2020年4月7日、ジョイソン・セイフティ・システムズ・ジャパン(以下JSSJ)、ミズノとCARTIVATOR、SkyDriveは、2023年の実用化を目指してCARTIVATORとSkyDriveが開発を進める『空飛ぶクルマ』(※1)の乗員用座席の共同開発を進め、性能確認試験を開始したことを発表した。

2020年3月3日、性能確認試験現場にて

共同開発に至った経緯

 CARTIVATORとSkyDriveは、『空飛ぶクルマ』の共同開発を進め、2023年の販売開始を目指している。機体開発を進めて行く中で、非常着陸時に乗員を保護する衝撃緩衝機能が備わった乗員用の座席は、『空飛ぶクルマ』の構成品の中で最も重要な部品のひとつであるが、航空機レベルの性能を有する既製品が大変希少で入手が困難であるということ、また入手できたとしても、既製品は既存の航空機用に開発されているため、『空飛ぶクルマ』と使用状態の想定に違いがあり、取扱いが難しいということがこれまでの課題であった。

 そんな中、シートベルト、エアバッグ、チャイルドシート等の開発を進め、1世紀以上にわたり自動車の安全分野を開拓してきたJSSJと、スポーツ品メーカーであるミズノがシューズのクッション性と安定性を両立させるためソール部分の基幹機能として用いる独自の波形プレート『ミズノウエーブ』(※2)の技術を応用し、4社で、軽量高性能な「衝撃緩衝装置が内蔵されたシート」の開発を進める事となった。

 この1年、研究開発を進め、今回性能確認試験を実施した。性能確認試験の概要と結果は以下のとおり。

性能確認試験 概要・結果

日時 :2020年3月3日(火)
場所 :ジョイソン・セイフティ・システムズ・ジャパン 愛知川製造所
試験内容 :衝撃緩衝装置(ミズノウエーブ)内蔵の『空飛ぶクルマ』乗員用座席プロトタイプの性能確認を目的とした試験で、自動車のシートベルトやエアバッグの性能確認用に衝突状態の模擬を実施できるSLED試験機を使用した。試験の結果、ミズノウエーブについては、設計通りの性能を発揮することが確認できたほか、一般的な航空機用の座席よりも乗員の腰椎の負担(荷重レベル)をかなり低く抑えることが出来る可能性があるということも分かった。

性能確認試験の様子

共同開発する乗員用座席の特長

 従来のミズノウエーブと同様に、材料物性の調整ではなくウエーブプレートの形状を調整することで、所望の構造特性を衝撃緩衝装置部分に与えることができるため、短期間で多くの開発サイクルを回すことが可能となり、開発期間の短縮化を図ることができる。また、ウエーブプレートの特性上、クッション性と安定性という背反する機能を共存させることができるため、一般的な衝撃緩衝装置付きの座席には必要ないくつかの構成要素を省略することができ、軽量化が図りやすいという特長を持っている。

開発中のシート
ミズノウエーブの技術を応用した緩衝装置
ミズノウエーブ

各社コメント

JSSJ 技術本部 本部長 熊谷氏

 CARTIVATOR様よりこの開発のお話しを頂き、空飛ぶクルマ?おもしろい!この安全づくり、やろーや!と言った若手エンジニアの掛け声から参加が始まりました。
 乗員の安全技術構築のサポートを行っておりますが、次世代モビリティの事故形態や乗員の傷害実態は従来とは大きく異なることが想定され、何をすべきか想像すらできません。
 次世代のモビリティ社会の安全をつくる!という「夢」を追う開発を、高い技術力をお持ちのミズノ様から良き刺激を頂きながら開発に取り組んでいける環境に、本当に感謝しております。
 このようなワクワクする貴重な機会を設けて頂いたCARTIVATOR様、SkyDrive様、ミズノ様に感謝申し上げると共に、未来への実安全の構築に向けて全力で取り組んで参ります。

ミズノ グローバル研究開発部 技監 金子氏

 関係者一同大きな喜びを感じながら、「空飛ぶクルマ」の開発に携わらせていただいております。通常、シューズの緩衝性能はミッドソールと呼ばれるスポンジの物性によりコントロールされます。一方、ミズノウエーブはシューズに内蔵された波形のプレートの波長や振幅を調整することで性能をコントロールするものです。要求されるエネルギー吸収量や許容される荷重が決まればそれに応じた形状を決定することが可能です。
 この特性を生かして今回の安全装置の開発にたどり着くことが出来ました。
 ミズノウエーブのこれらの特性に着目してくださったCARTIVATOR様エンジニアチーム、性能テストに関して常に迅速で正確な技術対応をしてくださるJSSJ様エンジニアチームに改めて感謝いたします。

CARTIVATOR 共同代表、SkyDrive 代表取締役 福澤氏

 CARTIVATORは空飛ぶクルマの2020年夏のデモフライト実現、SkyDriveは2023年の実用化を目指し、日本発の新しいモビリティ『空飛ぶクルマ』の共同開発を推進しています。空飛ぶクルマで最も重要なのは、十分に安全性を確保することです。安全な機体を作ることが大前提ですが、万が一の際に備えて乗員を安全に守る技術が重要です。今回、長年の間安全装置や衝撃吸収でグローバルをリードされてきたJSSJ様、ミズノ様と共に乗員用座席を開発させて頂く運びとなり、非常に有難く感じております。今後も2023年の実用化に向けて、開発を加速して参ります。

CARTIVATOR チーフエンジニア 松橋氏

 非常に早い開発スピードと、確実な安全性をいかに両立させるか。空飛ぶクルマの機体開発で常に頭を悩ませる難題ですが、ミズノウエーブの技術は正にそのような超短期間の開発に確実な性能を発揮しサポートしてくれる、優れた技術であると考えています。『空飛ぶクルマ』という、皆にとって未知の領域を開拓しながら、また人命に関わる要素技術ということで大変な開発ですが、豊富な経験と知識、安全に対する情熱をもって試験を常に先回りしてサポートして下さっているJSSJさん、いつも柔軟な発想でスピーディーに課題への答えを出して下さるミズノさんとの素晴らしいチームでの開発が一定の成果を出す段階まで来ており、この場を借り改めて御礼申し上げます。

 今後も、安全を最優先に4社で『空飛ぶクルマ』の乗員用座席の開発を推進し、新たなモビリティ社会の創造に貢献していく、としている。

※1 空飛ぶクルマ
空飛ぶクルマとは、正式名称を「電動垂直離着陸型無操縦者航空機」と呼ばれ、電動化、完全自律の自動操縦、垂直離着陸が大きな特徴である。モビリティ分野の新たな動きとして、世界各国で空飛ぶクルマの開発が進んでおり、日本においても都市部でのタクシーサービス、離島や山間部の新たな移動手段、災害時の救急搬送などにつながるものとして期待されている。既存の航空機に比べて低コスト・低騒音、かつ離発着場所もコンパクトになるため、空の移動がより日常的になると考えられる。2040年にはグローバルで150兆円の市場規模に達すると予測されており(Morgan Stanley調査)まさに、次世代産業の1つである。日本においても、2018年から「空の移動革命に向けた官民協議会」が開催され、2023年の事業開始、2030年の本格普及に向けたロードマップ(経済産業省・国土交通省)が制定されている。先進国においては渋滞緩和、災害時利用、新興国においては、インフラ不要の移動手段としての活用が見込まれている。

※2 ミズノウエーブ
ミズノ独自の波形プレート。縦方向の衝撃を吸収し、横方向のズレには安定性を発揮することで、シューズに求められるクッション性と安定性を両立させている。