームページ http://www.inacatv.co.jp/